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第1節 

6 海洋環境保全対策

(1) 問題の概要
 海洋は、地球の全表面の4分の3を占め、世界の水資源の90%を保有し、重要な生物生産の場であるとともに、大気との相互作用により気候に影響を及ぼすなど地球上のすべての生命を維持する上で不可欠な要素となっている。
 海洋の持つ種々の特性や資源は、古来から、人間により利用され、開発されてきたが、特に近年、海洋資源に対する依存性の増加や人間活動に伴う各種の汚染の拡大等に伴い、海洋環境の保全は重要な課題となっている。世界的な海洋汚染の状況は、調査海域が先進国の周辺海域に偏っていることなどから、その全体像は必ずしも明らかではないが、北海、バルト海、地中海等、閉鎖性海域においては、赤潮発生の拡大、重金属などの有害物質による汚染が広がっている。また、大型タンカーの航行、海底油田の開発等に伴う重大な海洋汚染の危険が存在し、一度事故が発生した場合の被害が長期間かつ広範囲に及ぶことなどから、海洋環境の保全は重要な課題となっている。殊に、近年相次いで発生した大型タンカーの事故による大量油流出事故や、1991年(平成3年)の湾岸戦争における大規模な原油流出は海洋環境に深刻な影響を与え、改めて海洋環境保全の重要性を国際世論に訴えることとなった。
(2) 対策
 海洋汚染には、陸域からの汚染物質の流入、海域における船舶からの油等の排出、廃棄物の海洋投棄等の問題があるが、その防止は世界各国が協調してこれに取り組むことによって初めて十分な効果を期待し得るものであることから、国際海事機関(IMO)を中心として海洋汚染防止対策のための条約策定等の、国際的な協力が積極的に推進され、これに合わせて各国における海洋汚染対策が整備されてきている。
 我が国は、昭和55年及び58年に「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」の改正等、所要の国内法整備を行った上で、主として陸上で発生した廃棄物の船舶等からの海洋投棄を規制する「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)並びに船舶等からの油、有害液体物質及び廃棄物の排出や船舶の構造・設備等を規制する海洋汚染防止のための包括的な条約である「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)への加入等を行い、海洋汚染防止対策の充実強化を図ってきたところである。
 MARPOL73/78条約については、本文及び油による汚染の防止のための規則(附属書?)は、1983年(昭和58年)10月に、また、ばら積みの有害液体物質による汚染の規制のための規則(附属書?)は1987年(昭和62年)4月に、船舶からの廃物による汚染の防止のための規則(附属書?)は1988年(昭和63年)12月末に、容器等への収納の状態で海上において運送される有害物質による汚染の防止のための規則(附属書?)は1992年(平成4年)7月に発効しており、現在発効の目途のたっていない船舶からの汚水による汚染の防止のための規則(附属書?)についてもIMOにおいて、早期発効に向けての努力が続けられている。また、これらの附属書が改正された際には、我が国においても「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」等の改正を行うことにより国内的実施体制の整備を図ってきており、最近では船舶に対する油濁防止緊急措置手引書の備置きの義務付けを内容とする同法の改正を行い、平成5年4月から施行している。
 また、ロンドン条約は1972年(昭和47年)11月に採択され、1975年(昭和50年)8月に発効した。我が国も1980年(昭和55年)10月に批准し、同年11月我が国について発効した。さらに、1993年(平成5年)11月に開催された第16回ロンドン条約締結国協議会議において産業廃棄物の海洋投入処分及び洋上焼却の禁止等を内容とする同条約附属書の改正が行われたことから、1994年(平成6年)2月、産業廃棄物の洋上焼却の禁止等を内容とする海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律施行令等の改正を行った。
 海洋環境保護のための地域的な取組としては、国際的な閉鎖性海域の環境保全を図るため関係国と共同の行動計画を策定しようとするUNEPの地域海計画が日本海を中心とする北西太平洋海域を対象として進められ、1994年(平成6年)9月に第1回政府間会合がソウルで開催され、日本、韓国、中国及びロシアの4ヶ国により「北西太平洋地域海計画」が採択された。さらに、北太平洋海域の海洋科学研究の促進及び関連情報の促進等を目的として、日本、米国、カナダ、中国、ソ連(当時)により1990年(平成2年)12月に採択された北太平洋の海洋科学に関する機関(PICES)のための条約が1992年(平成4年)3月に発効し、海洋環境の質委員会等四つの委員会において、海洋科学の推進が図られており、第3回年次会合が、1994年(平成6年)10月に根室市で開催された。
 一方、1989年(平成元年)3月に米国アラスカ州沖で発生した「エクソン・バルディーズ号」の座礁事故に伴う大量油流出事故を契機として大規模油流出時における環境修復防除体制の強化及び国際協力体制の確立を目的とする「1990年の油による汚染に対する準備、対応及び協力に関する国際条約」(OPRC条約)が1990年(平成2年)11月に採択され、1995年(平成7年)5月に発効することとなった。また、湾岸戦争による1991年(平成3年)1月からの大規模な油の流出において、その環境回復には、国際協力が重要であることが更に認識されるに至った。
 OPRC条約の締結に際して必要となる国内体制を整備するため、油流出事故を発見した船舶等の通報に関する規定の整備、油保管施設等に対する油濁防止緊急措置手引書の備置きの義務付け等を内容とする「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部を改正する法律案」を第132回国会に提出した。
 また、運輸省では、同条約の早期締結に向けての所要の国内体制の整備を推進するとともに、大規模油流出対策に関する国際的な情勢を踏まえ、アセアン海域における大規模な油汚染事故が発生した場合の国際的地域緊急防除体制の確立を図ることを内容とする「OSPAR計画」を推進し、1995年(平成7年)1月に行われたマレイシアへの資機材供与をもって本計画を完了した。
 また、通商産業省では、平成2年度より大規模石油災害対応体制整備事業費補助金を創設し、現在までに国内5箇所、海外4箇所の油濁防除資機材基地の完成をみている。
 一方、平成5年1月のスマトラ北方沖合でのタンカー衝突事故など、大型タンカーによる事故が近年頻発したことから、運輸省では「タンカー輸送の安全対策に関する懇談会」を開催し、運航管理体制の充実・強化、事故発生時の緊急対応体制の整備等について対策を取りまとめたほか、通商産業省とともに「タンカーによる輸送問題に関する合同懇談会」を開催して、アセアン海域における石油の安定輸送確保のための体制整備等について対策を取りまとめた。同年12月には合同懇談会の提言を受け、船社、荷主団体等による「アセアン海域石油安定輸送協議会」が設立された。

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