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第5節 

1 我が国の自然生態系の現状

(1) 気候と地形
 日本列島は、ユーラシア大陸の東縁部に位置し、日本海をへだて大陸とほぼ平行に連なる弧状列島である。面積は約38万km
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であり、南北は北緯20度25分から北緯45度33分まで、緯度差25度8分(南北に約3,000km)に及ぶ。南からその規模において世界最大の海流の一つである黒潮が、北から親潮等が流れている。
 世界で最も新しい地殻変動帯の一つである日本列島は、種々の地学的現象が活発である。地形は起伏に富み、火山地・丘陵を含む山地の面積は国土の約4分の3を占める。山地の斜面は一般に急傾斜で谷によって細かく刻まれている。山地と平野の間には、丘陵地が各地に分布する。平野・盆地の多くは小規模で山地との間及び海岸沿いに点在し、河川の堆積作用によって形成されたものが多い。
 気候は湿潤であり、季節風が発達し、その影響が顕著で四季の別が一般にはっきりしている。前線の活動に伴う夏と秋の雨や冬の豪雪は、世界の平均を上回る降水量を我が国にもたらしている。本州では脊梁山脈を境に気候の違いが顕著であり、冬季において太平洋側では比較的乾燥しているのに対して、日本海側は多雪地帯を形成する。また、日本列島は中緯度帯に存在するため南北の気候の差が大きく、平均気温で見ると、低地ではオホーツク海沿岸部の約5℃、沖縄では約22℃となっている。さらに、起伏量が大きく急峻な地形は我が国の気候を一層変化に富んだものにしている(第4-5-1図)。
 日本列島を取り巻くこのような気候や地形はその土地の自然環境を特徴づけ、様々な動植物を育む貴重な財産である。


(2) 植生と人工表土地
 第4回自然環境保全基礎調査「植生調査」の結果によると、自然植生や代償植生のほか植林地や耕作地植生も含めたなんらかの植生(緑)で覆われている地域は全国土の92.5%で、そのうち森林は国土の67.1%を占め、森林の割合は世界的に見ても高い。
 自然林や自然草原などの自然植生は急峻な山岳地、半島部、離島といった人の入りにくい地域に分布しており、平地、丘陵、小起伏の山地などは二次林や二次草原などの代償植生や植林地、耕作地の占める割合が高くなっている。また、大都市の周辺では、市街地などで面的にまとまった緑を欠いた地域が広がり、国土全体では自然性の高い緑は限られた地域に残されているのが現状である。
 自然植生は、全体で全国の19.1%となっている。自然植生の分布を見ると、2分の1以上にあたる58.8%が北海道に分布しており、他に東北及び中部の山岳部や日本海側と沖繩に多い。一方、近畿・中国・四国では分布が非常に少なくなり、小面積のものが山地の上部、半島部、離島などに点在しているにすぎない(第4-5-2図)。
 植生は一般に時間を経るに従って変化し、最終的に安定的な生態系である極相となる。日本の気候では、?南西諸島から東北南部に広がる、タブ・カシ類・シイ類といった常緑広葉樹(照葉樹)の森林、?九州南部から北海道南部までの、常緑広葉樹林よりは寒冷な地域に広がるブナ林などの落葉広葉樹の森林、?北海道に広がるエゾマツ、トドマツといった針葉樹とミズナラ等の落葉広葉樹の混成する針広混交林、?エゾマツ、トドマツ林に代表される亜寒帯針葉樹林などが代表的な気候的極相である。日本を代表する自然性の高い地域ではこうした極相の植生が見られるが、その地域は必ずしも多くはない。
 我が国の植生を人為の影響度合いに応じて分類した植生自然度区分によって見てみると、自然林・二次林・植林を合わせた森林は国土のおよそ3分の2となっており、人為的に成立した植生である植林地は国土の25.0%を占め、全国の広範な地域に分布している。また、農耕地と市街地・造成地等を合わせると27.0%を占め、国土の4分の1に達している(第4-5-3図)。
 第3回調査と第4回調査における国土に占める構成比の増減を見ると、自然林・二次林の減少が著しく、植林地、市街地などが増加している(第4-5-1表)。全国の植生は森林では自然度の低い植林地が増加し、まとまった緑の見られない市街地などが増加するなど、人為による変化が進んでいるといえる。


