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第1節 

3 大都市圏等への負荷の集積による問題への対策

(1) 窒素酸化物対策
ア 窒素酸化物による大気汚染の現況
(ア) 二酸化窒素の年平均値の推移
 平成7年度の二酸化窒素に係る有効測定局(年間測定時間が6,000時間以上の測定局をいう。以下同じ。)は、一般環境大気測定局(以下「一般局」という。)700市町村1,453測定局、自動車排出ガス測定局(以下「自排局」という。)218市町村372測定局であった。
 過去10年間の継続測定局(一般局1,171局、自排局241局)における年平均値の推移は第1-1-3図のとおりであり、平成7年度は、一般局0.018ppm、自排局0.035ppmと平成6年度と比較してやや上昇しており、依然として高濃度で推移している。
(イ) 二酸化窒素における環境基準の適合状況
 二酸化窒素に係る環境基準については、昭和53年7月の環境庁告示第38号(以下、本項において「告示」という。)により「1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾ―ン内又はそれ以下であること」とされるとともに、1時間値の1日平均値(以下単に「1日平均値」という。)が0.06ppmを超える地域にあっては原則として7年以内に0.06ppmが達成されるように努め、また、1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内にある地域にあっては、原則として、このゾーン内において、現状程度の水準を維持し、又はこれを大きく上回ることとならないよう努めるものとされた。環境基準による評価は、年間における1日平均値のうち低い方から数えて98%目に当たる値(以下「1日平均値の年間98%値」という。)と基準値を比較して行う。
 平成7年度の有効測定局について環境基準との対応状況の推移は、第1-1-4図のとおりである。
 1日平均値の年間98%値が環境基準のゾーンの上限である0.06ppm以下の測定局(環境基準達成局)についてみると、平成7年度は、一般局97.5%、自排局70.5%となっており、その割合は平成6年度と比較していずれも増加しているが、大都市地域を中心として環境基準の達成状況は依然低い水準で推移している。
(ウ) 二酸化窒素の環境基準に基づき区分されたゾーン内にある地域の動向
 二酸化窒素の日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内にあるとされた地域における二酸化窒素の濃度の動向については、告示第2の2中の現状の水準に当たる昭和52年度及び平成3年度から平成7年度までの状況は第1-1-7表のとおりである。
(エ) 自動車NOx法特定地域における二酸化窒素に係る環境基準の適合状況
 「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」(以下「自動車NOx法」という。)に基づき、自動車の交通が集中している地域で、これまでの措置によっては二酸化窒素に係る環境基準の確保が困難であると認められる地域が特定地域として指定されており、同法に基づき各種施策が実施されている。特定地域における二酸化窒素に係る環境基準達成局数の推移は、第1-1-5図のとおりである。
(オ) 一酸化窒素の年平均値の推移
 平成7年度の一酸化窒素に係る有効測定局数は、一般局700市町村1,453測定局、自排局218市町村372測定局であった。昭和46年度からの継続測定局(一般局28局、自排局21局)における年平均値についてみると、一般局では平成7年度は0.021ppmと平成6年度と比べて横ばいであり、自排局でも平成7年度は0.055ppmと平成6年度と比べて横ばいとなっている。
イ 自動車排出ガス対策
 大都市地域を中心とした窒素酸化物による大気汚染の改善が進まない一因として、自動車排出ガスの問題がある。自動車からの排出ガス量が顕著に低減しない理由としては、自動車交通量の伸びが著しいこと(第1-1-6図)や、貨物車等に占めるディーゼル車の割合の増加等により、従来から進めてきた単体規制の効果が相殺されていることが考えられる。このため、以下の対策を総合的に推進している。
(ア) 自動車構造の改善等
