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第1節 

5 地球温暖化対策に関する国際的な合意の形成と我が国の対応

(1) 地球温暖化対策に関する国際的な合意の形成
ア 地球環境問題への関心の高まり
 わが国の提唱によって設置された「環境と開発に関する世界委員会」(ブルントラント委員会)が1987年(昭和62年)の国連総会に提出した報告書「我ら共有の未来」は、「持続可能な開発」の概念を提唱し、環境問題に対する世界的な取組の必要性を世界に認識させた。
 また、1988年(昭和63年)には、前述のトロント会議により温暖化が一気に国際政治問題となったことが背景となって、1989年(平成元年)の国連総会において、「環境と開発に関する国連会議」(「地球サミット」)を1972年(昭和47年)の「国連人間環境会議」の20周年に当たる1992年(平成4年)に開催することが決議された。
イ 気候変動枠組条約の作成
 このような中で、地球温暖化対策に関する国際条約締結の必要性が高まってきた。1989年(平成元年)3月には、オランダ・ハーグで環境首脳会議が開催され、「地球温暖化対策の実行のために有効な決定を行い得るような制度的権限の整備を検討する」ことが宣言され、続く5月に開催されたUNEP管理理事会では「IPCCの報告が出次第、気候変動枠組条約の条約交渉を開始する。その際にはUNEPとWMOが協力して準備にあたる」ことが決定された。
 さらに同年7月のアルシュ・サミットでは、経済宣言の3分の1強が環境問題に割かれ、この中で「気候変動に関する一般原則あるいは指針を定める枠組み又は包括的条約の締結が(中略)早急に求められている。(中略)科学的根拠により必要とされ、また許容される場合には、具体的責務を盛り込んだ特定の議定書をこの枠組みの中に組み込むこともできよう」とした。
 そして同年11月には、オランダ政府等の主催により「大気汚染および気候変動に関する閣僚会議」が開催され、わが国を含む67ヵ国、11国際機関の代表が出席し、「大気汚染及び気候変動に関するノールトヴェイク宣言」を取りまとめた。この宣言では、先進国がIPCC及び1990年(平成2年)11月の第2回世界気候会議によって検討される水準で温室効果ガスの排出を可能な限り早期に安定化させることと、遅くとも1992年(平成4年)の「地球サミット」までに地球温暖化防止の枠組みとなる条約を採択すべきことがについて意見の一致を見た。
ウ 気候変動枠組条約の締結
 1990年(平成2年)8月、条約交渉のスタート台と位置付けられたIPCCの第1次評価報告書がとりまとめられ、10月〜11月に第2回世界気候会議が137カ国の参加を得て開催された。本会議では、立場の違いを越え、協力して地球温暖化防止に取り組んで行くべきことについて意見の一致を見た。これを出発点として、1991年(平成3年)2月から条約作りに向けての外交交渉が開始された(第1回条約交渉会議)。
 また、多くの先進国はこの第2回世界気候会議までに、国際的合意形成に向け、独自に温室効果ガス排出量の安定化、削減目標を策定した。我が国も、後に述べるとおり、1990年(平成2年)10月に「地球温暖化防止行動計画」を策定している。
 以後、5回の条約交渉が行われ、1992年(平成4年)5月9日、地球サミットの直前に、温室効果ガスの大気中濃度の安定化の達成を究極の目的とし、地球温暖化を防止するための取組の枠組みを確立するための「気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動枠組条約)」が採択され、6月に180カ国の代表を集めて開催された地球サミットの場において、各国の署名のために開放された。
 本条約では、「気候系に危険な人為的影響を与えることとならない水準において、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」を究極の目標とした。そして、全締約国共通の約束として、?温室効果ガスの排出量・吸収量の目録を作ること、?温暖化対策の国別計画を策定し実施すること、等を定めた。さらに、先進国に追加される約束としては、?CO2等の温室効果ガスの人為的な排出量を1990年代の終わりまでに従前の水準に戻すことの有用性を認識して政策・措置を講ずること、?CO2等の温室効果ガスの人為的な排出量を1990年の水準に戻すという目的を持って採用した政策・措置の詳細及び将来の排出量・吸収量の予測等について締約国会議に通報すること等を定めた。そして、締約国会議はこれらの情報に基づき、この条約の実施状況、条約の目的の達成に向けての進捗状況等を評価すること、とされた。
 我が国は、6月13日に署名を行ったが、地球サミット期間中に155カ国が署名した。
エ 2000年(平成12年)以降の排出量についての合意形成に向けて
