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環境白書の刊行に当たって

国務大臣 環境庁長官 地球環境問題担当
岩垂 寿喜男
 平成8年版の環境白書をここに公表いたします。
 環境白書は、主に前年度の環境に関する主要な出来事を報告していますが、平成7年度は環境基本法、環境基本計画により示された環境政策の基本理念と枠組み、長期的な政策の方向を具体化し、その実現に向けて軌道に乗せていく実質的な初年度となりました。
 具体的には、政府が率先して環境保全に向けた取組を進めていくための率先実行計画や生物多様性国家戦略の策定、容器包装廃棄物リサイクル促進法の制定と施行など、多くの分野で重要な施策が進められています。
 しかし、これらの施策を真に実効性の高いものとしていくためには、社会のすべての主体が?公平な役割分担と責任の下に、連携しながら取組を進めていくパートナーシップの構築が不可欠です。
 本年の環境白書では、このような観点から、パートナーシップの重要性に焦点を当てています。今日の環境問題の多くは、巨大な経済社会の中で多数の主体が複雑に絡み合いながら活動している中で生じていますが、それを認識し?理解し、具体的な取組へとつなげていくことは容易なことではありません。まず、国民一人ひとりに身近な日常生活や遊びなどの活動と環境との結びつきを取り上げました。これらが環境の恵みを受け、環境へ負荷を与えながら成り立っていることに気づくことが、パートナーシップの実現に向けた出発点になると考えられます。次に、環境の成り立ちや仕組み、その中にある人間社会の構造について共通の理解を得ることが重要となりますが、その基礎となる視点として生物多様性や環境効率性を取り上げています。さらに、地域の環境問題から地球環境問題まで様々な具体の問題について関係者が、共通の認識と理解を持ち、共通の目標と取組に合意して取組を進めていくことに向けて、様々なパートナーシップの事例に学ぶとともに、パートナーシップを支える環境指標、環境リスクの考え方や経済的手法、環境影響評価等の制度についても記述し、こうした経済社会全体を通ずる変革を可能にするように、自然?社会?人文科学の枠を越えた「地球環境学」への展望も行っています。
 平成7年度には、水俣病問題に関し、関係当事者の最終的かつ全面的解決のための合意を踏まえ、必要な施策等について閣議了解等を行いました。我々は、水俣病のような悲惨な公害を二度と繰り返すことなく、健全で豊かな環境に恵まれた持続可能な社会を構築し、未来に引き継いでいかなくてはなりません。
 本白書が、国民の皆様一人ひとりの関心をより一層高め、具体的な取組を進めていく力となれば、これに過ぎる喜びはありません。
平成8年6月

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