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第2節 

1 循環型産業システムに向けての実践

(1) 廃棄物ゼロを目指すゼロエミッション構想が意味するもの
 既に述べた「無限で劣化しない地球」から「有限で劣化する地球」への社会的な意識の変化などを背景に、「ゼロエミッション」という考え方が広く注目されてきている。これは、直接には平成6年の国連大学によるゼロエミッション研究構想の提唱でこの言葉が用いられ始めたものであり、多様な意味で使われることもあるが、中心的な意味内容とされているものは、産業活動に伴う廃棄物等に起因する環境負荷をできる限りゼロに近づけるため、産業における生産等の工程を再編成し、廃棄物の発生を抑えた新たな循環型産業システムを構築することを目指すというものである。
 より具体的には、「A社から排出された廃棄物をB社が原材料として使用し、B社から排出された廃棄物をC社が原材料として使用する」といった、資源循環型の産業連鎖が可能になる新しい産業システムをつくり上げ、これにより最終的に廃棄物を限りなくゼロに近づけようというものである。ここでは、一企業や一産業では自社内等で発生する廃棄物を極力最小化し再利用や再資源化を最大にしてもなお発生する廃棄物を、他の企業や産業と連携を図ることによって適切にリサイクルしていくとともに、廃棄物処理を再生物の生産へと変えていこうとするものでもある。このゼロエミッションを推進するためには、これまで関係の薄かった異業種企業間の情報交換や密接な連携が重要になってくるとともに、このようなことを通じた産業連鎖を可能にするための新しい技術等も必要となる。
(2) 国母工業団地の取組
 国母工業団地は、山梨県甲府市の中心部から西南方向に約5キロほど離れたところに位置し、甲府市、昭和町、玉穂町にまたがる地域にある。
 工業団地は、電気機器や部品の製造企業など23の企業から構成され、平成4年に「環境調和型工業団地の確立」を目指すため、団地内で発生する廃棄物の共同回収及びリサイクルの実施などを目標に掲げ「産業廃棄物処理研究会」を設置した。
 山梨県内には管理型の最終処分場がないため、団地内で発生する産業廃棄物は、県外の処分場に依存せざるを得ない状況にあるが、産業廃棄物の持ち込みに関するトラブルが全国で多発し、団地内の生産活動に大きな支障が生じることが懸念された。このため、研究会では、産業廃棄物の削減のために、「生産方式の改善や設計変更による原材料のムダの削除」、「通い箱の使用による物流面からのムダの削除」、「両面コピーの活用や回覧方式によるコピー用紙削除」、「分別回収・再利用・再資源化の徹底」について検討し、平成7年11月から紙類の共同回収、リサイクルシステムをスタートさせた。(第1-2-1図)
 それまで、団地内で発生するコピー用紙や新聞・雑誌などは、各社がそれぞれ処理してきたが、これらは上質紙、新聞・雑誌、パンフレットその他に分別され、団地内共同の「リサイクル推進車」により回収された後、製紙工場に運ばれ、上質紙は上質紙に、新聞・雑誌、パンフレットその他はトイレットペーパーに再生され、工業団地内各社によって購入されている。
 リサイクルを推進する上で重要なことは、廃棄物を単に分別し資源化するだけでなく、資源として再利用した商品を購入し、使用するところまで責任を持つことであり、この点、この国母工業団地では、団地内ではあるにしてもリサイクルの輪がつくられているといえる。
 第2ステップとして、平成9年1月から各企業から排出される廃プラスチック、木くずなどのリサイクルシステムを稼働させた。これは、従来焼却処理や埋立処分を行っていた廃棄物を、県内のRDF施設で固形燃料化し、県外のセメント会社に燃料として供給しているものである。研究会では、団地内で発電施設を整備し、このRDFを利用した発電事業の取組についても検討されている。
 第3のステップとして、現在、各企業の食堂から出される生ごみをコンポスト化し、それを近隣農家に堆肥として供給し、そこで栽培された有機農産物を食材として買い入れるリサイクルシステムを検討している。
 国母工業団地の取組の特徴は、既存の工業団地で、自発的に具体化しやすい取組からスタートし、廃棄物を資源化するだけでなく、その再生物を自ら利用することによりつないだリサイクルの輪を核として、地域へと広げていく「ゼロエミッション進行形」といえる。


