2 世界の動向とアジェンダ21に見る我が国の貢献
1992年(平成4年)6月にブラジルで開催された「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)において、21世紀に向けて持続可能な開発を実現するための具体的な行動計画であるアジェンダ21が採択された。アジェンダ21はその第38章において、アジェンダ21の実施に関する国別行動計画の準備及び検討を示唆しており、1992年(平成4年)のミュンヘンサミット及び1993年(平成5年)の東京サミットでは、先進7ヶ国は1993年(平成5年)末までに国別の行動計画を作成し、公表することに合意した。我が国においては、環境庁と外務省を中心として関係省庁の協力のもとに、1993年(平成5年)2月より素案作成作業を開始した。政府では、持続的発展が可能な社会の構築のためにはできるだけ多くの市民の参加と、非政府組織の積極的な関わりも奨励されるべきであるというアジェンダ21の全体に通ずる精神を尊重し、行動計画について幅広く意見を聴取することとし、行動計画の政府素案がまとまった後、一般に公表し3週間にわたって意見を募った。これに対し、約50の団体を含む100以上の個人・団体から数百にのぼる意見が寄せられた。これらの意見を踏まえ、政府部内においてさらに検討し、必要な修正を行った。1993年(平成5年)12月24日の地球環境保全に関する関係閣僚会議において「『アジェンダ21』行動計画」が決定され、1993年(平成5年)12月28日に国連に提出された。
「『アジェンダ21』行動計画」は、大気保全や砂漠化防止などの環境保全のほか、貧困の撲滅、人口問題など、アジェンダ21において掲げられた諸問題への我が国の行動計画を文書としてとりまとめたものであり、これにより、持続可能な開発を通じた地球環境の保全の実現に向けた我が国の決意を国際社会に対して示すものである。具体的には、それぞれの分野における計画、法律、予算措置等を中心に整理されている。構成は、アジェンダ21の40章の章立てに従い、?.社会的・経済的側面、?.開発資源の保護と管理、?.主たるグループの役割の強化、?.実施手段の各セクションに分れている。本行動計画で打ち出している我が国独自の特色としては、昨年11月に成立した環境基本法を踏まえ、第4章206/sb1.4>を中心に、我が国が自らの経済社会システムを環境への負荷の少ない持続的発展が可能なものにつくり変えていくことを目指した計画である点や、我が国の経験、能力を生かし、国際社会における地位に応じた環境ODAの推進など、環境と開発に関する国際協力において率先した役割を果たすべきであるとの積極的な姿勢を示している点等が挙げられる。
以下では、「『アジェンダ21』行動計画」を参考に地球環境保全を巡る世界の動向と我が国の貢献について概観したい。
(1) 地球環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築及び国民のライフ・スタイル自体を環境配慮型に変えるための普及、啓発等への努力
これまでの生産と消費のパターンの見直し、浪費的な生活習慣の見直しなど、その内容の変化を伴う健全な経済の発展を図り、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な経済社会を構築していくことが重要である。このためあらゆる経済社会活動に環境への配慮を組み込んでいく必要がある。まず、環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱等を記載した環境基本計画の作成を進め、これに沿って、規制的手法、経済的手法、環境影響評価、環境の保全に関する施設の整備、事業者や国民の積極的取組への支援等の多様な手法を有機的な連携の下に活用していくことによって持続可能な社会を構築していくことが必要である。
また、第1章206/sb1.1>において考察したように、国民のライフ・スタイル自体を環境配慮型に変えるため、政府としても普及、啓発等に向けた努力の必要性を認識しているところである。
(2) 地球環境保全に関する実効的な国際的枠組作りへの参加、貢献
地球環境保全については、我が国の能力を活かし、国際社会において我が国の占める地位に応じて、国際的協調の下に推進されるよう貢献を行っていくこととしている。以下、「『アジェンダ21』行動計画」に沿って地球環境保全への我が国の取組を概観したい。なお、地球環境の現状については、第4章206/sb1.4>において記述している。
