1 地球温暖化対策
(1) 問題の概要
大気中には、二酸化炭素、メタン、水蒸気などの「温室効果ガス」が含まれており、これらの作用により、人間や動植物にとって住み良い環境となっている。ところが近年、人間活動に伴う二酸化炭素やメタン等の温室効果ガスが、大量に大気中に排出されるようになった。その結果、温室効果が強まって地球が温暖化するおそれが生じている。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1990、1992年の報告によると、温室効果ガスが現在の増加率で増え続けた場合、大気と地表の平均気温が21世紀末までに約3度上昇することが予測されている。この気温の上昇は、過去1万年の間に例を見ない、極めて急激な変動であると考えられている。また、海面水位は21世紀末までに約65cm(最大1m)上昇することが予測されている。
1994年(平成6年)9月に環境庁が取りまとめた報告書「地球温暖化の我が国への影響」では、IPCCの予測結果を基にして、日本の水資源、農業、森林、生態系、沿岸域、エネルギー、都市施設、健康などの分野において温暖化が様々な影響を及ぼすことを指摘した。
このような温暖化の影響が顕在化し、取り返しのつかない事態が生ずる前に、直ちに実施可能な対策から着実に推進していく必要がある。
(2) 対策
ア 地球温暖化防止行動計画の推進
我が国の地球温暖化対策は、現在、地球温暖化対策に関する我が国の基本的姿勢を明らかにした地球温暖化防止行動計画(平成2年10月、地球環境保全に関する関係閣僚会議決定)に基づき各種の対策が推進されており、平成6年9月、同行動計画に基づき、1992年度の二酸化炭素排出量等及び関係各省庁が平成5年度に実施した地球温暖化防止行動計画関連施策等を地球環境保全に関する関係閣僚会議に報告した。
なお、平成6年度において実施した主な地球温暖化対策は、次のとおり。
(ア) 地球温暖化防止対策を地域において推進していくため、地方公共団体における地球温暖化対策に関するマスタープラン(地球温暖化対策地域推進計画)等の策定に対する補助の実施等を行った。
(イ) 事業者による省エネルギー等の取組を強化するため、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」に基づく判断基準による工場等における省エネルギーのための事業者への指導を行うとともに、「エネルギー等の使用の合理化及び再生資源の利用に関する事業活動の促進に関する臨時措置法」に基づく承認を受けた特定事業活動(工場等における省エネルギー設備の導入)に対する低利融資及び税優遇等を行った。
(ウ) 廃棄物の減量・再資源化、ごみ焼却余熱・下水排熱等の有効利用を図るため、熱利用下水道モデル事業の推進及びごみ固形燃料発電事業の起債措置対象への追加等を行った。
(エ) 二酸化炭素排出低減・抑制に資する交通体系の形成のため、中長距離の物流拠点間の幹線輸送におけるモーダルシフト(鉄道輸送、内航海運等への誘導)の推進や効率的物流システムの構築等を図るとともにバイパス等の整備を行った。
また、低公害車普及拡大のための低公害車の技術評価、実用可能性調査の実施とともに、中・長期的な普及方策の検討を行った。さらに、低公害車の公害パトロール車としての導入に対する補助の実施等低公害車の導入に対する支援を行った。
(オ) 温室効果ガス排出の少ないエネルギー供給構造を形成するため、安全性の確保を前提とした原子力の開発利用や水力、地熱の利用、コンバインドサイクル発電、太陽光発電の導入等を推進した。また、平成6年6月には、エネルギー需給を巡る情勢の変化や気候変動枠組条約の発効等を踏まえ、「長期エネルギー需給見通し」を改定した。さらに、太陽光等の自然エネルギー、燃料電池等の環境への負荷の少ないエネルギー源の導入・普及促進等を図り、「石油代替エネルギーの供給目標」(平成6年9月、閣議決定)を達成するため、平成6年12月、総合エネルギー対策推進閣僚会議において「新エネルギー導入大綱」を決定した。
(カ) 地球温暖化に係る不確実性を低減させ、科学的知見を踏まえた適切な対策を講じるため、現象解明、将来予測及び影響評価対策に関する研究、温室効果ガスの観測並びに人工衛星等を用いた観測技術の開発を実施した。また、これら調査研究等の推進を図るため、地球環境研究総合推進費の拡充を始めとする措置等を講じた。
(キ) 温室効果ガスの排出抑制のためのより高度な新エネルギー技術や省エネルギー技術、二酸化炭素の固定化・有効利用等の革新的技術開発について、ニューサンシャイン計画における研究等を積極的に推進した。
