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第3節 

1 地球温暖化をもたらす環境負荷の増大

 地球温暖化は、その原因及び影響の両面において文字どおり地球規模の問題である。したがって、世界全体の温室効果ガスの排出が我が国の環境への影響をもたらすとともに、我が国からの温室効果ガスの排出が地球全体の温暖化にもつながる。以下では、地球温暖化をもたらす環境負荷が世界及び我が国においてどのような状況にあるのかをまず見てみたい。
(1) 世界の温室効果ガス排出及び吸収の状況
 人間活動に伴って排出される温室効果ガスには二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、ハロカーボン類(CFC:クロロフルオロカーボンやHCFC:ハイドロクロロフルオロカーボンなど)等があるが、この中で地球温暖化に対する寄与度が最も大きいのは二酸化炭素である(第5章第1節(7)参照)。
 全世界の二酸化炭素排出量(化石燃料消費及びセメント生産に伴うもの)は1991年(平成3年)時点で61.9億tC(炭素換算トン)と推定されており、排出量は1950年(昭和25年)から約4倍に増大している(第3-3-1図)。排出量の内訳を見ると、全排出量の45%が先進国に起因し、残りを旧ソ連及び東欧と開発途上国が排出している。開発途上国の全排出量に占めるシェアは1950年には11%であったのが、1991年には36%と大幅に増加している。今後、開発途上国からの二酸化炭素排出量は、人口の増加と経済の発展を背景に更に大幅に増加することが見込まれることから、途上国において対策を着実に実施していくことが、世界的な地球温暖化防止対策を進める上で急務である。他方、先進国の排出シェアは相対的に減少してきているとはいえ、絶対量として地球環境に大きな負荷を加えている状況に変わりはない。また、一人当たりの排出量で見れば、1991年時点で先進国約3.3tC、旧ソ連・中東欧約3.0tC、開発途上国約0.46tCとなっており、依然として先進国と途上国との間には7倍以上の差があることから、途上国を積極的に対策に巻き込んでいく観点からも、先進国が気候変動枠組条約の義務を着実に履行し、地球温暖化防止対策に率先して取り組んでいくことが重要である。
 なお、1991年(平成3年)の湾岸戦争に関連したクウェートの油田火災からは、同年の全二酸化炭素排出量の約2%に相当する1.3億tCが排出されたと推計されており、これは1990年(平成2年)からの増加量0.9億tCを上回る。湾岸戦争は原油流出のみならず、地球温暖化の面からも環境に大きな負荷を与えたものであったといえよう。
 上記の排出量に加えて土地利用の変化によってもかなりの二酸化炭素が排出されており、その量は世界資源研究所によれば全世界で9億tCあまりと推計される。熱帯林減少国からの排出が多くなっており、森林の減少は吸収・固定源の減少と排出量の増加の両面において地球温暖化を促進する。
 第3-3-1表は地球全体の年間の炭素収支をまとめたものである。これによると、毎年、32±2億tC程度の二酸化炭素が大気中に蓄積されている。また、二酸化炭素吸収源としては、従来から吸収源とされてきた海洋のほかに、北半球における森林再成長及び追加的な陸上吸収源が新たな吸収源として特定され、これが、従来“ミッシング・シンク(確認できない炭素吸収源)とされてきた部分に相当するものと考えられる。追加的な陸上吸収源には、二酸化炭素濃度の増大による光合成の活性化、窒素の人為的排出量の増大と蓄積が肥料として植物の成長を促す作用などが含まれる。
 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によれば、最終的な大気中二酸化炭素濃度の安定化のレベルは、安定化までの排出シナリオよりは二酸化炭素の積算排出量によって決定されるとされ、二酸化炭素濃度を350ppmで安定化させるためには、21世紀末までの積算排出量を3千億〜4千3百億tC、550ppmの場合は8千8百億〜1兆6百億tCに押さえる必要があるとされる(第3-3-2図)。したがって、今後の二酸化炭素排出量を1990年(平成2年)レベルの排出量(年間約71億tC)に押さえたとしても、21世紀末には二酸化炭素濃度は500ppmに達し、少なくとも今後2世紀の間ほぼ一定の割合で増加し続けるだろうとされる。したがって、気候変動枠組条約の究極的な目的である「気候系に対して人為的干渉を及ぼすこととならない水準での大気中の温室効果ガス濃度の安定化」を達成するためには、いずれ世界全体で温室効果ガスの排出量を現在のレベルより下げる必要がある。
 二酸化炭素以外の温室効果ガスの排出量については、二酸化炭素ほど正確には把握されていない。
 メタンの人為的な全世界の排出量は1991年(平成3年)には約2.5億トンであったと推計される(世界資源研究所推計)。水田耕作や家畜の飼育といった人間の生命維持に必要な生産過程で排出されるものが、それぞれ約30%と高い割合を示しているが、廃棄物埋立地や石炭採掘に伴う排出、石油や天然ガスの分配過程からの漏出等、排出管理が可能と考えられる分野からの排出も相当量に上る。全排出量に占める先進国の割合は、メタンの場合には約4分の1となっている。また、上記の2.5億トンとは別に、シベリアの凍土層に閉じこめられていたメタンが凍土層の融解とともに大気中に放出される部分もかなりの量に上ると言われ、我が国は1991年(平成3年)以来、ロシアと共同で研究を続けている。
 CFCのうち特定フロンの全世界の生産量は1992年(平成4年)には約64.3万トンであったと推計されている。しかし、CFCについては、オゾン層保護の観点から、モントリオール議定書に基づき生産等の規制が行われており、既に1995年(平成7年)末をもって原則として生産等が全廃されることとなっている。一方、CFCに代わる代替物質の中には、オゾン層は破壊しないもののCFCと同様に高い温室効果を有するものもあることから、米国や英国においては既に対策を講じている。我が国においても、これらの物質については別途、地球温暖化の観点から、まず、使用状況等の現状把握を十分に進めていく必要がある。