ア 地球サミットフォローアップの着実な実施
国連持続可能な開発委員会(CSD)は、地球サミットのフォローアップを行う中心的機関として、国連の経済社会理事会(ECOSOC)の下に設置され、1993年(平成5年)6月に第1回会合が開催された。国連では、1997年(平成9年)に地球サミットのフォローアップとして、環境と開発に関する特別総会が開催されることとなっており、CSDではアジェンダ21の各章をテーマ別のグループに分類し、1997年までに毎年、それぞれの実施状況について検討していくこととなっている。「『アジェンダ21』行動計画」の策定も、CSDに対する重要な貢献の一つである(アジェンダ21:第38章)。
イ 地球温暖化
地球温暖化に関しては、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)等の活動への積極的支援を行うとともに、「気候変動に関する国際連合枠組条約」の下、「地球温暖化防止行動計画」に掲げられた広範な対策を計画的総合的に推進することとしている(アジェンダ21:第9章B)。
? 我が国は地球温暖化の防止を図るべく、1990年(平成2年)10月に地球環境保全に関する関係閣僚会議において「地球温暖化防止行動計画」を決定し、同行動計画に沿って広範な対策が推進されてきたところである。
二酸化炭素の排出抑制目標として、官民挙げての最大限の努力により、行動計画に盛り込まれた広範な対策を実施可能なものから着実に推進し、一人当りの二酸化炭素排出量について2000年(平成12年)以降概ね1990年(平成2年)レベルで安定化を図り、更に、前記の目標とあいまって、太陽光、水素等の新エネルギー、二酸化炭素の固定化等の革新的技術開発等が、予測される以上に早期に大幅に進展することにより、二酸化炭素排出総量が2000年(平成12年)以降概ね1990年(平成2年)レベルで安定化するよう努めるとしている。また、講ずべき対策については、今後20年間(1991年(平成3年)〜2010年(平成22年))に講ずべき対策として、二酸化炭素排出抑制対策、メタンその他の温室効果ガスの排出抑制対策、森林等の二酸化炭素吸収源対策、科学的調査研究、観測・監視、技術開発及びその普及、普及・啓発、国際協力等広範な対策を掲げている。
? 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」における検討
1988年(昭和63年)11月、世界気象機関(WMO)と国際環境計画(UNEP)の共催により設置された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、地球温暖化に関する科学的知見、環境的・社会経済的影響及び対応戦略について世界各国の科学者、行政官等による検討を行い、1990年(平成2年)8月に第1次評価報告書、1992年(平成4年)2月にその補足報告書を取りまとめた。これらの成果は、地球温暖化に関する科学的知見を集約した最も信頼すべきものであり、気候変動枠組条約交渉の進展に大きく貢献した。IPCCは1995年(平成7年)末に第2次評価報告書を取りまとめるべく現在も活動を続けている。
? 気候変動枠組条約
1990年(平成2年)12月の第45回国連総会決議に基づき条約交渉会議が設置され、1992年(平成4年)5月に条約を採択した。1992年(平成4年)6月の地球サミット期間中に我が国を含む155カ国が署名した。翌1993年(平成5年)5月28日、我が国は本条約を締結し、21カ国目の締約国となった。同年12月21日、締約国数が発効要件である50カ国に達し、条約は本年3月21日に発効した。その究極的な目的は、大気中の温室効果ガス濃度の安定化であり、先進国の責務として、1990年代の終わりまでに温室効果ガス排出量を従前のレベルに戻すことが条約の目的に寄与するものであるとの認識の下での国家政策及び措置の採用並びにその効果の見積り等に関する情報の送付、途上国への資金・技術の支援等が求められた。条約採択後もその円滑な実施に向け引続き交渉会議が開催されており、2000年以降の具体的な目標を定めていないなど現行条約のコミットメントの妥当性、締約国が共同で対策を実施するジョイントインプリメンテーションの基準、第1回目の情報の送付のガイドライン等について検討している。