(ク) 地球温暖化防止行動計画及びこれに基づく対策の周知・普及のため、パンフレット等を配布するとともに地方公共団体等に対しても各種会議等を通じ周知した。
(ケ) 国際協力については、引き続き関係機関への支援等を行うとともに、1995年(平成7年)3月にはバンコックにおいて、アジア太平洋地域の開発途上国における温暖化対策を支援するため、「第4回地球温暖化アジア太平洋地域セミナー」を開催した。さらに、アジア太平洋地域の途上国による国別温暖化対応戦略策定に対する支援を行った。
イ 気候変動枠組条約への対応
「気候変動に関する国際連合枠組条約」は、1994年(平成6年)3月21日に発効した。本条約は究極的な目的を気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において、大気中の温室効果ガス濃度を安定化することとし、締約国に温室効果ガスの排出・吸収目録の作成、温暖化対策のための国家計画の策定と実施等各種の義務を課している。特に我が国を始めとする先進締約国等は二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量を1990年代の終わりまでに従前のレベルに戻すことが条約の目的に寄与するものであるとの認識の下、政策を採用し、措置をとり、その内容について、条約が自国について効力を生じた後6か月以内に及びその後は定期的に締約国会議へ情報を送付することが義務とされている。
我が国は、1994年(平成6年)9月、この規定に基づく日本国報告書を地球環境保全に関する関係閣僚会議において決定した後、条約暫定事務局に送付した。なお、我が国の報告書の策定にあたっては、政府素案を公表し、広く国民の意見を聴取した。
1994年(平成6年)12月時点で情報の送付を済ませている国は、我が国を含め15か国であるが、条約暫定事務局は、これら各先進締約国の報告書を基に、統合レポートを同年12月に作成し、さらに、各国の報告書については、1995年(平成7年)末までに国ごとの詳細審査が実施されることとなっている。
また、条約の円滑な実施に向け、1994年8月に第10回、1995年2月に第11回条約交渉委員会が開催された。同年3月〜4月にはベルリンで第1回締約国会議が開催され、政策及び措置を定めること並びに2005年、2010年、2020年といった特定の期間内の数量化された抑制及び削減目的を設定すること等を目指し、1997年の第3回締約国会議で結論を採択すべく、条約上明確な規定のなかった2000年以降の期間の取組を検討するプロセスを開始することとなった。なお、この取組には議定書等の採択を通じて約束を強化することも含まれる。また、複数の締約国が共同で地球温暖化防止の取組を行う共同実施活動という概念の導入、常設事務局の設置等も決定され、さらに先進国により気候変動技術イニシアティブ(ClimateTechnology Initiative : CTI)が提案されるなど条約の本格的実施に向けての第一歩が踏み出された。
ウ 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)における検討への協力
IPCCは1988年(昭和63年)11月に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)が共催して設立した国際的な組織で、地球温暖化の予測、影響、対策について最新の知見をまとめ、温暖化防止政策に科学的な基盤を与えることを目的としている。IPCCは、1990年(平成2年)8月に第1次評価報告書を、1992年(平成4年)2月にその補足報告書をまとめた。その後、組織の再編成を行い、現在1995年(平成7年)末を目標に第2次評価報告書を作成中である。一方、1994年(平成6年)10月に第2次評価報告書の一部を、予定を早め、温室効果ガスの温暖化効果や、その排出シナリオに関する最新の知見を盛り込んだ1994年特別報告書としてまとめた。これは、気候変動枠組条約交渉会議の要請によるもので、1995年(平成7年)3月〜4月に開催された気候変動枠組条約第1回締約国会議に提出された。
我が国は、1994年(平成6年)1月につくば市で温暖化防止のための政策手段とその効果に関するワークショップを開催した。また、新体制においても温暖化の影響対策を取り扱う第2作業部会の副議長を務めるだけでなく、第2次評価報告書の主執筆者を多数送り込むなど、IPCC活動への積極的な参加、協力を行っている。