(2) 主要先進国の温室効果ガス排出の状況
 地球温暖化対策を世界的に進める枠組みである気候変動枠組条約が1994年(平成6年)3月に発効したことに伴い、条約上の具体的な責務として、我が国を含む先進締約国は、同年9月を期限として地球温暖化対策に係る情報の送付を行った。各国からの国別報告書には、()地球温暖化に関連する当該国の一般的な国家の状況、()温室効果ガスの排出及び吸収の目録(基準年である1990年時点の値)、()地球温暖化対策に係る政策及び措置、()温室効果ガス対策の効果の予測等を含む。国別報告書は、締約国会議において条約の約束(コミットメント)の十分性を検討する基礎となるものであり、気候変動枠組条約の暫定事務局は、期限までに寄せられた我が国を含むカナダ、ドイツ、オランダ、イギリス、アメリカ等15か国の国別報告書を編集・統合している(以下、「統合報告書」という)。ここでは、統合報告書に従って、主要先進国の温室効果ガスの排出の状況について見てみることにしよう。
 まず、各国の二酸化炭素排出量(燃料燃焼による)について見てみよう(第3-3-3図)。15か国合計の排出量は世界全体の燃料燃焼に伴う二酸化炭素排出量に対し41%を占める。一番大きなシェアを占めるのが電力やガスなどのエネルギー転換部門で、15か国全体では合計排出量の38%を占める。産業部門からの排出量は12か国において12〜28%を占める。我が国のエネルギー転換部門のシェアは36%、産業部門は28%となっている。運輸部門については、ノルウェー等3か国においてそのシェアが35%を越え、これら3か国を含む5つの国で同部門が総排出量中、最大のシェアを有している。一方、チェコ共和国の運輸部門の排出量は全体の5%にとどまり、これは公共輸送システムの比重が大きく、自家用車数が少ないためと考えられる。我が国の運輸部門のシェアは19%である。民生部門については、各国の集計内容が一貫していない。また、図には含まれていないが、「土地利用の変化と林業」(排出量と吸収量の合計)による二酸化炭素吸収量は、ニュージーランド、スウェーデンでは燃料燃焼起源の二酸化炭素排出量の50%以上、総排出量の大きいアメリカ、我が国等においても8%前後に相当し、森林が重要な吸収源となっている。
 メタンについては、15か国の排出量の合計を見ると、農業からの排出が38%(うち家畜からの排出が36%)、廃棄物が34%、エネルギーが27%(うち燃料採掘時における漏出が25%)となっており、これら3部門で全体の排出量のほとんどを占める。我が国においては、燃料漏出による排出シェアが低い分、水田耕作からの排出シェアが高い。
 亜酸化窒素の主な排出源には、農業(施肥)、工業プロセス、運輸部門での燃料の燃焼があり、15か国の合計排出量にそれぞれの排出源が占める割合は、40%、30%、15%である。畑作中心の他国の場合、施肥による農業からの排出が軒並み高いのに対し、水田耕作中心の我が国の場合は農業からの排出は約10%にとどまる。
 我が国の1990年度(平成2年度)の温室効果ガスの排出・吸収目録を第3-3-2表に示す。


(3) 我が国における二酸化炭素排出量の動向
 我が国の平成4年度の二酸化炭素排出量(燃料燃焼、工業プロセス及び廃棄物からの排出)は3億3千万tC(炭素換算トン)、一人当たり排出量は2.65tCであり、それぞれ前年度比1.2%増、0.8%増となっている。エネルギー関連の排出量を部門別に見ると、発電に起因する排出量を各部門に転嫁すれば、産業部門が排出総量の39.3%、運輸部門が18.9%、民生家庭部門が12.4%、民生業務部門が11.2%を占める(第3-3-4図)。第3-3-5図はそれまで比較的安定していた二酸化炭素排出量が再び増加傾向を示し始めた昭和62年度以降のエネルギー関連の各部門ごとの排出動向を見るため、平成2年度(1990年度)の各部門の排出量を100とした指数で表したものである。それによると、総排出量としては伸びは鈍化傾向にあるものの、各部門別では、民生業務部門が相対的に最も高い伸びを示し、運輸部門がこれに次ぐ。民生家庭部門については、平成3年度までは総排出量の伸びを下回っていたのが4年度には逆転している。一方、産業部門については景気の後退と歩調を合わせ、3年度からは排出量が前年度比マイナスとなっている。これらのことから、地球温暖化防止行動計画の目標達成のためには、産業部門においては景気の良し悪しに左右されることなく引き続き排出量の抑制に努めると同時に、民生、運輸部門については排出量増加の要因を詳しく分析することにより、一層積極的な対策を進めていく必要がある。

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