ウ 生物多様性の保全
従来のワシントン条約やラムサール条約などはその主目的が野生生物の国際取引の規制や湿地の保全といった特定の課題に対応したものであったため、野生生物保護の枠組みを広げ、生物の多様性の保全と持続的な利用に関する世界的かつ包括的な枠組みを設けようと、生物の多様性に関する条約(Conventionon Biological Diversity)が1992年(平成4年)5月、ナイロビでの第7回条約交渉会議で採択され、同年6月の地球サミットで、我が国を含む157か国が条約に署名した。また我が国は1993年(平成5年)5月28日に条約を締結し、条約は同年12月29日に発効した。同条約は生態系、種(種間)、遺伝子(種内)の各レべルで多様性を保全し、また、その持続可能な利用、利益の衡平な配分をその目的とし、そのための措置として、国家戦略の策定、重要な種や生態系の特定とモニタリング、その他研究・教育、保護地域の設定等について定めている。1993年(平成5年)4月1日には「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」を施行し絶滅のおそれのある野生動植物の保護の推進を図るとともに、自然環境保全に係る既存法制度の運用に当たって生物多様性保全の観点に十分に配慮する等既存法制度の効果的な活用を図ることとしている。環境基本法では、生物の多様性の確保が環境保全施策の策定及び実施のための指針の一つとして位置づけられた。また、生物多様性条約の実施に伴う施策の円滑な推進を図ることを目的として、関係9省庁で構成する連絡会議が1994年(平成6年)1月に設置された。「『アジェンダ21』行動計画」では、国内における「自然環境保全基礎調査」等による基礎的なデータ収集・整備等を基礎とした生物の多様性の保全及び持続可能な利用の観点を含む国レベルの戦略、計画等の策定並びに生物多様性分野における国際協力の推進により、「生物の多様性に関する条約」が国際的な枠組みとして効果的に機能できるよう貢献することとしている(アジェンダ21:第15章)。
エ 熱帯林の保全
平成5年(1993年)11月、国際熱帯木材機関(ITTO:1985年(昭和60年)発足)の第15回理事会が本部の横浜で開催され、マレイシア等の熱帯木材生産国17ヶ国、米国等の消費国22ヶ国、関係国際機関、NGO等が参加した。ITTOによるプロジェクトは、熱帯林経営、森林保育、未利用樹種の利用等に関する研究開発等多岐にわたり、これまで、実施又は実施予定のプロジェクトは200件に及んでいる。なお、現行の国際熱帯木材協定(ITTA)は1994年3月末で終了することとなっていたため、昨年から4回にわたる協定の改訂交渉会議が行われ、1994年1月の交渉会議で新協定の採択に至った。この新協定は、基本的には協定の対象範囲を含めて現行協定の枠組みを踏襲したものとなっているが、改訂された主な内容としては、?「西暦2000年目標」を新協定に明記、?熱帯林の持続可能な森林経営を達成するため、新たな基金(名称「バリ・パートナーシップ基金」)を創設するなどである。このほか、温・寒帯林を保有する消費国が自国の森林の持続可能な森林経営を推進又は西暦2000年までに達成する旨の共同声明を行った。
我が国の経済は世界の森林と深い関わりを持っていることから世界の国々からより一層の貢献が求められており、熱帯林をはじめとする世界の森林の保全についてさまざまな取組を進めているところである。政府レベルの取組としては、FAO、ITTOなどの国際機関の活動に貢献しているほか、開発途上国との間でも協力事業を実施している。これまで、東南アジア、オセアニア、アフリカ、中南米の開発途上国を対象に森林管理や森林造成技術開発などの協力事業を実施し、成果をあげているところである。我が国の二国間森林・林業協力は、国際協力事業団(JICA)を通じて行うプロジェクト方式技術協力、開発調査、開発協力及び海外経済協力基金(OECF)を通じて行う有償資金協力のほか、無償資金協力等により推進されてきている。「『アジェンダ21』行動計画」では、持続可能な森林経営を推進していくための先進国と途上国の信頼醸成、国際協力関係の強化を図り、国際熱帯木材機関(ITTO)等を通じた多国間協力を促進することとしている(アジェンダ21:第11章)。
オ 有害化学物質
