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第1節 

1 生物の進化と絶滅

 生物の進化の歴史を振り返ると、この地球に生物が誕生したのは約35億年前とされる。その後、単細胞のバクテリア類が全地球に広がっていったものと考えられる。特に、今から約25億年前から6億年前まで全盛期を迎えたシアノバクテリア(藍細菌)は、光合成によって太陽の光を用いて水と二酸化炭素を食物や酸素に転換することが知られており、その繁栄はいわば、酸素汚染を引き起こし、他の多くのバクテリアを絶滅させたと言われる。生物は、細胞の構造上の違いからバクテリアや藍細菌のような原核生物と我々ヒトを含む真核生物に二分されるが、最古の真核生物の化石としては約14億年前のものが発見されている。真核生物は、バクテリアから進化する過程で核を獲得し、そのあるものが酸素を利用できるバクテリアを細胞内に取り込み共生するようになり、それが細胞内でエネルギーの生産を司るミトコンドリアの起源になったと考えられている。これにより、真核生物は当時多くの生物にとって有害であった酸素に対処し、有機物からのエネルギー生産に酸素を活用するよう進化したとされる。
 一つの細胞からなるごく小さい生物は、分裂して増殖し、多細胞生物となったものと考えられている。約7億年前になるとぜん虫類が現れ、食物摂取、運動、再生などのために特殊化した機能を担う細胞群をもっていたと考えられる。カンブリア紀(6億年前〜)になると、現在生存している多細胞生物の主要なグループ(動物門)が一斉に現れる。
 その後、約4億3800万年前の大規模な絶滅を経て、古生代のデボン紀(約4億1000万年前〜)になると魚類が、石炭紀(約3億6000万年前〜)になると両生類が繁栄した。約2億5300万年前には、いくつかの科に及ぶ大規模な絶滅を経験しているが、この頃の陸地はパンゲアと呼ばれる一つの大陸にまとまっていたと考えられている。恐竜などの爬虫類が栄えたのは中生代ジュラ紀(約2億1500万年前〜)といわれる。哺乳類は、中生代の三畳紀中期(約2億3000万年前)に誕生したとされるが、この時期は、爬虫類が適応放散によってシダ類や裸子植物の繁茂する陸地はもとより、水中や空中にもその生息地域を拡大していった時期と見られている。適応放散とは、動物が異なった環境に進出し、そこに適応することによって形態的分化を行い、新たな種を生成し新たな系統を分岐させていくことをいう。約2億1300万年前にも大規模な絶滅が見られるが、哺乳類は、白亜紀後期には、有袋類と有胎盤類とに進化している。白亜紀にはユーラシア大陸と陸続きであったオーストラリア大陸は、その後海で隔てられ、有袋類はそこで独自の進化を進めることとなった。
 今から約6500万年前、恐竜をはじめとする巨大爬虫類が絶滅すると生息空間の空きが生じたため、今度は哺乳類が爆発的な適応放散を迎えることとなった。
 霊長類の祖先が生まれたのは、およそ7000万年前頃と見なされている。霊長類はその後大脳が多少大きくなるなど進化し、始新世のころ今のキツネザルに似た動物が生まれた。原始的な最初の真猿類が現れたのは第三紀漸新世の初め、今から3500万年ほど前のことと考えられている。
 これまでいくつか見たように、生物は、数々の絶滅をくぐり抜け、進化をしてきた。多くの科が消滅する大規模な絶滅から比較的小規模な絶滅まで、幾たびかの絶滅があった(第1-1-3図)。特に大規模な絶滅の中には環境の変化、例えば大規模な寒冷化等が要因となったものが多い。このような気候変動は何万年、何十万年というタイムスケールで起きたものと考えられるが、現在IPCC等で予測されている気候変動の速度はそれに比して速いものとされている。

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