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第5節 

6 森林の保全

(1) 問題の概要
 世界には、その地域の気候の特性に応じた様々なタイプの森林が分布している。森林の総面積は約41.8億haで、陸地(内水面の面積を含む。)の約31%を占める(FAO:「ProductionYearbook.1994」)。森林は多くの野生生物に生息地を提供し、また、土壌の保全、水源かん養や二酸化炭素の吸収・固定といった環境調整機能を有し、さらに、用材、薪炭材など人間の生活に欠かせない木材の供給源であるほか、医薬品の原料等の非木材生産物の供給源ともなるなど、多面的な価値を持つ自然資源である。
 しかし、近年、先進地域の森林面積は、横ばいもしくは増加しているのに対して、熱帯地域の開発途上国の森林が急激に減少している。国連食糧農業機関(FAO)が1993年に発表した森林資源評価プロジェクトの最終報告によれば、1981年(昭和56年)から1990年(平成2年)の10年間で年平均およそ1,540万ha(我が国の国土面積の約4割)の熱帯林が減少したと推測されている。熱帯林には、世界の野生生物種の約半数が生息すると言われ、遺伝子資源の宝庫でもあるが、大面積の消失により、多くの野生生物種が絶滅の危機に瀕することが懸念されている。また、森林消失により放出される大量の二酸化炭素が地球温暖化を加速する一因ともなっているとの指摘もある。熱帯林消失の原因は地域によっても違いがあり、非伝統的な焼畑耕作、過度の薪炭材採取、不適切な商業伐採、過放牧などが指摘されているが、その背景には人口増加、貧困、土地制度等の様々な社会的経済的要因が絡んでおり複雑である。
(2) 対 策
 平成7年度においては、地球サミットで採択された森林に関する初めての世界的合意である「森林原則声明」及びアジェンダ21における森林減少対策を踏まえ、熱帯林を含む世界の森林保全と持続可能な経営に関する議論が様々な国際会議等を通じて行われた。
 1995年4月に開催された第3回国連持続可能な開発委員会(CSD)においては、森林の管理、保全及び持続可能な開発が主要検討課題の一つであった。当該会合では、同年2月の分野別作業部会の結果を受け、CSDの下に森林分野の広範な課題の検討を行うための、全ての関係者が参加しうる政府間パネル(IPF)を設置することが決定された。IPFにおける検討結果は1997年の第5回CSD会合へ報告されることとなっており、現在IPFにおいて、森林問題に関する各種の課題について検討が行われている。
 1994年(平成6年)に採択された新しい国際熱帯木材協定(ITTA)は、1983年の国際熱帯木材協定にかわるものとして、地球サミット後初めて採択された協定であり、西暦2000年までに生産国の熱帯木材の輸出を専ら持続可能に経営されている供給源からのものにするという戦略(「2000年目標」)を達成すること、また、そのために生産国を支援することをその目的のひとつに掲げるなど、熱帯林の保全と持続可能な経営の達成に向けての国際的枠組みが一層強化されたものとなっている。我が国は、1995年5月、新協定を正式に受諾した。ITTAにより設置された国際熱帯木材機関(ITTO、本部横浜)は、生産国、消費国が協力し、熱帯林の保全と持続可能な経営、利用を目的として活動しており、「2000年目標」を始めとする戦略、ガイドラインを採択してきている他、200件を超えるプロジェクトを実施してきている。また、ITTOでは現在各国の2000年目標の達成に関する取組状況のレビューを行っており、我が国も1995年9月に我が国の取組状況に関する報告書を提出した。
 熱帯林以外の森林については、森林経営の持続可能性を把握・検証するための基準及び指標の作成等について、欧州諸国及び非欧州諸国でそれぞれ論議が行われている。
 まず、欧州諸国においては、同地域内の森林に係る基準及び指標について1993年6月以来検討が進められ、1994年6月に基準及び定量的な指標について暫定的な合意に達し、その後も記述的な指標について引き続き検討が行われている。
 また、我が国をはじめとするカナダ、アメリカ等の非欧州諸国は、1994年6月以降、熱帯林以外の全ての森林を対象とする基準及び指標作成のための作業を行い、1995年2月の第6回国際作業グループ会合で最終合意に至った。これを受けて同年10月に行われた第7回会合では、我が国を含むメンバー国及びその他の参加国から上記基準及び指標への取組状況、適用状況等についての報告が行われ、各国における基準及び指標の適用に向けて検討を進めることが確認された。
 我が国は、これらの国際的な議論へ参画するとともに、従来からの二国間、多国間協力についても引き続きその推進に努めた。
 二国間協力では、荒廃地での森林再生のための技術や治山技術の開発・普及、木材の高度利用のための研究、住民参加の社会林業推進のための訓練・普及、材木育種技術の開発等の技術協力を東南アジア、大洋州、アフリカ、中南米などにおいて実施してきており、このうち国際協力事業団(JICA)を通じて、14か国、22のプロジェクト方式技術協力等を実施中である(平成8年3月31日現在)。
 多国間協力では、国際熱帯木材機関(ITTO、本部横浜)に対し、その活動を引き続き支援するため加盟国中最大の資金拠出を行った。
 また、FAOに対しては、森林の保全管理体制が弱体化しているアジア地域の市場経済移行国の政策担当者や現場指導者に対する研修を行うことを目的としたプロジェクトへの拠出等を行った。さらに、国際農業研究協議グループ(CGAIR)の傘下に1993年(平成5年)に設立された国際森林・林業研究センター(CIFOR)に拠出を行うなど森林保全等に関する研究について支援を拡充している。
 熱帯林の調査研究では、地球環境研究総合推進費による熱帯林生態系解明のための研究が、国立の研究機関を中心にマレイシアの多雨林をフィールドにして行われているとともに、海洋開発及地球科学技術調査研究促進費による熱帯林の変動とその影響等に関する観測研究が、国立試験研究機関によってタイの熱帯林をフィールドとして引き続き行われた。
 民間部門では、NGOによる東南アジア、アフリカ、中国等での植林活動に対する支援を行ったほか、民間企業等により、マレイシア、サラワク州における熱帯林再生のためのフタバガキ科樹種の苗木植栽実験の支援やパプアニューギニアにおいて持続可能な森林生産を目指して、現地産樹種を中心とした1.5万haの植栽計画など熱帯林の保全と持続可能な経営のための取組が行われた。

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