 自動車排出ガスについては、昭和48年以降、逐次規制強化を行い、大気汚染物質の排出量を大幅に削減してきたところである。最近では、平成元年12月に、中央公害対策審議会において、?ディーゼル車等の窒素酸化物の排出レベルの3〜6割の削減、?ディーゼル車の粒子状物質規制の新設及び排出レベルの6割以上の削減、?軽油中の硫黄分の10分の1のレベルまでの低減等を内容とする答申がまとめられ、短期(5年以内)及び長期(10年以内)の2段階の目標値を通じて実施することとされた(第1-1-8表)。
 この答申に沿って、短期目標については、平成6年までに規制の強化を実施したところである。また、答申後遅くとも10年以内に達成すべきものとして示された長期目標については、ガソリン車については全車種について平成7年までに規制を強化した。一方、ディーゼル車については、平成9年から平成11年にかけて規制強化を実施すべく、車両総重量12トン超の大型トラック・バスを除く全車種については平成8年1月、大型バス・トラックについては平成9年3月に規制強化のための告示を行ったところである。
 また、従来自動車排出ガス規制の対象となっていない二輪車及び特殊自動車について、炭化水素及び窒素酸化物による大気汚染に相当程度寄与していることが判明した。このうち、二輪車については、新たに自動車排出ガス規制に係る許容限度の対象となる自動車に追加すること等を内容とする大気汚染防止法の一部を改正する法律が平成8年5月に公布された。
 また、軽油中の硫黄分の低減を促進するため、石油精製業者が取得する一定の設備について所得税、法人税及び固定資産税の軽減措置が実施された。
 また、平成7年4月の大気汚染防止法の一部改正を受け、大気汚染の防止の観点から自動車燃料に関する許容限度を平成7年10月に設定し、平成8年4月より自動車燃料品質規制を開始したところである。
 平成元年答申に基づく規制実施以降における自動車排出ガス対策のあり方については、平成8年5月、環境庁長官が中央環境審議会に諮問し、大気部会で審議が開始された。このうち、有害大気汚染物質対策の観点から早急に実施すべき施策については、平成8年10月に以下の内容の中間答申が取りまとめられた(第1-1-9表)。
? 有害大気汚染物質を含む炭化水素の排出量が多く、平成8年5月の大気汚染防止法の一部改正等により排出ガス規制の対象に追加された二輪車の排出ガス低減目標、達成時期及び試験方法
? ガソリン・LPG車のうち、炭化水素の排出量が多い軽貨物車等の排出ガス低減目標及び達成時期
? ガソリン中に含まれる有害大気汚染物質であるベンゼンの含有率を、平成11年末を目途に現行の5体積%から1体積%に低減
 この中間答申を受け、?、?については、平成9年3月に自動車排出ガスの量の許容限度に関する告示改正を行った。
(イ) 自動車NOx法
 自動車NOx法特定地域における平成7年度の二酸化窒素濃度の状況をみると、年平均値は前年度と比較してやや上昇したものの、近年ほぼ横ばいの状況にある。環境基準の達成状況は一般環境大気測定局で88.8%、自動車排出ガス測定局で41.2%となっており、前年度と比較してやや改善されたが依然として厳しい状況が続いている。また、これらの地域における窒素酸化物のうち、自動車からの排出割合は、東京都で71%、大阪府で56%(平成2年度)となっており、大きなウェイトを占めている。
 このような状況にかんがみ、大都市地域における窒素酸化物汚染の改善のため、平成4年に公布された自動車NOx法に基づき地域全体の自動車排出窒素酸化物の総量の削減を図っている。
 自動車NOx法に基づく特定地域においては、自動車排出窒素酸化物削減のための具体的計画である総量削減計画に基づき、自家用トラックから積載効率のよい営業用トラックへの転換、積合せ輸送、共同輸配送の推進、情報化による帰り荷の確保等による物資輸送の効率向上によりトラック走行量の抑制を図る物流対策、公共交通機関の整備、利便性の向上等により自家用乗用車利用の抑制を図る人流対策及び環状道路等を環境保全に配慮しつつ整備することやVICS(道路交通情報通信システム)の導入、交通管制システムの整備、交差点構造の改良等によって、交通の分散と円滑化を図る交通流対策を総合的かつ計画的に推進している(第5項 地域の生活環境に係る間題への対策・(1)ウ 自動車交通騒音・振動対策も参照)。
 また、特定地域内を使用の本拠とするトラック、バス等について定められている特定自動車排出基準に適合しないトラック・バス等の使用を制限する車種規制の円滑な実施を図っている。
