前のページ 次のページ

第1節 

3 酸性雨対策

(1) 問題の概要
 酸性雨は、主として化石燃料の燃焼により生ずる硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)など大気汚染物質が大気中で硫酸や硝酸などに変化し、これを取り込んで生じると考えられるpHの低い雨のことであるが、広義には、雨のほか霧や雪なども含めた湿性沈着(wetdeposition)及びガスやエアロゾルの形態で沈着する乾性沈着(dry deposition)の両者をあわせたものである。SOx、NOx等の大気汚染物質は、大気中に止まっているときには、いわゆる大気汚染として問題を生じているが、大気中から水や土壤などへ移行・除去される際に生じるのが酸性雨問題である。
 酸性雨により、湖沼や河川等陸水が酸性化し魚類等へ影響を与えること、土壤が酸性化し森林等への影響を与えること、また酸性雨が、直接、樹木や文化財等に沈着することにより、これらの衰退や崩壊を助長すること、などの広範な影響が懸念されている。酸性雨が、早くから問題となっている欧米においては、酸性雨によると考えられる湖沼の酸性化や森林の衰退等が報告されている。
 酸性雨は、SOx、NOx等の発生源から数千キロも離れた地域にも沈着する性質があり、国を越えた広域的な現象であることに一つの特徴がある。欧米諸国では酸性雨による影響を防止するため、1979年に「長距離越境大気汚染条約」を締結し、関係国がSOx、NOx等の酸性雨原因物質の削減を進めると共に、共同で酸性雨のモニタリングや影響の解明などに努めているところである。
 酸性雨は、従来、先進国の問題であると認識されてきたが、近年、開発途上国において目覚ましい工業化の進展により、大気汚染物質の排出量は増加しており、地域の大気汚染に加え広域的な酸性雨も大きな問題となりつつある。
 地球サミットで採択された「アジェンダ21」では、先進国のみならず、開発途上国も含め、今後、酸性雨等広域的な環境問題への取組を強化すべきであるとしている。
(2) 対策
 我が国では、第1次酸性雨対策調査(昭和58〜62年度)に引き続き、第2次酸性雨対策調査(昭和63〜平成4年度)を実施した。
 第2次酸性雨対策調査について、調査結果の概要は次のとおりである。
? 降水のpH、イオン沈着量等は、欧米とほぼ同程度のレベルで推移しており、調査期間中顕著な変動は見られない。
? 酸性雨の河川への影響については、酸性成分の溶出で一時的に融雪水のpHが低下傾向を示すが、河川に流入する間の土壤の緩衝作用等により、河川への顕著な影響は見られない。
? 酸性雨の植生への影響については、調査地域の幾つかで樹木の衰退があるとされたが、原因として酸性雨が関与しているかどうかについては、さらに多角的な調査研究が必要と考えられる。
 このように、我が国における酸性雨による生態系等への影響は現時点では明らかになっていないが、酸性雨による陸水、土壤・植生等に対する長期的な影響は不明な点も多く、現在のような酸性雨が今後も降り続けるとすれば、将来、酸性雨による影響が現れる可能性も懸念される。
 このため、平成5年度からは、5か年計画で第3次酸性雨対策調査として、陸水、土壤・植生の継続的なモニタリング、各種影響等予測モデルの開発を実施するほか、酸性雨被害の未然防止の観点から、硫黄酸化物、窒素酸化物等の酸性雨原因物質の排出抑制等に向け、シミュレーション手法による許容排出量の算定を行い、排出抑制計画の策定について検討を行う。このほか、国内における降水の実態把握、長距離輸送の機構解明、生態系影響の監視を目的とした酸性雨測定所の整備を行っており、6年度は、3か所の酸性雨測定所の整備を図った。
 また、樹木の衰退等が指摘され、酸性雨との関連が指摘されている地域についても、降水、大気汚染物質、土壤、植生等の総合的な調査を行い樹木の衰退と酸性雨との関連を解明する調査を行うとともに、平成2年度から酸性雨等森林被害モニタリング事業を開始し、全国的規模で酸性雨等による森林衰退の実態把握を実施している。
 また、国際協力・協同の取組の第一歩として、平成5年10月、東アジア10か国、関係国際機関等の参加により「東アジア酸性雨モニタリングネットワークに関する専門家会合」を開催した。会議の結果は、議長サマリーとしてとりまとめられたが、その主な内容は次のとおりである。
? 東アジアの多くの国で酸性雨が観測されていることが判明した。
? 経済発展、エネルギー事情等の今後の見通しを考慮すると、酸性雨による悪影響が将来重大な問題となるおそれがあることについて共通の認識が得られた。
? 各国は、酸性雨のモニタリング、原因物質拡散のモデル化及び排出量分布の把握に努力すべきとの合意が得られた。
? 各国よりモニタリングネットワークの形成への期待が表明された。

前のページ 次のページ