 気候変動枠組条約は1994年(平成6年)3月に発効しており、我が国を含む先進締約国は、条約に従い、同年9月までに地球温暖化対策に関する情報の通報を行った。各国からの国別報告書には、?地球温暖化に関連する当該国の一般的な国家の状況、?温室効果ガスの排出及び吸収の目録(基準年である1990年(平成2年)時点の値)、?地球温暖化対策にかかる政策及び措置、?温室効果ガス対策の効果の予測等が記述されており、これは締約国会合において、条約の約束(コミットメント)の適切性を検討する基礎とされる。
 気候変動枠組条約の先進国の約束については、?温室効果ガス排出に関する目標が示唆的な努力目標でしかない、?取るべき政策・措置について具体的な言及がない、?国際約束の履行の適否の審査は形式的(条約の約束の履行を担保する措置が弱い)などの問題が指摘されていた。1995年(平成7年)3月〜4月にベルリンで開催された気候変動枠組条約第1回締約国会合(COP1)では、現行の約束の内容を不十分として、?政策及び措置の詳細を定めること、?例えば2005年、2010年、2020年といった特定の時間的な枠組みにおける数量目的について国際的検討を行うこととし、1997年(平成9年)のCOP3での新たな国際的約束のとりまとめに向けた検討を行うことを決定した(ベルリン・マンデート)。
 一方、1995年(平成7年)12月にはIPCCの第2次評価報告書が採択され、新たな施策の検討に向けての科学的基礎が提供された。
 また、1996年(平成8年)7月ジュネーブで開催された第2回締約国会合(COP2)では、温室効果ガスの全地球規模での相当(significant)な削減を行うべく、法的拘束力のある数量的な排出抑制・削減目的を含む議定書又はその他の法的文書を第3回締約国会議で採択すべきである、とする閣僚宣言に留意することとされ、され、また、COP3を我が国の京都で開催することを決定した。
(2) 我が国の対応
ア 地球温暖化防止行動計画
 わが国は、1989年(平成元年)5月12日、政府が地球規模で深刻な影響を与える環境問題に対応するための施策に関し、関係行政機関の緊密な連絡を確保し、その効果的かつ総合的な推進を図るため、「地球環境保全に関する関係閣僚会議」を随時開催することとした。
 同関係閣僚会議は、1990年(平成2年)10月、地球温暖化対策を計画的・総合的に推進していくため、「地球温暖化防止行動計画」を決定し、その推進に努めている。
 同計画では、温室効果ガスの排出抑制目標として、CO2については、先進主要諸国がその排出抑制のために共通の努力を行うことを前提に、?CO2の排出抑制のため、官民挙げての最大限の努力により、同行動計画に盛り込まれた広範な対策を実施可能なものから着実に推進し、1人当たりCO2排出量について2000年以降概ね1990年レベルでの安定化を図ること、??の諸措置とあいまって、さらに、太陽光、水素等の新エネルギー、CO2の固定化等の革新的技術開発等が、現在予測される以上に早期に大幅に進展することによって、CO2排出総量が2000年以降概ね1990年レベルで安定化するよう努めることとしている。
 メタンについては、現状の排出の程度を超えないこと、また、亜酸化窒素等その他の温室効果ガスについても、極力その排出を増加させないことを掲げ、CO2の吸収源については、国内の森林・都市等の緑の保全整備を図るとともに、地球規模の森林の保全造成等に積極的に取り組むことを掲げている。
 行動計画の期間は1991年(平成3年)から2010年(平成22年)までとされ、2000年(平成12年)が中間目標年次とされている。この間、国際的な動向や科学的知見の集積を踏まえつつ、必要に応じ行動計画の見直しを行い、機動的に対応していくこととされている。
 そして、講ずべき対策として、CO2等の温室効果ガス排出抑制対策、CO2の吸収源(森林等の緑)対策、科学的調査研究や観測・監視の推進、技術開発及びその普及、国際協力の推進などについて幅広く盛り込み、実施可能な対策から順次着手することとした。
イ 環境基本計画
 また、1994年(平成6年)12月に閣議決定された環境基本計画においては、「国際的な連携の下に、究極的には、気候変動枠組条約が目的に掲げる『気候系に対する危険な人為的影響を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること』を目指す。この場合『そのような水準は生態系が気候変動に自然に適応し、食料の生産が脅かされず、かつ経済開発が持続可能な様態で進行できるような期間内に達成されるべきである』との規定に配慮する」こととした。
 また、「中期的には、全締約国の取組が不可欠であること及び条約が2000年以降の措置を明確に定めていないことから、それらを検討する必要があることが、先進国共通の認識となっていることを踏まえ、国際的な枠組み作りに努力するとともに、我が国としても国際的な連携の下で一層積極的な対策の実施に努める」こととした。
 そして、「当面は、地球温暖化防止行動計画を推進することを国際的に公約した国連環境開発会議の経緯を踏まえ、国際的な連携の下に地球温暖化防止行動計画に定める目標を達成する」こととした。

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