 運輸省の調査によると平成8年3月末現在での特定自動車排出基準の適合状況は58.8%であり、平成6年12月末の約40%(環境庁推計)に比べて向上している。
 その他、自動車単体対策の強化、最新規制適合車等のより低公害な車種への代替促進や電気自動車、天然ガス自動車等の低公害車の導入・普及についても、税制上の特例措置、「公害健康被害の補償等に関する法律」に基づき公害健康被害補償予防協会に置かれた基金(以下「公健法の基金」という。)の活用等により積極的な取組を進めている。平成8年度には、大阪府で土壌による大気浄化システムを用いた局地汚染対策事業を環境基本計画推進事業費補助を受けて実施した。
 また、平成8年度には、総量削減計画に盛り込まれた諸施策の実施状況及び自動車NOx排出量等につき、関係省庁、自治体の協力を得て、中間点検調査を実施した。
(ウ) 低公害車の普及促進
 自動車交通に起因する大気汚染、騒音等は、既存の規制措置等にかかわらず、大都市地域を中心として依然として深刻な状況にある。低公害車(電気自動車、CNG(圧縮天然ガス)自動車、メタノール自動車及びハイブリッド自動車)の普及は、このように依然として深刻な自動車公害問題の解決を図る上で極めて有効であるとともに、地球温暖化に係るCO2の排出削減等にも有効である(第1-1-10表)。
 自動車NOx法に基づく総量削減計画において平成12年度までに首都圏・近畿圏の特定地域において30万台の普及を図ることが目標として掲げられるなど、環境保全のため低公害車の普及を推進することは政府の方針となっており、その普及促進のため、政府としては、低公害車の導入に対する各種支援措置、インフラ(燃料等供給施設)整備の推進、技術開発の推進、公用車への低公害車の率先導入といった様々な取組を実施している。
 低公害車の導入に対する支援措置としては、地方公共団体による低公害車の集中導入に対する補助制度を平成8年度に創設するとともに、地方公共団体の公害パトロール車の低公害車化に対する助成措置、公健法の基金による導入助成、民間バス事業者が低公害バスを導入する際の助成措置等を行っている。また、自動車取得税の軽減措置や、低公害車の取得に関する減価償却の特例又は税額控除の選択的軽減措置といった税制上の特例措置を講じている。
 技術開発の推進に関しては、国立環境研究所において高性能電気自動車の研究開発を行うほか、電気自動車用次世代バッテリーの開発、天然ガス自動車の実用化に向けての研究開発、環境庁の公用車への電気自動車の試験的導入等を実施している。また、低公害車の開発促進を目的に、各種低公害車の排出ガスの統一的な評価を行い、開発目標としての低公害車排出ガス技術指針を平成7年6月に策定し、その達成に向けた技術開発状況の調査を行っている。
 インフラ整備に関しては、「エコステーション2000計画」により平成8年度までに59か所の燃料等供給施設の整備を行ったほか、天然ガス充てん施設の設置に係る高圧ガス取締法の規定が緩和される等、規制緩和の措置が進められた。また、平成9年2月には、低公害車用の燃料等供給設備に係る固定資産税等の軽減措置を盛り込んだ地方税法の一部を改正する法律案を国会に提出し同年3月成立した。
 低公害車の率先導入に関しては、平成7年6月に閣議決定された「国の事業者・消費者としての環境保全に向けた取組の率先実行のための行動計画」において、政府保有の公用車のうち通常の行政事務の用に供するものに占める低公害車の割合を平成12年度において概ね10%に高めることが目標とされているところであり、各省庁において公用車への低公害車の導入を進めている。
 その他、低公害車の普及方策に関する調査研究、わが国で入手可能な低公害車に関する情報をとりまとめた「低公害車ガイドブック」の刊行、インターネットの環境庁ホームページ上の「低公害車展示会」を通じた情報提供、東京代々木公園他全国6か所で低公害車を一堂に展示する「低公害車フェア」の開催等も行われた。その他の施策も含めて、施策の一覧を第1-1-11表に掲げる。
ウ 固定発生源対策
(ア) 大気汚染防止法に基づく規制の実施
 大気汚染防止法で規定する「ばい煙発生施設」について、施設ごとの排出規制が行われており、昭和48年以降、これまで5次にわたる排出基準の強化がなされてきている。また、窒素酸化物の排出量が多い施設については、逐次規制対象として追加するなどの見直しを行っている。