有害な化学物質の適正な管理を国際的に推進することが極めて重要になっており、国連環境計画(UNEP)では、1987年(昭和62年)に「国際貿易における化学品の情報交換に関するロンドンガイドライン」を採択し、同ガイドラインは、1989年(平成元年)に改正されている。このロンドンガイドラインでは、各国における規制措置、輸入、輸出の状況等の国際的な情報交換を行うことの他、禁止又は厳しく制限されている化学物質が、輸出相手国の意志に反して輸出されることがないよう事前の意志確認制度(PIC:PriorInformed Consent)及び輸出相手国に事前に関連情報を提供する制度(輸出通報制度)を整備することが求められているところである。
「『アジェンダ21』行動計画」では、国際化学物質安全性プログラム(IPCS)、OECD等で行われている安全性評価等に積極的に参加するとともに、「国際貿易における化学品の情報交換に関するロンドンガイドライン」等に基づく国際的管理の推進に協力することとしている(アジェンダ21:第19章)。
カ 有害廃棄物の越境移動問題
我が国においては、廃棄物中の有用物を回収するなどのため、有害な廃棄物が国際取引されている例がある。こうした地球規模での有害廃棄物の越境移動に対して、国連環境計画(UNEP)を中心に国際的なルール作りが検討され、1989年(平成元年)3月スイスのバーゼルにおいて「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」が採択され、1992年(平成4年)5月5日に発効した。我が国でも、1993年(平成5年)9月バーゼル条約に加入(我が国についての発効は同年12月)するとともに、同年12月にはその国内法である「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律」が制定、施行された。
バーゼル条約等を誠実に履行することは締約国の責務であり、地球環境問題の重要なテーゼとして、また、特に国際協力については東南アジアを中心として日本の責務が強く求められているところである。なお、1994年(平成6年)3月の第2回バーゼル条約締約国会議においてOECD加盟国から非OECD加盟国への最終処分目的の有害廃棄物の輸出の即時禁止、リサイクル目的の有害廃棄物の1998年以降の禁止等を内容とする決定がコンセンサスにて採択されており、今後我が国として同決定への誠実な対応が求められている。「『アジェンダ21』行動計画」では、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」に基づき、同条約の国内担保法の的確かつ円滑な実施及び関係各国、国際機関との緊密な連絡を確保することとした(アジェンダ21:第20章)。
キ オゾン層保護
オゾン層保護については、「オゾン層の保護のためのウィーン条約」(1985年)及び「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」(1987年)に基づき、国際的に協調した対策が行われており、我が国でも、条約及び議定書の的確かつ円滑な実施を確保するために、「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」(オゾン層保護法)を昭和63年に制定し、クロロフルオロカーボン(CFC)等の製造規制のほか、使用事業者の排出抑制・使用合理化、オゾン層等の観測・監視等を実施してきたところである。
1992年(平成4年)11月のモントリオール議定書第4回締約国会合において、CFC等既存規制物質の全廃前倒し、HCFC等新規規制物質の追加等の規制強化を内容とする議定書の改正等が採択された。これを受け、我が国では、既存規制物質の全廃前倒しについては、既に平成5年9月に関連告示を改正したところであり、新規規制物質の追加等の議定書の改正等については、オゾン層保護法の改正を行うこととしている(アジェンダ21:第9章C)。
ク 砂漠化