(3) ゼロエミッション工業団地
 環境事業団では、住工混在地域における中小企業の産業公害防止を主たる目的とした「集団設置建物建設譲渡事業」を実施してきたが、個々の企業では資源循環に向けた対策等を進めることが困難な中小企業を対象として、その集団化を図り、資源循環型社会の構成員としての企業団地の実現を支援する新たな建設譲渡事業としての環境共生型企業団地=「ゼロエミッション団地」事業を行うこととしている。
 その最初の事業として、現在川崎市と進めている臨海部の資源循環型を目指す産業を中心とする中小企業工業団地の建設がある。ここでは、企業間の結びつきや周辺地域にある既存企業との有機的な連携による「資源循環型(ゼロエミッション)工業団地」を目指している。川崎市では、これを中核に周囲の大企業等の工場及び施設のリサイクル技術等と連携させて、市の臨海工業地帯全域を対象とした環境調和型まちづくり構想地区として循環型産業システムの構築を目指している。
 企業団地の新たな形態として今後の動向が注目されるが、「ゼロエミッション団地」の第二の事業として、後で述べる北九州市の総合環境コンビナート事業と連携し、地場の中小処理業者や解体業者のレベルアップとリサイクル業としての高度化を目指した中小企業向けリサイクル団地の構想が北九州市と環境事業団の間で検討されている。
(4) 彩の国倍プラント化計画
 埼玉県では、県内の広域的な廃棄物処理・リサイクルシステム(ローカル・ゼロエミッション)の構築に向けた一環として、県内で稼働しているセメント工場の生産設備において県内の各種の廃棄物を原料又は燃料として活用するための事業(生産設備活用事業)を「彩の国倍プラント化計画」と命名し、平成8年度からその具体化のための検討を始めた。
 埼玉県内には、現在3社4工場のセメント工場があるが、各工場とも、秩父山地に産するセメント原料の良質な石灰石を求め、県北西部に立地している。セメントの製造に必要な原料は、石灰原料、粘土質原料、ケイ酸質原料などがあり、製鉄所から出される高炉スラグ、火力発電所から排出される石炭灰等も粘土質原料と同じ目的で利用されている。例えば、平成8年における埼玉県内の4工場が受け入れた廃棄物の量及び種類別割合は、第1-2-1表及び第1-2-2図のとおりである。このうち、高炉スラグ、副産石こう、石炭灰、非鉄鉱滓等はセメントの原料に使用され、廃油、廃タイヤ等は燃料として活用されている。
 埼玉県内の廃棄物の排出、処理状況を見ると、平成6年度の一般廃棄物の総排出量は約225万8千tで、最終処分された量は約35万1千tであった。そのうち13万9千tが県外で処理された。産業廃棄物の総排出量は約1,297万5千tで、埋立処分された量は約114万4千tであった。そのうち100万7千tが県外で処理された。
 こうした状況下で、埼玉県では、県内で発生が予想される廃棄物のうち、下水汚泥(脱水ケーキ又は焼却灰)、浄水場発生土(脱水ケーキ)、鋳物廃砂、都市ごみ焼却灰の4種類について、県内の既存セメント工場でセメント原料として受け入れ可能量や減量化・再資源化推進の可能性を検討した。その結果、下水汚泥(脱水ケーキ)、都市ごみ焼却灰以外は、未リサイクル量の全量を受け入れることが可能と判断した。下水汚泥については、脱水ケーキの状態での受け入れは臭気や管理上の問題が残るが、焼却灰の形態であれば受け入れが可能と判断した。また、都市ごみ焼却灰は、灰中の塩素の濃度が問題となり、現時点では受け入れ可能量は少ないと判断したが、このリサイクル阻害要因の除去技術、すなわち脱塩処理技術の実証試験も行われている現状からみて、今後における受け入れは十分可能であるとされた。さらに、今後の課題としては、セメントの原料や燃料として受け入れる廃棄物に含まれるリンや重金属などの有害な物質を除去する技術の実用化等の重要性が指摘されている。
囲み1-2-1 埼玉ゼロエミッション推進事業
 埼玉県は、廃棄物の環境への放出をゼロとする資源循環型社会を構築するため、埼玉ゼロエミッション・アクションプランの策定と推進、ゼロエミッション思想の普及啓発、ゼロエミッション技術の実証試験と実用化に取り組む「埼玉ゼロエミッション推進事業」を実施している。
 平成9年度に策定したゼロエミッション・アクションプランは、資源循環型社会を構築するため、県民一人ひとりや企業がとるべき行動を具体的に示すとともに、県民や企業の行動を支える行政の施策も示している。
 また、ゼロエミッション技術の実証試験としては、セメント工場を活用したごみ焼却灰をはじめ各種廃棄物のセメント原料化の実験や、焼却灰の溶融スラグ化とその有効利用の促進を図っていくこととしている。
 県では、埼玉ゼロエミッション推進事業を促進し、最終処分量の削減と最終処分の県外依存からの脱却、ダイオキシン類の削減、廃棄物の焼却・埋立方式から循環型処理方式への転換を図り循環型の地域社会の実現を目指している。

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