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第1章 循環型経済社会への動き

 序章でも見たように、大量生産・大量消費・大量廃棄に象徴される現代の経済社会は、天然資源を大量投入するとともに、生産や消費の結果としての大量の廃棄物や排出ガス、排水等を放出し、その行き先として大気や海洋、土壌等の拡散・浄化能力を暗黙のうちに想定するなど、資源や環境に限界がないことを事実上の前提として成り立っているともいえる。
 このような社会における大量生産等の進展は、地球温暖化問題などに象徴的に表れているように、現代の経済社会を資源の面でも環境の面でも地球的規模での限界が見えつつある状況に立ち至らしめている。そこにおいては、従来暗黙のうちに想定されていた「無限で劣化しない地球」という前提が崩れ、「有限で劣化する地球」という厳然たる事実が改めて切実に意識され始めている。
 翻って、経済・産業のシステムは、人体に喩えれば、モノの生産から流通、消費までの動脈部分(それを産業として担う動脈産業)と、消費(生産による資源消費も含め)後の廃棄物等の収集、処理、再生・再資源化を担い再生産につないでいく静脈部分(それが産業として担われる場合は静脈産業)の両面から成り立つものである。このため、人体のように、両者が適切に結合し隙間や穴のない循環の輪が完結したシステムを形成してこそ、環境に与える負荷の少ない、有限な地球環境の下での持続可能な経済社会システムとなり得る。しかしながら、冒頭で述べたような現代社会においては、動脈部分に大きな力が注がれ、静脈部分は日が当てられることなく、ないがしろにされているという産業構造となってきている。すなわち、再生資源の最大活用など資源のリサイクルに適切な配慮がなされることなく天然資源が生産に投入され、その消費等から発生する廃棄物等の多くを環境への負荷として安易に最終処分することで放出するという一方通行システムが主流である。静脈部分には、その機能を発揮するために必要な栄養分、すなわち適正な処理・リサイクルのためのコストが十分に回ることなく、そのため健全に成熟した産業として確立されず、穴だらけの不完全な構造に留まらざるを得ないというのが現状である。
 したがって、資源と環境の両面での負荷の大幅な削減を図り、有限な地球環境と共生した経済社会の持続可能性を取り戻していくためには、環境負荷を適正処理・リサイクル等の過程で吸収していく人体でいえば肝臓や腎臓が組み込まれた静脈部分を適切に機能させる必要がある。そのためには、静脈部分を経済システムの一方の主体として正当に評価し、環境負荷として社会的コストとなっていたものを内部化することにより、必要かつ適正な費用が流入し組み込まれることで静脈産業として確立させ、そのことを梃子にして、全体の循環の輪を適切につないだ循環型経済社会システムを構築していくことが、必要不可欠な条件となる。そこにおいては、資源(環境)の面すなわち経済システムの入口では、天然資源等の利用の適正化を図るとともに、再生物(リサイクルによって有用となった物)の最大活用を組み込んでいくことになる一方、環境(容量)の面すなわち経済システムの出口では、廃棄物の最終処分量の最小化が図られ、併せて有害な物質の適正な管理や処理が組み込まれていくとともに、リサイクルの最大化が技術とシステムの両面から進められることになる。
 本章においては、以上のことを念頭に置きながら、まず、第1節においては、今日の経済社会における廃棄物・リサイクルをめぐる問題状況を具体的に分析するとともに、それらへの対応の中に循環の輪をつくり・つなげていく契機や方向性を探ってみたい。続いて、第2節ではゼロエミッションという言葉に代表される、循環型の産業構造づくりの一端を、地域的な循環型産業システムの構築を梃子に、戦略的に担おうとしている事例を紹介しつつ、循環型経済社会の形成に向けた取組を具体的に論じてみたい。さらに、第3節では、すべての産業主体が、循環型経済の担い手となっていくために有効な様々な手段手法について、海外の動きにも目を配りつつ整理してみたい。

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