1960年代後半から70年代にかけてアフリカのサヘル地域で発生した干ばつを契機として国際的な取組が開始された。1977年(昭和52年)に国連砂漠化防止会議(UNCOD)が開催され、そこで採択された砂漠化防止行動計画に基づき、UNEPを中心に取り組まれてきた。しかし、現在まで砂漠化の進行が抑制されるには至っていない。1992年(平成4年)6月、地球サミットにおけるアフリカ諸国の提案による国際的な砂漠化防止条約の策定のための政府間交渉委員会の設立要望(アジェンダ21第12章)を受け、1992年(平成4年)12月の第47回国連総会において砂漠化防止条約策定のための政府間交渉委員会(INCD)の設置が決定された。1993年(平成5年)1月には交渉準備のための組織会合が開催された。我が国としても、本年6月の条約完成を目指して、今後の条約交渉に積極的に参画・貢献するとともに条約策定を踏まえ、砂漠化問題の解決に向けた国際協力を総合的に推進していく必要がある。環境庁では、これまでの我が国及び先進各国の砂漠化問題への取組の状況等を把握し、条約の内容を踏まえた総合的な砂漠化防止対策の進め方等について検討するなど砂漠化問題への取組を強化している。「『アジェンダ21』行動計画」では、人間活動と砂漠化の相互影響評価等の調査研究を推進するとともに、1994年(平成6年)6月を目途に行われている条約作成に引き続き積極的に参加、砂漠化問題解決に向けた地域住民の自助努力を支援することとしている(アジェンダ21:第12章)。
ケ 海洋環境保護
我が国において、陸上に起因する汚染の防止については、「水質汚濁防止法」等により、また、船舶、海洋施設等に起因する汚染の防止については、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」等により、それぞれの対策が講じられている。「『アジェンダ21』行動計画」では、「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドン条約)」、「MARPOL73/78条約」等による国際的な取組に積極的に参加及び国際海事機関(IMO)や国連環境計画(UNEP)等の国際機関と協調し地域環境を含む国際協力及び調整を推進することとしている(アジェンダ21:第17章B、第20章C・D)。
コ 酸性雨
酸性雨は国境を超えた多国間にまたがる広域的な環境問題であり、その対策には地域全体での取組が必要である。欧米では、既に湖沼の酸性化、森林の衰退等の原因として国境を越えた環境問題として重要視され、「長距離越境大気汚染条約(ウィーン条約)」に基づき、欧州では、20数カ国、北米では、アメリカ、カナダにおいてモニタリングネットワークが構築され、モニタリングの実施、情報交換及び対策(酸性雨原因物質の排出削減の議定書の批准)が実施されている。「『アジェンダ21』行動計画」では、国内における調査・研究等の推進、東アジア規模での予測モデルの開発及び東アジア地域における酸性雨ネットワークの構築を行い、その実態解明と対応措置の検討に資することとしている(アジェンダ21:第9章D)。
サ 貿易と環境
我が国は、四極貿易大臣会合において米国、EC及びカナダと貿易と環境の問題に関する意見交換を行うなど、本件の国際的議論を加速化する役割を果たしてきた。「『アジェンダ21』行動計画」においては、環境上の便益及び費用が価格に内部化される場合に、貿易政策と環境政策の相互支持が可能になり、適切な環境政策の採用によって支えられる開放的な多角的な貿易システムは、環境に良い影響を与え、持続可能な開発に貢献するとの認識の下、OECD、GATT等の場で、貿易と環境は相反するものではなく、むしろ相互補充的なものとするとの観点に立って、環境保全と自由貿易体制の維持強化の双方の目的を同時に達成する政策の在り方についての統合的な検討が行われてきており、我が国としても今後とも引き続き貢献することとしている(アジェンダ21:第2章206/sb1.2>B)。
(3) 地球環境保全及び開発途上国の環境保全のための資金供与の制度に関する国際的取組
アジェンダ21を地球的規模で実施していくためには、開発途上国が持続可能な開発に向けて努力するとともに、先進国がこのような努力を支援していくことが重要である。特に資金協力面においては、我が国は、他国特に途上国による環境への取組を現在ある二国間、多国間のメカニズムを通じて支援していくことが、効率的・効果的な支援の観点から望ましいと考えている。
ア 環境分野における政府開発援助(ODA)
我が国として初めて環境の保全を直接の目的とする政府開発援助(環境ODA)について目標を表明したのは、1989年(平成元年)のアルシュ・サミットであった。この際、二国間、多国間の環境ODAの金額について、89年度から3年間で3000億円をめどとして拡充・強化に努力することを表明し、この目標は3年間に4075億円を実現して達成された。
