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第4節 

1 生産段階における取組

(1) 事業者による取組
 経済社会システムにおける物質循環を確保していくためには、経済活動の中で大きな部分を占めている事業者の取組が重要である。
 このため、まず、物の製造、加工、販売等を行うに当たって、汚染物質の排出削減、廃棄物の減量化及び適正処理等を行うことにより、事業活動に伴う環境への負荷を低減する必要がある。
 また、製品の設計、利用する原材料の選定、製造、市場への流通に至るまで、その製品等についての中心的な意思決定は事業者により行われるものであることから、製品等の原料採取、製造、流通、消費、廃棄等の各段階における環境への負荷を低減するため、製品等のライフサイクル全体における環境への負荷の低減を視野に入れた製品開発や、消費者への情報提供、過剰包装の見直し、製品の長寿命化、モデルチェンジの適正化等の取組を進めることが必要である。製品等が廃棄物となった場合に、その適正な処理やリサイクルを図るため協力することも求められる。さらに、再生資源など環境への負荷の低減に資する原材料、サービス等を利用するよう努めることも必要である。
 このように、事業者は、経済社会システムにおける物質循環に関して、中心的な役割を持っていると考えられる。
(2) 低環境負荷型の製品生産に向けた取組
ア 産業システムにおける「モノ」の流れの転換
 廃棄物の発生抑制、リサイクル、廃棄物の適正処理を進めるためには、企業を中心とした物質の流れを消費者を組み込んで完結した循環のシステムに作り替え、限りなく「モノ」の流れを自然生態系のように循環させることが重要である。
 これにおいては、資源を利用して生産活動を担う川上の産業、川中の生活者・消費者、廃棄物の処理を担う川下の廃棄物管理主体を含めた産業社会全体を、社会全体に定着させていくことが必要とされる。このような産業システムにおいては、川上で製品・プロセスの設計、工場等の施設の計画といった企業活動の意思決定の初期の段階から、省資源、省エネルギー、環境リスクの低減、リサイクル性、規格化、情報共有等の環境への負荷の低減の原則や要因を徹底して取り入れることが必要である。
イ クリーナー・プロダクション
 物質を扱って材料・製品等を生産する過程では、必ず何らかの廃棄物、排出ガス、排水等が発生する。このうち有価物を除いて、従来の生産方法と比べ廃棄物等の不用物の発生をより少なくする生産方法を「クリーナー・プロダクション」(Cleaner Production)という。これは、環境への負荷を可能な限り低減させるため、生産工程において、当初から資源やエネルギーを最大限有効活用し不用物の発生を極力抑制するというものである。
 クリーナー・プロダクションは、それぞれの生産工程によって異なるが、通常、まず生産される製品等に着目し、同一の製品の生産に対して、原材料の選択・生産方法の改善や設計変更を行うことによって、不用物の発生を少なくし、相対的に環境への負荷を低減させる方法が採られつつある。
(3) ゼロ・エミッション構想
ア ゼロ・エミッションの考え方
 循環型社会を目指す取組に「ゼロ・エミッション」(Zero Emission)という考え方がある。ゼロ・エミッションとは、東京に本部がある国際連合大学が「ゼロ・エミッション」研究構想として平成6年以降提唱しているものである。
 これは、産業界における生産活動の結果、水圏、大気圏や地上圏等に最終的に排出される不用物や廃熱(エミッション)を、他の生産活動の原材料やエネルギーとして利用し、産業全体の製造工程を再編成することによって、循環型産業システムを構築しようとする試みである。
 ゼロ・エミッションは、平成6年7月に開催された第1回「ゼロ・エミッション」研究構想研究会で発表され、現在、国際連合大学では、八つのゼロ・エミッションに関するプロジェクトを計画している。これらのプロジェクトは、?ある企業の廃棄物を他の企業が原材料として活用できる新しい産業集団の構築、?産業界に応用可能な自然現象の仕組みを取り入れた革新的な技術開発、?毒性の高い物質を原料としている製造工程の見直し――という三つのカテゴリーに分類されており、具体的には、ビール醸造業と水産養殖等の組合せ、鳥類が作り出す生分解可能なワックスの応用、水銀が使われている機器のリースシステムの検討等が行われている。
イ 我が国におけるゼロ・エミッション構想の具体的事例
 ゼロ・エミッション構想を地域レベルで進めようとしている例として、鹿児島県の屋久島を廃棄物が限りなくなくなる島にしようという「屋久島ゼロ・エミッション構想」がある。これは、世界遺産条約の自然遺産として登録されている屋久島を21世紀の循環型社会のモデルとするため、新エネルギーシステム、廃棄物のリサイクルシステム、地域資源を活用するシステムの構築を目指すものである。構想では、?化石燃料エネルギーを自然エネルギー・未利用エネルギーに転換することによるクリーンなエネルギー環境の創出(エネルギーの自給率100%を目標)、?廃棄物の適正な処理と再利用の推進(廃棄物の再資源化率80%を目標)、?地域資源の徹底活用システムの構築(地域資源の自給率70%を目標)を検討している。平成8年12月に地元自治体と関連企業が参加する研究会が発足し、モデル事業を進めていくこととしている。
 また、平成9年度から、環境事業団が、循環と共生を基調とする地域づくりの実現に向けて、「ゼロ・エミッション団地」建設構想を具体化する。環境事業団の建設譲渡事業や融資事業の事業手法による異業種中小企業の連携・集団化等を通じて、資源やエネルギーの有効利用の促進や、エコビジネスの育成、団地レベルの環境マネジメントシステムの構築等を図り、地域と共生するゼロ・エミッション団地づくりを推進することとしている。
 このような化学物質による環境汚染の未然防止を図るためには、より一層の取組の強化が必要となっている。

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