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第1節 

1 地球温暖化が認識されてきた経緯

(1) 地球温暖化の議論の始まり
 人の活動によって地球が温暖化することが指摘されはじめたのは、必ずしも最近になってからのことではない。1860年には気体を伝導する熱の研究が専門であったアイルランド人のティンダール(微粒子が分散している空気中などに光を通すと光の通路が見える、というティンダール現象を発見したことで知られている)が、人間活動によって生じる大気の組成の変化によって気候変動が起こる可能性を指摘している。
 19世紀末には、スウェーデン人の物理化学者アレーニウスが大気中のCO2の濃度が上がると気温が上昇することを指摘し、科学者の間ではこの原理はよく知られるようになった。
Box1 宮沢賢治も取り上げたCO2による温暖化
 宮沢賢治は、1932年(昭和7年)に発表した「グスコーブドリの伝記」において、火山から噴出するCO2によって地球を温暖化し、冷害に苦しめられている農民を救うために、主人公が自ら犠牲となって火山を人工的に噴火させるというストーリーを展開している。(なお、現在では、火山の噴火は、CO2と同時に吹き出す粉じんによって、太陽光線が地表に届くのが妨げられるため、全体としてはかえって気温は下がることが知られている。)
(2) 世界共通の議論となった地球温暖化
 国際地球観測年であった1957年(昭和32年)、大気中のCO2濃度の定期的な測定が世界で初めてハワイ・マウナロア観測所で開始された。
 このようなモニタリング結果の蓄積等を背景として、1970年代の終わり頃から地球温暖化に関する科学者の報告が活発に行われはじめた。1985年(昭和60年)10月には、温暖化についての初めての科学者の国際会議であると言えるフィラハ(オースラリア)会議(UNEP主催)が開催され、「21世紀前半には、地球の平均気温の上昇が人類未曾有の規模で起こり得る」との声明を出している。
Box2 地球の大きさと厚み
 地球が直径1mの球だとすると(実際は12,700km)、
● 対流圏の厚さは両極付近で約0.7mm、赤道付近で1.3mm(同約11km)
● 成層圏の厚さは約3.5mm(同約45km)
 (温室効果ガスのうち、CO2や亜酸化窒素は比較的均等な組成でこの対流圏、成層圏に存在しているが、大気中での化学反応、特に太陽光の関係する反応で生成・分解される物質(オゾンやフロン等)は垂直方向に不均等な分布を示している。)
● 有害な紫外線から地球を保全しているオゾン層の厚さはわずか1.2mm(同約15km)
● エベレスト(チョモランマ)の高さは0.7mm(同約9km)
● マリアナ海溝の深さは0.9mm(同約11km)


 1988年(昭和63年)、アメリカの穀倉地帯は猛暑と干ばつに襲われた。同年6月23日、米国上院公聴会において米国航空宇宙局のハンセン博士が、その原因が地球温暖化である可能性があることを証言し、温暖化が社会的に大きな注目を浴びるようになった。
 その数日後の6月27日〜30日に開催されたカナダ・トロント会議(大気変動に関する国際会議、G7トロントサミットの直後にカナダ政府が主催)には、46か国と国際機関から政治家、科学者等が集まり、温暖化が国際的に重要な政策課題として、初めて議論された。この会議では、「とりあえずの目標としてCO2排出量を2005年(平成17年)に1988年レベルの2割削減すること」が提案された(20%削減宣言)。このことが大きな契機となって、各国内や国際的な政治の場でも積極的に取り上げられるようになり、後に述べる地球サミットでの「気候変動枠組条約」の締結につながるのである。

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