地球サミットでは、国際開発協会(IDA)や地球環境ファシリティへの積極的協力といった多国間の環境協力の方針を明らかにし、また、我が国の環境関係の政府開発援助を1992年度(平成4年度)からの5年間の累計で9000億円〜1兆円をめどとして大幅に拡充・強化する方針を明らかにした。平成4年に閣議決定された「政府開発援助大綱」では、その基本理念において、環境の保全は、先進国と開発途上国が共同で取り組むべき全人類的な課題となっていると認識されるとともに、「環境保全の達成を目指しつつ、地球規模での持続可能な開発が進められるよう努める」こととした。また、環境と開発の両立を4原則の一つに挙げ、環境問題等の地球的規模の問題に対する開発途上国の努力を支援することとした。今後は、途上国との政策対話や優良案件の発掘等の努力の強化により、これらの方針の具体化を図ることが課題となっている。また、「政府開発援助大綱」では、我が国が環境保全と経済成長の両立に成果を挙げてきていることを踏まえ、環境問題に関する支援に際してその技術、ノウハウ等を活用することとしており、国際協力事業団等を通じた環境協力がなされている。地球規模の問題や民主化・市場経済導入の努力を行っている国の増加等により追加的な援助に対する需要が生じている中で、ODAの量的拡充と質的改善を図ることが重要な課題となっているため、厳しい財政事情の下で、1993年(平成5年)から1997年(平成9年)の5か年を対象とする第5次中期目標が設定された。同期間中のODA実績総額を700〜750億ドルとするよう努めるとともに、特に、環境分野の援助については、国連環境と開発に関する国際会議で表明した目標を念頭に置きつつ、環境と開発の両立に向けた途上国の自助努力を支援するため、有償資金協力及び無償資金協力の弾力的な運用を図ることとした。
さらに、環境基本法第2章第6節においても地球環境保全等に関する国際協力等に関して規定している。
また、我が国のODAの実施に当たっては、現地の環境保全に配慮することが極めて重要であることは言うまでもない。政府としては、平成元年の地球環境保全に関する関係閣僚会議における申合せにより、ODA実施に際しての環境配慮を強化することとしている。円借款を担当する海外経済協力基金(OECF)は、1989年(平成元年)10月に融資案件が環境に配慮して行われることを確認するための「環境配慮のためのOECFガイドライン」を策定した。また、国際協力事業団(JICA)も、1990年(平成2年)2月の「ダム建設計画に係る環境インパクト調査に関するガイドライン」を始めとして、分野別に環境配慮ガイドラインを策定してきている。
環境基本法においても第35条第1項で、国が国際協力を実施するに当たって、当該国際協力に係る事業が、その地域において環境保全上の支障をもたらすことのないよう適切な配慮を行うことが必要であるとの趣旨で配慮に努める旨の規定がなされている。
イ 開発途上国への資金協力計画
平成5年6月には、「開発途上国への資金協力計画」が策定された。同計画は、今後の5年間でODA第5次中期目標によるODAの資金供与及び日本輸出入銀行のアンタイド・ローン等の非ODAの資金供与により、開発途上国への資金供与を行うこととしている。また、海外経済協力基金及び日本輸出入銀行からの資金の供与にあたっては、環境及びインフラの整備等の分野に特に重点を置くとともに、世銀等国際開発金融機関やIMFとの協調融資を促進する等とした。
ウ 地球環境ファシリティ(GEF)
地球規模の環境問題の解決に当たっては、開発途上国もこの問題に積極的に取り組むことが重要であるため、途上国による取組を促進するため、多国間の資金協力メカニズムとして、1991年(平成3年)に地球環境ファシリティ(GEF:GlobalEnvironment Facility)が試行的に発足し、世界銀行、UNEP、UNDPが共同で運営している。GEFの対象分野は、地球温暖化対策、国際水域環境保全、生物多様性保全、オゾン層保護の4分野に限定している。GEFの3年間の試験的プログラムが1994年央で終了することから、その後のGEFのあり方について地球サミットでの合意に従って、新しい仕組、資金規模等について議論が行われ、1994年3月ジュネーブ(スイス)における参加国会合において合意に至った。新GEFは、試験的プログラムの成功を受け、資金規模は、約20億米ドルに増やすこととなった。我が国は我が国の国際社会における地位を勘案し、アメリカに次いで第2位の資金拠出国(約41,500万米ドル)になることを表明している。
