1 環境対策の効果を高める七つの視点
今日、環境問題の性格が大きく変わってきている。地球温暖化問題や廃棄物問題などに典型的に見られるように、今日の環境問題は通常の事業活動や日常の生活からの環境への負荷をいかにして低減させるかにその重点が移ってきている。また、多くの環境問題が地球的規模で複雑に絡み合って今日の状況を引き起こしている。また、地球温暖化による気候変動などは、ひとたび被害が顕在化した場合にはそれが人類にとって取り返しのつかないものとなる可能性がある。
今後は、ますます幅広い局面で国、地方公共団体、民間などあらゆる主体により社会経済活動に環境対策を組み込んでいくことが必要とされている。その際、それらの対策をできるだけ効果的・効率的なものとする視点を確立しておくことは、このような環境と経済の統合を円滑に進め持続可能な経済社会を実現していく上での重要なポイントになるものと考えられる。
以下、環境対策の効果を高めるための具体的な視点の整理を試みた。もとよりこの整理の仕方は確立したものではなく、またそれぞれの視点についてもその効果などを定量的に評価する方法は必ずしも確立していない。しかし、これらの視点は国や地方公共団体のみならず、事業者や市民団体等による環境対策においても重要と考えられ、行政としてもその評価方法等について今後検討を進めていく必要がある。ただし、その際環境に係る費用や効果の中には、貨幣による評価になじまないものも多くあることは、十分認識しておく必要があろう。
(1) 環境被害を未然に防止すること
まず、環境被害の未然防止という視点が挙げられよう。平成4年版の環境白書では、環境に対する被害が顕在化してから対策を講じるよりも、対策を事前に講じ、被害の未然防止を進める方が費用的にも効果的であることを示している。また、生産プロセスを変えるという未然防止的対応の方が、排出口での対策よりも費用的にも効果が高いことが内外の事例からも示されつつある。被害の未然防止の視点は、回復が困難な場合も多い環境問題への対策としては、極めて重要な視点となる。
(2) より根本的な原因にまで目を配って対策を行うこと
環境問題の対策を検討する際には、顕在化した現象面や一次的な汚染原因だけにとらわれずに、社会経済の構造的な要因まで考慮していくことが必要であろう。好むと好まざるとに関わらず、社会経済の構造が環境への負荷を助長するようなものとなっている場合、個人を始め、各主体がそうした根源にまで遡って対策をとることは困難を極めよう。このような場合、そうした根源となる原因を考慮し、政策として制度的な改善を加えることによって、各主体の環境保全活動もより有効に、すなわち費用効果をより高めていくことが考えられる。例えば、廃棄物の問題については、発生抑制、適正なリサイクルの推進及び適正な処理の推進が重要である。これらは、生産面でのかかわりとともに国民一人ひとりのライフスタイルにまでかかわるものであり、環境教育や環境学習などの施策も視野にいれた一連の政策が統合され、推進されることでより効果が高まるものと考えられる。
(3) 環境の構成要素を総合的に捉えること
化学物質等に対する対策を進める上で、これまで主としての媒体別の施策が講じられてきている。物質のレベルでは、複数の媒体への放出、媒体間の移行により、それぞれの媒体を通じた暴露が生じることを考えると、今後は、複数の媒体での対策を講じることでより有効性が高まることが予想される。また、発生源対策、地理的なアプローチをとる際にも総合的な視点が必要とされる。環境の構成要素を総合的に捉えた上で検討された環境保全施策は、単一の媒体に対する汚染だけを視野においた対策に比べ、より効果的なものとなろう。
(4) 環境対策を他の対策と統合すること
環境政策と他の政策との統合によって、効果的な政策を進めることができる。例えば、交通渋滞対策と自動車排出ガス低減対策、或いは施肥量の低減化と土壤保全対策という対策を考えてみると、その始めの段階から、両者の観点を視野に入れて対策を検討していくことが効果的であるものと考えられる。環境基本計画はこのようなアプローチの基礎となるものである。特に第2節207/sb1.4.2>では、異なる目的を有する政策を相互支持的なものとしていくことの有効性から環境政策と貿易政策の関係を論じる。
(5) 市場メカニズムを適切に活用すること
市場メカニズムを活用する視点も、環境対策の効果を高める上で有効性が期待できるものである。市場は、価格が一つのシグナルとなって複雑な資源配分を行う機能を有し、財・サービスの過不足は価格の変動を通じて解決される。環境問題が発生した大きな要因としては、経済社会活動による環境への負荷に伴い社会に生じる費用についての認識が明確でなく、対策が十分に行われてこなかったことから、これらの費用が市場メカニズムの中に適切に織り込まれてこなかったことが挙げられる。
このため、生産物等の価値に環境に関する外部性を適正に反映させることで、環境の観点から適正な価格付けをし、これにより、経済社会の構造を環境への負荷の少ないものとしていくことができよう。もちろん環境の価値は、すべてが貨幣換算できるものではないが、こうしたことを通じて、市場性を獲得する分野も生じてこよう。近年、環境関連産業の規模が拡大しつつあるが、これなどもある意味で市場メカニズムの活用が進みつつある例と考えることができる。第3節207/sb1.4.3>で具体的に見ていきたい。
(6) 情報を適切に活用すること
環境の現状や将来予測に関する適切な把握を進め、各主体それぞれの役割に応じた効果的な取組みを進める上で、環境に関する情報の適切な活用は欠かせない。
現在、経済社会を巡って情報化が急速に進展しているが、そのインフラ整備や活用段階で環境にどのような影響を及ぼすのかは、プラスマイナスの両面があろう。情報化社会の構築は、できるだけ環境への負荷を低減する方向で進められるべきことはいうまでもない。いずれにせよ、そうした動きの中で、環境に関する情報の適切な提供を積極的に進め、各主体による環境に関する情報の活用を促すことで、より効果的な環境保全を進めることが可能となる。第4節207/sb1.4.4>では、これらについて見てみたい。
(7) 関係者の連携・参加のしくみを適切に形成すること
例えば、ある環境保全目標に対して産業界なら産業界だけ、消費者なら消費者だけの努力によってこれを達成しようとしても効率的ではない。適切な役割分担の下に、国も含め各人がそれぞれ主体的な努力を進めることで、より効果的な環境保全が進められよう。近年、国際的な連携を含め各主体の自発的積極的な取組が多く見受けられるが、その一部を第5節207/sb1.4.5>において見てみたい。