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第1節 

2 環境を総合的に捉える考え方

 環境政策の効果を高める視点をいくつか示したが、以下、これらの視点の中から環境をトータルに捉える考え方について掘り下げてみたい。また、その他の視点については、節を改めて記述したい。
 OECDでは、この20年間の各国の公害対策への努力と投資に比べ、期待したほど良好な環境の水準が達成されていないと指摘している。例えば、エネルギー効率の向上や廃棄物の減量化を短期的な視野から求めると、その時には顕著な効果が現れるかも知れないが、それをより長期的に、より広範なものにしていくには、経済社会活動の基本的なあり方を変えていく必要がある。このため、環境というものを総合的に捉えて対策を考えていくことが求められている。
 OECD諸国などで見られる、環境を総合的に考えた新たな政策としては、環境問題の評価、リスクの順位つけ、環境計画の策定・実施、政策部門間の統合的戦略、地理的アプローチによる総合的な環境保全、ライフサイクルアセスメントの検討・実施、情報提供と参加などが見られるところである。以下では、対象物質、発生源での対策、地理的なレベルで総合的な観点から環境保全政策が行われている例を見てみたい。
? 物質のライフサイクルに着目した総合的な捉え方
 OECD諸国において化学物質に関する監視・管理に関する政府による計画は近年改良されつつあり、化学物質はそのライフサイクル、使用形態などが総合的に考慮された上で危険度がランク付けされ、管理されるものが見られる。このような計画は、従来のような排出口での対策から、全工程、全ライフサイクルを通じての総量としての発生抑制・排出低減へと対策の手法を拡大させていると見ることができ、物質レベルでの対策を考慮する際にこのような総合的な視点で検討することの重要性が認められているものと考えられる。
? 発生源対策における総合的な環境の視点
 汚染物質は、大気、水、土壤といった異なる媒体間を移動することが知られている。例えば、米国チェサピーク湾の窒素負荷量の25%は、自動車及び発電所に起因する大気汚染物質と考えられている。また、北極ガスミは、産業地域で大気中に排出された汚染物質が移動したものとされている。
 発生源において排水や排ガス処理を進めれば、それだけ最終的に適正な処理が必要となるスラッジ等が増加し、また、ある地域での大気汚染を少なくするために高煙突を使用することが、結局はかなり離れた地域の森林や湖沼での被害の原因となっているような事例もある。こうしたことからも、発生源での対策を考える際には影響の及ぶ環境の範囲を、時間的、空間的に広く捉えた上でこれを評価することが有効であろう。
 その際、OECDの報告書などを踏まえ、?それぞれの媒体において入手可能な最高の技術を選択し、?廃棄物の減量化と活用の機会を考慮し、?環境管理制度と汚染物質の排出及びコストが総合的に低減するもの、とする視点等が重要であると考えられる。
? 地理的観点により環境を総合的に保全する考え方
 ある地理的な形状(森林の分布、湖畔など)からその地を一団として捉え環境を保全しようとするアプローチは環境を総合的に保全する上で最も効果的であるとされる。これまで多数の例が見られるが最近の事例では、この地理的アプローチを持続性の確保と公害防止の観点から使用したものがある。例えば、カナダのフレイザー川行動計画は、政府、州(ブリティッシュ・コロンビア)、地域コミュニティー、企業が一緒になってそこに住む200万人の人々と河川の生態系のために持続的発展計画に基づく対策を展開している。また米国環境保護庁は1991年より周辺7州及びカナダと共同して5大湖に関するパイロットプログラムを進めている。同プログラムは目標として、特に生体蓄積性の高い有害物質の削減に一貫した焦点を置き、発生源での使用抑制に向けた活動を通してその環境中濃度を下げることを掲げている。
 このように環境対策を講じる際に、地理的な特徴も勘案しつつ、環境を広く総合的に捉え、地域全体として環境を保全することを基本的な視点の一つとすることも有効であると考えられる。

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