(1) 土壤環境の現状
土壤は、生物の活動が深く関与して生成されるもので、環境の重要な構成要素となっており、生態系の維持にも大事な機能を担っている。そのため、土壤の機能が損なわれると、人間をはじめとする生物の生存が脅かされたり、生態系の悪化をもたらしたりするおそれがある。
土壤汚染は、汚染物質が直接土壤に混入する場合のほか、大気汚染や水質汚濁を通じて間接的に土壤に負荷が与えられる場合がある。土壤汚染は一旦生じると農作物や地下水等に長期にわたって影響を与える蓄積性の汚染である。
農用地の土壤汚染は、明治時代の渡良瀬川流域、戦後の神通川流域の鉱毒による汚染など古から見られるものである。このため、農用地については、「水質汚濁防止法」等による汚染発生源対策が行われていることに加え、「農用地の土壤の汚染防止等に関する法律」に基づき、カドミウム、銅、砒素について基準値を設け、これを超えて汚染された農用地について客土等の対策事業を行うこととなっている。
平成5年度の農用地土壤汚染防止対策細密調査では、平成4年度に引続き新たに汚染が発見された地域はなかった。また、汚染検出面積に対する対策事業等完了面積の割合は、検出面積7,140haに対して68.9%(4年度は66.1%)であった。
農用地以外の市街地土壤については全国で汚染が顕在化するケースが増加しており、特に工場跡地などの再利用等の土地改変に伴って土壤汚染が判明する例が頻出している。このような市街地土壤汚染については、平成4年度土壤汚染対策の実施状況等に関する調査において昭和50年以降累計177件の事例が把握されており、近年判明件数は増加傾向にある(第5-3-1表)。
土壤汚染の原因は、製造施設の破損等に伴う漏出、廃棄物処理法施行前の工場敷地内での廃棄物の不適正な埋立、汚染原因物質の不適正な取扱、不法投棄などとなっており、事業種別に見ると化学工業、電気鍍金業、電気機械器具製造業が多い。汚染物質は鉛、六価クロム、水銀等の重金属に加え、近年では、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンの増加が著しい。こうした状況を受け、平成6年2月に土壤汚染に係る環境基準項目を今までの10項目からトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素など15項目を加え25項目とした。
諸外国の状況については、米国では、規制が緩かった時代の廃棄物最終処分場跡地の汚染などが問題となっており、汚染者である関係企業が連帯責任を負って対策を行うか、石油や化学品への課税によって調達した基金で対策を行うスーパーファンド法などにより浄化を進めている。また、欧州諸国においてもドイツやオランダなどで土壤汚染対策が進められている一方、ブルガリアでの金属工場の隣接地の重金属による汚染やポーランドでの工業地帯の廃棄物の不適切な処理による汚染などが問題となっている。
また、開発途上国では過放牧や森林減少及び不適正な農業活動により土壤劣化が生じており、大きな問題となっている。このように世界的に見ると、土壤についての汚染のほかにもその流亡や塩水遡上による塩性化といった問題が生じており国際的な協力が求められている。
(2) 地盤環境の現状
地盤沈下は、主に地下水の過剰な採取によって地下水位が低下し、粘土層が収縮することによって生じる。一旦沈下した地盤はもとには戻らず建造物の損壊や洪水時の浸水被害の増大などをもたらす。
地下水が良質・恒温の水資源であり、また生活用水・工業用水・農業用水・消雪用などとして容易かつ安価に採取できるため、生活水準の向上・各種産業の発展等による水需要の増大や深井戸さく井技術の発達に伴って大きな地盤沈下が発生してきた。
古くは戦前から東京都江東区や大阪市西部で地盤沈下が見られ、戦後の一時期、経済の停滞により一旦は沈静化したが、昭和40年代には全国的に発生し、年間20cmを超える激しい沈下も見られた。その後地下水の採取制限が行われ、長期的には地盤沈下は沈静化の方向へ向かっているものの、一部地域では依然として著しい地盤沈下が続いている(第5-3-1図)。
平成5年度における年間2cm以上の地盤沈下地域の面積は、平成4年度の19地域525km
2
から11地域276km
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へと減少し、そのうち年間4cm以上の地盤沈下地域の面積は平成4年度の6地域25km
2
から1地域0.5km
2
未満と減少した。
地域別に見ると、新潟県南魚沼では、最大沈下量が7.3cmで3年連続して全国最大沈下地点となっている。また新潟平野では広範囲にわたる地盤沈下が新たに認められたほか、関東平野北部等著しい地盤沈下が生じている地域が依然としてあり、今後も推移を注視し、適切に対応していく必要がある。