 さらに、工場、事業場が集合し、ばい煙発生施設ごとの排出規制では二酸化窒素に係る環境基準の確保が困難であると認められる地域(東京都特別区等地域、横浜市等地域及び大阪市等地域の3地域)においては、都道府県知事が作成する総量削減計画に基づき工場単位で規制される窒素酸化物に係る総量規制が、昭和57年から実施されている。
(イ) 窒素酸化物排出低減技術の現況
 固定発生源から排出される窒素酸化物の低減技術については、低NOx燃焼技術(二段燃焼法、排ガス再循環、低NOxバーナー等)及び排煙脱硝技術がある。
 排煙脱硝技術についてみると、排煙脱硝装置の設置基数及び処理能力は、着実に増加している(第1-1-7図)。脱硝方式としては多くが乾式選択接触還元法である。
(ウ) その他の対策
 大気汚染防止法で規定する「ばい煙発生施設」に該当しない業務用小型ボイラー等の小規模燃焼機器については、特に大都市地域ではこれらから排出される窒素酸化物の量が無視できないことから、優良品推奨基準としての窒素酸化物排出濃度に係るガイドライン値(第1-1-12表)を定め、それに適合する低NOx型燃焼機器の普及啓発等を行っている。
(エ) 船舶・航空機対策
 船舶からの大気汚染物質の排出については、現在は規制が行われていないが、国際海事機関(IMO)において、「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書(MARPOL73/78条約)」にオゾン層破壊物質、窒素酸化物、硫黄酸化物及び揮発性有機化合物を対象とした大気汚染防止に関する新附属書を加えることについて、1997年(平成9年)秋の採択を目指して、現在、具体的な検討がなされている。我が国においても、大港湾を抱える都市において、今後船舶による大気汚染負荷が無視できないものとなる可能性もあることから、船舶からの排出実態、排出削減技術の動向等を把握して、国際的動向に対応した排出削減手法を検討しているところである。
 また、航空機からの大気汚染物質の排出については、平成8年5月に航空法の一部を改正する法律が公布され、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物及びばい煙について、国際民間航空条約(ICAO)の排出基準に適合した航空機でなければ航空の用に供してはならないこととなった。
(オ) その他の対策
 以上の各種対策に加え、昭和63年度から、冬期における高濃度の大気汚染に対応するため、暖房温度の適正化や公用車の使用削減等を内容とする「季節大気汚染対策」を実施しているほか、12月を「大気汚染防止推進月間」として、広く国民を対象に、公共交通機関の利用促進を訴える等大気汚染防止のための普及・啓発活動を実施している。また、環境庁では、大気にやさしい実践行動、国民運動として、平成8年6月の「環境月間」から「アイドリング・ストップ運動」を提唱している。
 また、窒素酸化物等の大気汚染の影響による健康被害を予防するための取組として、公害健康被害の補償等に関する法律に基づく基金を財源として、地域の大気環境改善に資する各種の事業(地方公共団体が行う電気自動車、天然ガス自動車等の低公害車の導入、排出ガスのより少ない最新規制適合車への代替促進、大気浄化能力を有する植栽の整備等)を推進している。
 また、建設工事に伴う排出ガス対策として、排出ガス対策型建設機械の開発・普及を進めている。


(2) 浮遊粒子状物質・ディーゼル排気微粒子対策
ア 浮遊粒子状物質に係る大気汚染の現況
 大気中の粒子状物質は「降下ばいじん」と「浮遊粉じん」に大別され、さらに浮遊粉じんは、環境基準の設定されている粒径10μm以下の浮遊粒子状物質とそれ以外に区別される。
(ア) 浮遊粒子状物質・ディーゼル排気微粒子による大気汚染の現況
a 浮遊粒子状物質による大気汚染の現況
 平成7年度の浮遊粒子状物質に係る有効測定局数は、一般局701市町村1,511測定局、自排局150市町村217測定局であった。
 過去10年間の継続測定局(一般局746局、自排局58局)における年平均値の推移は第1-1-8図のとおりであり、平成7年度は、一般局0.035ppm、自排局0.046ppmと平成6年度に比べやや低くなっている。
b 浮遊粒子状物質に係る環境基準の適合状況