(3) 動物相
 日本列島は、鹿児島県の屋久島・種子島と奄美大島との間に渡瀬線という動物の分布境界線が引かれており、動物地理区上大きく二分されている(第4-5-4図)。この渡瀬線より北は旧北区、南は東洋区と呼ばれているが、旧北区である本州以北に生息する大部分の日本の動物は、例えばトガリネズミ類、リス類、イタチ類などを見ると中国華中以北のユーラシア大陸に生息する動物との類縁性が高く、東洋区である奄美・琉球諸島の動物、例えばケナガネズミなどは、台湾や東南アジア諸国に近縁種が多く生息する。しかしながら、島国という地理的特徴から隔離効果により、ヒミズ、ヤマネ、アマミノクロウサギの様な固有種も存在する。そのほかの日本における動物の分布境界線としては、北海道と本州の間に位置するブラキストン線などがある。
 第4回自然環境保全基礎調査「動植物分布調査(鳥類の集団繁殖地及び集団ねぐらの全国分布調査)」では、日本に生息する22種の鳥類を対象としてその分布を把握した。その結果によると、カワウの集団繁殖地は、昭和40〜50年代の記録では2〜5カ所しか知られておらず、これらと比較すると集団繁殖地の分布が拡大している。また、そのほとんどが雑木林やアカマツ林等の林地に作られているがその規模は0.5ha未満の孤立林から10ha以上のものまで様々であった。また、ツバメの集団ねぐらは、主に福島、新潟両県以南の平野部に分布していた。個体数が一万羽以上の大規模な集団ねぐらは面積1ha以上の大規模なヨシ原のみで確認され、10年以上継続しているものが多い。ツバメの減少には、採食場所である水田の減少とともに、大規模なヨシ原の減少も関わっている可能性が示唆された(第4-5-5図)。
 また、環境庁では平成7年度に全国からセミの抜け殻を集め、その種類ごとの分布状況や生息環境の把握を行う第5回「身近な生きもの調査」を行った。この調査は35,827人のボランティアの参加を得て、約40,000点の抜け殻が集められた。この調査結果から暖かい地方に多く、神奈川県と福井県が北限と考えられていたクマゼミがさらに東京都でも報告があり、南関東でクマゼミの分布が北進している傾向が明らかになった。また、関東地方と近畿地方を対象に森林と街なかとでセミの種類の違いを比較し、ヒグラシは都市化の進んだ環境では減少していることや、クマゼミは都市化された環境で勢力を伸ばしている可能性があることが示された(第4-5-6図第4-5-7図)。


(4) 河川
 第4回自然環境保全基礎調査「河川調査」において原生流域調査及び河川改変地調査等が行われた。
 原生流域調査では、前回調査で、全国の河川流域の中から登録された101の原生流域(面積1,000ha以上にわたり人工構築物及び森林伐採等人為の影響の見られない集水域)について、空中写真等資料により前回調査以降の人為改変状況を調査した。その結果、択伐・伐採、道路の建設等により13流域の原生流域の面積が減少し(合計7,296ha減)、そのうち3流域が原生流域の要件を満たさなくなったため原生流域から除外された。また、新たに1流域(1,346.9ha)が原生流域として登録されたため、原生流域は99流域(総面積205,634ha)になった。
 また、河川改変地調査等では、全国の主要な一級河川の支川及び二級河川の幹川等の中から良好な自然域を通過する河川等153河川を対象に水際線、河原、河畔の改変状況、生息魚種等を調査し、集計・解析を行った。その結果、水際線を改変状況区分別に見ると、上記153河川の総延長のうち、自然地は4,585.6km(73.4%)、人工構造物化は1,663.4km(26.6%)であった。水際線の自然地率の高い河川は、第4-5-8図のとおりであり、別寒辺牛川(北海道)、長棟川(富山県)、岩股川(秋田県)、仲良川(沖縄県)は自然地率100%であった。


(5) 価値の高い自然生態系の保護の現状
 「自然環境保全法」に基づき、自然環境が人の活動によって影響を受けることなく原生の状態を維持している地域を「原生自然環境保全地域」として指定し、厳格な行為規制等により原生的な自然の保全を図っている。平成9年1月末現在、5地域5,631haが指定されている。また、同法に基づき、高山性植生や亜高山性植生が相当部分を占める森林や草原、すぐれた天然林が相当部分を占める森林等で、自然環境を保全することが必要な地域を「自然環境保全地域」として指定し、行為規制、保全事業を計画的に行うことにより保全を図っている。平成9年1月末現在、10地域21,593haが指定されており、また、条例に基づく都道府県自然環境保全地域については、517地域73,452haが指定されている。

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