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第5節 

2 途上国等における自然生態系の現状

(1) 途上国における自然生態系の現状
ア 森林
 森林は、世界の陸地の約3分の1を占めており、1993年(平成5年)現在で41億7,980万haの森林が存在していると見積もられている。
 近年、熱帯地域の開発途上国における急激な森林の減少に対して関心が高まっている。熱帯林減少の原因は、非伝統的な焼畑耕作、過度の薪炭材採取、不適切な商業伐採、過放牧などと指摘されているが、こうした直接の原因の背景には開発途上国における貧困、人口増加、土地制度等の社会的経済的な要因があげられている。
 熱帯林は、二酸化炭素の吸収源や地球の放射及び水バランスの調整に重要な役割を果たし、生物多様性の保全のためにも重要な機能を有している。近年における熱帯林の急速な減少は森林資源の枯渇のみではなく、そこに生息する生物種の減少をまねき、回復不可能な段階にあると危惧されている。熱帯林に生息する生物は地球上に生存している生物の50〜80%になるといわれ、熱帯林の減少によってこのような動植物種が亡びたり、種の維持が困難なほどに生息域が狭められていることが懸念されている。
 国連食糧農業機関(FAO)によって1993年(平成5年)に公表された「1990森林資源評価プロジェクト」の報告書では、全熱帯林面積は1980年(昭和55年)末では19億1,000万haあったのに対し、1990年(平成2年)末で17億5,600万haとこの10年間に約8%減少している。熱帯林の減少を地域別に見ると、この10年間に中南米で約8%、アジア・太平洋地域で約12%、アフリカで約7%となっている(第4-5-2表)。また、1997年(平成9年)1月に国連環境計画(UNEP)が公表した「GlobalEnvironment Outlook-1」によるとアジア・太平洋地域の国別の森林減少率が2%を超える減少率を記録している国も多い(第4-5-9図)。さらに世界に目を広げてみても、森林面積が減少傾向をたどっている国が多い(第4-5-10図)。
 こうした熱帯林の減少による影響は、大面積の消失により多くの野生生物種が絶滅の危機に瀕するおそれがあることに加え、森林消失による大量の二酸化炭素の放出が地球温暖化を加速させることが懸念されている。森林は、木材・燃料・飼料等の多様な産物の供給源となっている森林バイオマス(地上有機物の現存量)が存在する陸上生物群系であり、木部繊維や樹冠の葉の中に炭素を固定する最大の能力を有している。また、森林バイオマスの約50%は炭素であるといわれ、多様な環境条件下における森林生態系の構造的・機能的な特性を比較・検証するにあたっても有用な情報である。
 上記FAOの報告書によると、森林バイオマスの1ha当たりの量は、カリブ海・中央アフリカ・島部東南アジアなどで高い値を示しているのに対し、熱帯南部アフリカやアフリカンサヘルでは非常に低い数値となっている。また、高い人口圧力のために、南アジアでは人口一人当たりのバイオマスが著しく低い。
 森林の減少、特に熱帯林の減少に対しては、国際熱帯木材機関(ITTO)やFAOといった国際機関による協力や二国間の協力が進められている。また、「熱帯木材及び熱帯木材製品の輸出を専ら持続可能であるように経営されている供給源からのものについて行うことを2000年までに達成する」旨のいわゆる2000年目標を盛り込んだ新しい国際熱帯木材協定(ITTA:1994年1月採択)が1997年(平成9年)1月に発効している(第4-5-3表)。
イ 土壌
 土壌は、農業や牧畜などの基盤であり、土壌の劣化や喪失はこれらの活動を不可能にするだけでなく、人間の生活自体にも影響を与える。土壌劣化の態様には、降雨による流失などの浸食、表土が吹き飛ばされるといった風による浸食、塩類集積やアルカリ化、湛水化などがある。土壌の劣化や喪失といったいわゆる砂漠化の問題には、地球規模での大気の循環の変動による乾燥地の移動という気候的要因と乾燥地及び半乾燥地の脆弱な生態系の中でその許容限度を超えた人間の活動による人為的要因の二つがある。たとえば、アフリカのサヘル地方などでは樹木や草の再生力を超えた薪の採取や牧畜、周期を短くした移動式耕作などがしばしば見られる。このため、土壌の劣化や喪失を招きやすく、ひとたび干ばつが起こると環境難民として他の土地あるいは他の都市へと流出することがある。
 1991年(平成3年)にUNEPが発表したレポート「砂漠化の現状及び砂漠化防止行動計画の実施状況について」によると、世界には61億ha以上の乾燥地が存在し、地球の陸地の40%近くを占めている。こうした乾燥地域では世界人口の約5分の1の人々が生活しており、そのうち9億haがきわめて乾燥している地域、いわゆる砂漠で、残りの52億haの一部で人間の活動による砂漠化が進行している。
 また、土壌の劣化にさらされている地域は、36億haで、きわめて乾燥している地域を含めた乾燥地全体の59%を占める。大陸別に見ると被害面積が最も広いのはアジアであり、ついでアフリカ、ヨーロッパと続くが、乾燥地面積に占める土壌劣化の割合を見ると、アフリカが73%と特に多い。
 こうした砂漠化問題に国際的に対処するため、砂漠化防止条約が1996年(平成8年)12月26日に発効した。平成9年1月現在の締約国は60ヵ国である。


(2) 国際的に高い価値が認められている環境の現状
 世界遺産条約に基づき、観賞上・学術上または保存上等の見地から顕著な普遍的価値を有する自然の地域は、人類共通の財産として世界遺産一覧表に記載し、良好な自然状態が十分保護されるような措置が採られている。我が国においては、平成5年12月に、縄文杉に代表されるヤクスギ巨木群をはじめとする特殊な植物相を誇る鹿児島県の屋久島地域と原生的なブナ天然林を有し希少な鳥類が生息する青森県と秋田県にまたがる白神山地地域が初めて世界遺産一覧表に記載された。世界遺産一覧表に記載されているものにはそのほか、アメリカのイエローストーン国立公園、オーストラリアのグレート・バリア・リーフ、エクアドルのガラパゴス諸島国立公園などがあり、1996年(平成8年)12月現在で記載されている自然遺産は107地域である。
 また、南極地域には、過酷な自然環境及びそれに適応した特殊で脆弱な生態系が成立しており、また、地球環境のモニタリング等の観点からも、人為による汚染の極めて少ないその環境の重要性が注目されている。南極地域は、1961年(昭和36年)に領土権の凍結、軍事利用の禁止、科学観測のための国際協力を目的とする「南極条約」が発効し、以来科学観測の場として利用されてきているが、基地活動や観光利用の増加による環境影響も懸念されてきている。このため、南極地域の環境の包括的な保護を図るための「環境保護に関する南極条約議定書」が1991年(平成3年)に採択され、我が国でも同議定書の締結に向けて、必要な国内担保措置を講じるため、「南極地域の環境の保護に関する法律案」を取りまとめ、第140回国会に提出した。この法律案は、南極地域において行われる活動が南極地域の環境に著しい影響を及ぼすことがないかどうか等について事前に審査する南極地域活動計画の確認制度を設けるとともに、鉱物資源活動や動植物の採捕の制限等について定めている(各論第5章第1節3を参照)。

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