 浮遊粒子状物質については、昭和47年1月に環境基準が設定されている。環境基準の長期的評価においては、年間における1日平均値のうち測定値の高い方から2%の範囲内にあるものを除外した値が0.10mg/m^3以下であり、かつ、年間を通じて1日平均値が0.10mg/m
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を超える日が2日以上連続しない場合を環境基準に適合するものとしている。
 長期的評価に基づく環境基準の達成率の推移は第1-1-9図のとおりであり、平成7年度は、一般局では63.5%、自排局では35.2%と平成6年度に比べていずれも高くなった。しかしながら、大都市地域を中心に環境基準の達成状況は依然として低い水準となっており、特に、関東地域において芳しくない。
イ 対策
(ア) ばいじん及び粉じん対策
 浮遊粒子状物質の発生源は、工場等の産業活動に関係するもののほか、自動車排出ガスやタイヤの巻き上げなど自動車の運行に伴うものや土壌粒子の舞い上がり等の自然現象によるものもある。これらのうち、工場・事業場から発生するものについては、大気汚染防止法に基づき?燃料その他の物の燃焼等に伴い発生する物質を「ばいじん」として、?物の破砕、選別その他の機械的処理等に伴い発生、飛散する物質を「粉じん」として規制している。
 ばいじんについては、施設の種類及び規模ごとに排出基準が定められており、さらに、施設が密集し、汚染の著しい地域においては、新・増設の施設に対して、より厳しい特別排出基準が定められている。
 ばいじんの発生源対策としては、適切な燃焼管理等のほか、集じん装置の設置がある(第1-1-10図)。
 また、一般粉じん(「粉じん」のうち「特定粉じん」(現在、政令で石綿を指定)以外のもの)については、堆積場、コンベア等の一般粉じん発生施設の構造、使用及び管理に関する基準が定められている。
(イ) 自動車排出ガス対策
 自動車の排出ガスに含まれる原因物質については、大気汚染防止法等に基づき「粒子状物質」として規制しており、平成元年12月の中央公害対策審議会答申に示された短期目標に沿って、ディーゼル黒煙の規制強化及び粒子状物質全体に対する新たな規制が平成5年及び平成6年から実施されている。また、ディーゼル車からの粒子状物質の排出量を6割以上削減するという同答申の長期目標についても平成9年から平成11年までにすべての車種について達成できる見通しが得られ、平成8年1月及び平成9年3月に規制強化のための告示改正が行われたところである(第1-1-13表)。
 なお、平成元年答申に基づく規制の実施後の、新たな低減目標については、平成8年5月に中央環境審議会に諮問され、現在審議中である。
(ウ) 総合的対策の検討
 浮遊粒子状物質は発生源が多岐にわたり、また大気中での化学変化等によって二次的にも生成するなど発生機構が複雑であることから、高濃度地域における環境基準達成に向けた総合的対策の確立を図るため、環境データ・発生源データの整備、汚染予測モデルや削減対策手法の検討、凝縮性ダスト(煙突から排出された直後に粒子化するガス状物質)の排出実態調査を進めている。


(3) スパイクタイヤ粉じん対策
 近年、積雪寒冷地域においてスパイクタイヤを装着した自動車が道路を損傷することにより大量の粉じん(以下「スパイクタイヤ粉じん」という。)が発生し、生活環境の悪化をもたらすのみならず、人の健康への影響も懸念されて深刻な社会問題となったことから、「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」が平成2年6月に公布、施行された。平成9年4月現在、18道県の817市町村が環境庁長官により指定地域とされ、その地域内でのスパイクタイヤの使用が禁止されている。
 また、同法においては、国及び地方公共団体は、スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する施策の推進・実施に努めなければならないこととされており、環境庁では、脱スパイクタイヤの普及・啓発のためのパンフレット、凍結路面における安全運転のためのチラシ、指定地域地図等を作成し、都道府県等に配布した。
(4) 硫黄酸化物等対策
ア 硫黄酸化物等による大気汚染の現況
(ア) 二酸化硫黄の年平均値の推移
 平成7年度の二酸化硫黄に係る有効測定局数は、一般局701市町村1,608測定局、自排局74市町村94測定局であった。
