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第5節 

4 海洋汚染の防止

(1) 問題の概要
 海洋は、地球の全表面の4分の3を占め、世界の水資源の90%を保有し、重要な生物生産の場であるとともに、大気との相互作用により気候に影響を及ぼすなど地球上のすべての生命を維持する上で不可欠な要素となっている。
 海洋の持つ種々の特性や資源は、古来から、人間により利用され、開発されてきたが、特に近年、海洋資源に対する依存性の増加や人間活動に伴う各種の汚染の拡大等に伴い、海洋環境の保全は重要な課題となっている。世界的な海洋汚染の状況は、調査海域が先進国の周辺海域に偏っていることなどから、その全体像は必ずしも明らかではないが、北海、バルト海、地中海等、閉鎖性海域においては、赤潮発生の拡大、重金属などの有害物質による汚染が広がっている。また、大型タンカーの航行、海底油田の開発等に伴う重大な海洋汚染の危険が存在し、一度事故が発生した場合の被害が長期間かつ広範囲に及ぶことなどから、海洋環境の保全は重要な課題となっている。殊に、近年相次いで発生した大型タンカーの事故による大量油流出事故や、1991年(平成3年)の湾岸戦争における大規模な原油流出は海洋環境に深刻な影響を与え、改めて海洋環境保全の重要性を国際世論に訴えることとなった。
(2) 対策
 我が国は、昭和55年、昭和58年及び平成7年に「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」の改正等、所要の国内法整備を行った上で、主として陸上で発生した廃棄物の船舶等からの海洋投棄を規制する「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)、船舶等からの油、有害液体物質及び廃棄物の排出や船舶の構造・設備等を規制する海洋汚染防止のための包括的な条約である「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)並びに大規模油流出事件が発生した場合への準備、対応及び国際協力を防災のみならず海洋環境の保全の観点からも強化することを目的とした「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約」(OPRC条約)を締結し、海洋汚染防止対策の充実強化を図ってきたところである。
 ロンドン条約は1972年(昭和47年)11月に採択され、1975年(昭和50年)8月に発効した。我が国も1980年(昭和55年)に締結し、同年11月我が国について発効した。最近では、1993年(平成5年)11月に開催された第16回ロンドン条約締約国協議会議において産業廃棄物の海洋投入処分の原則禁止等を内容とする同条約附属書の改正が行われた。
 また、MARPOL73/78条約については、油による汚染の規制のための規則(附属書?)、ばら積みの有害液体物質による汚染の規制のための規則(附属書?)、容器に収納した状態で海上において運送される有害物質による汚染の防止のための規則(附属書?)、船舶からの廃物による汚染の防止のための規則(附属書?)が発効しており、現在発効の目途の立っていない船舶からの汚水による汚染の防止のための規則(附属書?)についても、IMO(国際海事機関)において早期発効に向けての努力が続けられている。
 OPRC条約は、1989年(平成元年)3月に米国アラスカ州沖で発生した「エクソンバルディーズ号」の座礁事故に伴う大量油流出事故を契機として作成された条約で、1995年(平成7年)5月に発効した。我が国に関しては、同年10月に同条約を締結し、1996年(平成8年)1月に発効した。
 海洋環境保全のための地域的な取組としては、国際的な閉鎖性地域の環境保全を図るため関係国と共同の行動計画を策定しようとするUNEPの地域海計画が日本海を中心とする北西太平洋海域を対象として進められ、1994年(平成6年)9月に日本、韓国、中国及びロシアの4カ国により「北西太平洋地域海行動計画」が採択されている。これに対応して、平成7年11月にバンコクで開催された第5回専門家会合並びに海洋汚染に関する準備・対応及び協力のためのIMO/UNEP専門家会議に参加したほか、1995年(平成7年)には、日ソ環境保護協力協定に基づく日本海の海洋環境に関するロシアとの共同調査を実施した。また、関係国の専門家、地方公共団体の担当者等の参加による「北西太平洋の海洋環境モニタリングに関するワークショップ」を富山県で開催した。
 さらに、北太平洋海域の海洋科学研究の促進及び関連情報整備の促進等を目的として、1990年(平成2年)12月に採択された北太平洋の海洋科学に関する機関(PICES)のための条約が1992年(平成4年)3月に発効している。同条約には現在、日本、米国、カナダ、中国、ロシア及び韓国が加入している。同条約に基づき、海洋環境の質委員会等4種の委員会において海洋科学の推進が図られており、第4回年次会合が我が国等の専門家の参加により1995年(平成7年)10月に中国の青島で開催された。
 1995年(平成7年)11月には、陸上活動に伴う海洋汚染を防止するため、UNEPが中心となって検討を進めてきた「陸上活動からの海洋環境の保護に関する世界行動計画」が我が国を含む世界100カ国以上により採択された。

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