2 公害紛争処理等
(1) 公害紛争の処理状況
公害紛争については、「公害紛争処理法」の定めるところにより、総理府の外局である公害等調整委員会及び都道府県に置かれている都道府県公害審査会等が処理することとされている(第4-8-2図)。
公害紛争処理には、あっせん、調停、仲裁及び裁定の四つの手続があり、裁定には、公害に係る被害についての損害賠償責任の有無及び賠償すべき損害額を判断する責任裁定と、被害の発生と加害行為との間の因果関係の存否を判断する原因裁定の二種類がある。
公害等調整委員会は、裁定を専属的に行うほか、重大事件(水俣病やイタイイタイ病などの事件)、広域処理事件(航空機騒音や新幹線騒音)等について、あっせん、調停及び仲裁を行い、都道府県公害審査会等は、それ以外の紛争について、あっせん、調停及び仲裁を行っている。
ア 公害等調整委員会に係属した事件
平成7年中に公害等調整委員会で新規に受け付けた公害紛争事件は2件であり、これらに前年から繰り越された14件を加えた計16件(調停事件9件、責任裁定事件7件)が7年中に係属した。係属した事件の内訳は、つぎのとおりである。
(ア) 調停事件
? 液体洗剤水質汚濁被害等調停申請事件…2件
? 豊島産業廃棄物水質汚濁被害等調停申請事件…2件
? 高圧ガス集配所騒音被害等調停申請事件…1件
? 金属加工工場騒音・振動被害調停申請事件…2件
? 送電線建設土壌汚染被害等調停申請事件…1件
? 中海本庄工区干陸事業水質汚濁被害等調停申請事件…1件
(イ) 責任裁定事件
小田急線騒音被害等責任裁定申請事件…7件
このうち平成7年中に終結した事件は、高圧ガス集配所騒音被害等調停申請事件外1件であり、残り14件が8年に繰り越された。
イ 都道府県公害審査会等に係属した事件
平成7年中に都道府県の公害審査会等で受け付けた公害紛争事件は24件であり、これに前年から繰り越された63件を加えた計87件(いずれも調停事件)が7年中に係属した。
平成7年中に終結した事件は42件である。
なお、調停が成立した具体的事例としては、次のようなものがある。
[事例] 平成6年9月2日、東京都内の金属加工工場(被申請人)の近隣に居住する申請人から調停申請があり、鉄骨等の鋼材の運搬、切断等の作業から発生する騒音、振動により、申請人は住居地域としての生活環境が得られず、精神的・肉体的な疲れ、不安定、血圧上昇などの感覚的・心理的被害を受けていることを理由として、被申請人に対し、工場が住居地域内にあることを自覚し、防音対策を早急に講じ、騒音を規制値(暗騒音)以下にすることを求めたものである。
東京都公害審査会は、現地調査を実施し、4回の調停期日を開催するなど鋭意手続を進めた結果、平成7年3月10日、調停が成立した。
調停条項の主な内容は次のとおりである。
? 当事者双方は、被申請人が工場の西側及び南側の壁面に防音工事を行い、工場の中央扉を二重シャッターにしたことを確認する。
? 被申請人は、騒音を伴う作業については、工場の扉を完全に閉めた状態で行う。
? 工場においては休日及び夜間(午後8時以降)は、騒音を発生する作業を行わない。
? 工場からの騒音をできる限り防止するよう細心の注意を払い、従業員にも徹底させる。
(2) 公害苦情の処理状況
ア 公害苦情処理制度
公害に関する苦情は、地域住民の生活に密着した問題であり、その適切な処理は、住民の生活環境を保全するためにも、また、将来の公害紛争の未然防止のためにも極めて重要である。
このような観点から、「公害紛争処理法」においては、地方公共団体は、関係行政機関と協力して公害に関する苦情の適切な処理に努めるべきものと規定されている。このため、都道府県及び市区町村は公害苦情相談員を置くことができるとされている。
また、公害等調整委員会は、地方公共団体が行う公害苦情の適切な処理のための指導、情報の提供を行っている。
イ 公害苦情の現状
平成6年度に全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口が新規に受け付けた苦情件数は6万6,556件である。
大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭のいわゆる典型7公害の苦情は、昭和47年度以降減少傾向にあったが、平成6年度では45,642件で、前年度に比べ2,467件、5.7%増加した(第4-8-3図)。
ウ 公害苦情の処理状況
平成6年度において、公害苦情の申立てから処理までに要した期間をみると、1か月以内に70.8%と約7割が処理されている。(第4-8-4図)。
(3) 環境事犯の取締り
ア 環境事犯の検挙状況
警察では、悪質な産業廃棄物の不法処分事犯や水質汚濁事犯等に重点を置いた取締りを推進している。平成7年中に検挙した環境事犯の総数は、2,033件であり、最近5年間における環境事犯の法令別検挙状況の推移は、第4-8-2表のとおりである。
また、警察が平成7年中に受理した公害苦情(交通公害に係るものを除く。)総数は7万6,740件であり、6年に比較して1,876件の増加となっている。
イ 水質汚濁事犯の取締り
警察では、平成7年中に、「水質汚濁防止法」等を適用して水質汚濁事犯を13件検挙した。このうち、工場等が「水質汚濁防止法」に定められた基準に違反して汚水を排出した排水基準違反は、7件である。
ウ 廃棄物事犯の取締り
警察が平成7年中に廃棄物処理法違反で検挙した1,965件の態様別検挙状況は、第4-8-3表のとおりであり、不法投棄事犯が全体の75%を占めている。
また、このうち、産業廃棄物事犯は698件と全体の35%を占めており、検挙に係る不法処分された産業廃棄物の廃棄物の総量は、133万トンに上ると推定される。その種類別、場所別状況は、第4-8-5図のとおりであり、都市部で排出された産業廃棄物を県境を越えて運び、山林等において無許可処分したり、不法投棄する事犯が依然として目立っている。
エ 検察庁における公害関係法令違反事件の受理・処理状況
最近5年間において全国の検察庁で取り扱った公害関係法令違反事件の受理・処理人員の推移は、第4-8-4表のとおりである。平成7年中の通常受理人員は、2,852人で前年より446人減少している。
平成7年中における罪名別公害関係法令違反事件の通常受理人員は、第4-8-5表のとおりで、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反の2,144人が最も多く、全体の75.2%を占め、以下、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」違反(594人)、「水質汚濁防止法」違反(59人)の順となっている。前年と比較して通常受理人員が著しく減少したのは、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」違反(237人減少)、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反(179人減少)等である。
平成7年中における罪名別公害関係法令違反事件の処理人員は、第4-8-6表のとおりで、起訴人員は1,756人、不起訴人員は1,050人、起訴率は、62.6%となっている。起訴人員のうち公判請求されたものは81人で、前年と比較して7人減少しており、略式命令請求されたものは1,675人で、前年と比較して231人減少しているものの、起訴人員の95.4%を占めている。