 過去10年間の継続測定局(一般局1,357局、自排局41局)における年平均値の推移は第1-1-11図のとおりであり、平成7年度は、一般局では0.005ppm、自排局では0.008ppmと平成6年度と同じであった。
(イ) 長期的評価に基づく二酸化硫黄に係る環境基準の適合状況
 環境基準の長期的評価においては、年間にわたる1日平均値のうち測定値の高い方から2%の範囲にあるものを除外した値が0.04ppmを超えず、かつ、年間を通じて1日平均値が0.04ppmを超える日が2日以上連続しない場合に環境基準に適合するものとしている。
 長期的評価に基づく環境基準の達成状況の推移は第1-1-14表のとおりであり、近年高い達成水準を維持している。
(ウ) 短期的評価に基づく二酸化硫黄に係る環境基準の適合状況
 短期的評価においては、1日平均値がすべての有効測定日(1日20時間以上測定が行われた日をいう。以下同じ。)で0.04ppm以下の場合、又は、1時間値がすべての測定時間において0.1ppm以下の場合に環境基準に適合するものとしている。
 1日平均値がすべての有効測定日で0.04ppm以下の測定局数の有効測定局数に対する割合は、平成7年度は、一般局99.1%、自排局98.9%と6年度同様高い水準を維持している。1時間値がすべての測定時間において0.1ppm以下の測定局数の有効測定局数に対する割合についても、平成7年度は、一般局97.3%、自排局100%と平成6年度同様高い水準を維持している。
(エ) 一酸化炭素の年平均値の推移
 平成7年度の一酸化炭素に係る有効測定局数は、一般局156市町村185測定局、自排局213市町村352測定局であった。
 過去10年間の継続測定局(一般局154局、自排局233局)における年平均値の推移は第1-1-12図のとおりであり、平成7年度は、一般局では0.6ppm、自排局では1.2ppmと平成6年度と同じであった。
(オ) 一酸化炭素に係る環境基準の適合状況
 環境基準の長期的評価においては、年間における1日平均値のうち測定値の高い方から2%の範囲にあるものを除外した値が10ppmを超えず、かつ、年間を通じて1日平均値が10ppmを超える日が2日以上連続しない場合に環境基準に適合するものとしている。一方、短期的評価においては、1時間値の1日平均値が10ppm以下であり、かつ、1時間値の8時間平均値が20ppm以下である場合に環境基準に適合するものとしている。平成7年度においては平成6年度に引き続き、一般局、自排局ともすべての測定局においていずれの評価によっても環境基準を達成している。
イ 対策
(ア) 大気汚染防止法に基づく規制の実施
 硫黄酸化物の排出規制については、施設単位の排出基準及び工場単位の総量規制基準による規制が実施されている。施設単位の排出基準による規制は、K値規制と呼ばれ、地域ごとに定められる定数Kの値(3.0〜17.5の16ランク、Kの値が小さいほど厳しい)等に応じて硫黄酸化物排出量の許容限度が定められており、Kの値は昭和43年以降8次にわたり段階的に強化されてきている。また、工場単位の総量規制は、国が指定する総量規制地域(工場等が集合し、排出基準のみによっては環境基準を確保することが困難な地域として、24地域を指定)において、都道府県知事が作成する総量削減計画に基づき実施されている。
 このほか、暖房等による燃料使用量の増加のために季節的に著しい大気汚染を生ずる地域のばい煙発生施設及び総量規制地域内の総量規制基準が適用されない小規模な工場等に対しては、燃料中の硫黄含有率に係る基準を定めている。
(イ) 硫黄酸化物排出低減技術の現況
 硫黄酸化物に係る発生源対策として、重油の脱硫、排煙脱硫装置の設置等の対策が講じられている。
 重油脱硫については、昭和42年以来、直接脱硫、間接脱硫装置が設置されているが、平成7年度末の重油処理能力は、それぞれ14基7.9万s/日、26基13.3万s/日であった。この重油脱硫等により燃料の質の改善が進んでおり、平成6年度における内需用重油の平均硫黄含有率は、1.09%となっている。
 また、排煙脱硫装置については、設置基数及び処理能力とも着実に増加してきている(第1-1-13図)。
 これらの諸対策により、二酸化硫黄による大気汚染の状況は昭和40年代前半に比べ著しく改善されてきている。

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