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第1節 

4 一つの生物種として

 多くの生物種は長い時間をかけて環境の変化に身体の形態を適応させてきた。しかし、人類による環境の改変は、こうした生物の形態適応に必要な速度をはるかに上回って行われている。これまで見たように人類も一生物種であり、自ら急速に改変しつつある環境に身体の形態を変化させるという方法で適応することができないことは他の生物と全く同様である。
 人類は、進化と共に生活状態を改善させてきたとされる。例えば、猿人は簡単な礫器を発明し、これを使用することによって獲物の量が増え、獲物を捕らえる労力の節約は、生活を楽なものにしたものと推測される。また、原人は一段と進歩した石器作成技術によって、礫器に刃を付け同時に火を作り出すことに成功した。旧人から新人にかけて道具の多様化と技術の精緻化が見られるとともに、豊かな精神生活が営まれるようになったとされている。新石器時代には、それまでの狩猟採取に加え、原始農耕と家畜飼育が始まったとされている。古代に至り農耕と牧畜が一層進展し、石器に代わって発明された金属器によって著しく生活の様式が変わり、現代に至るまで各種の金属により、我々はある一面で生活の豊かさを享受している。
 我々はこうした豊かさを享受し、その人口を爆発的に増加させているが、その陰で、現在、1日当たり50〜150種にも及ぶとされる生物種が絶滅しているということを忘れてはならない。我々もその生存に清浄な水や空気、食料といった良好な環境の恵みを必要とすることになんら変わりはないのである。多くの種が絶滅していると考えられる現状で、我々人類はどう対処していくべきか十分考えていく必要がある。
 全ての生物は生態系の一員として、系の均衡と調和の中に身をゆだねている。しかし、人類はこの系から抜け出し、自ら築いた社会・文明に依存している。そして、この社会・文明の活動は、不可逆的な環境破壊をもたらす力を持つまでに至っており、それは知らず知らずのうちに人類自身におよぶ可能性もある。人類は、将来世代の在りようについて考え、それに向けて行動することのできる唯一の生物であろう。今に生きる我々が、何をすべきか。いわば種としての存続がかかるその問いかけに、我々はどのような答を用意できるのだろうか。
 次節では文明と環境の関わりについて考察することを通じて、さらに我々人類の位置を探ってみたい。

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