(4) 環境上適正な技術移転の促進等の実施を通じた開発途上国の環境問題対処能力の向上への貢献
環境への負荷の少ない持続可能な発展を達成するためには、開発途上国における環境保全の能力を強化することが必要不可欠であり、そのためには先進国等が有する環境上適正な技術への適切なアクセスを通じた環境上適正な技術の普及が必要である。また、特にそのような技術及び技術を運用するための対応能力が不足している国に対しては、適切な技術移転を促進するとともに、研修等の実施を通じて技術移転を受ける側の対応能力の育成及び向上を図ることが大切である。
このため、データベース作成・管理、研修、コンサルティング等により途上国への環境上適正な技術の移転を進めることを目的として、UNEP国際環境技術センターが1992年(平成4年)10月我が国に設立された。我が国としては同センターを核とした既存の環境上適正な技術と経験に関する情報のシステム化個々のデータベースのネットワーク化の促進及び国際的な技術ネットワーク作りに貢献していくこととしている。
また、国際協力事業団(JICA)を通じた技術協力の推進を引き続き行うこととしている。我が国の支援によりタイ、インドネシア及び中国等に設立、または設立されつつある環境センターを通じた協力による当該国における能力の向上に資するための人材育成及び他の開発途上国における同様な協力を推進していくこととしている。さらに、関係省庁及び地方公共団体の協力の下にJICAによる開発途上国等からの研修生に対する環境保全に関する集団研修の実施、我が国の専門家の派遣等の実施及びそれによる技術指導、開発途上国の環境問題対処能力の向上への貢献を行っていくこととしている。
(5) 地球環境保全に関する観測・監視と調査研究の国際的連携の確保及びその実施
持続可能な開発を推進するためには、長期的な視点に立って開発がもたらす社会的・経済的及び自然的影響を予測し、今後我が国としてとりうる政策の選択の幅を政策立案者、一般国民等に提供する必要がある。また、複雑な地球システムについて、科学的な調査研究、観測・監視を推進することによってその基礎的な理解を深めるとともに、特に人間活動とそれに伴う地球環境の変化の相互影響に関する理解の増進が必要である。このため、
? 「地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)」及び「世界気候研究計画(WCRP)等の世界的な研究計画及び「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」等の科学的評価活動に対する計画立案段階からの積極的な参加及び研究の実施、アジア・太平洋地域における研究ネットワークの構成を始めとする地域協力への積極的貢献(アジェンダ21:第35章A)
? 地球の広範囲を短期間で観測できる人工衛星を始め、海洋観測、陸上観測、航空観測等に必要となる地球観測技術の研究開発の推進(アジェンダ21:第35章B)
? 「世界気候観測システム(GCOS)」、「世界海洋観測システム(GOOS)」等のグローバルなシステムの構築に向けた貢献、国際的なモニタリング計画への参加・連携による世界的な観測・監視への貢献(アジェンダ21:第35章B)
? 地球観測によって得られるデータの処理・解析、データベース等の整備並びに地球観測情報の国際的ネットワーク構築に向けた貢献(アジェンダ21:第35章B・C・D)
等を行うこととしている。
(6) 中央政府、地方公共団体、企業、非政府組織(NGO)等広範な社会構成員の効果的な連携の強化
「『アジェンダ21』行動計画」では第24章〜32章にかけて、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会を構築するには、社会のあらゆる構成員の環境保全に対する理解を深め、自主的な取組を積極的に進めていくことが期待されるため、各主体に対する記述がされている。まず、これらあらゆる構成員に対する環境教育の充実、情報の適切な提供等に努め、環境保全活動への参画を促すこととしている。一方、情報の提供等により国際協力を含む地方公共団体における自主的、主体的な環境保全に関する施策を支援するとともに、環境分野に関連する非政府組織(NGO)の活動についても、地球環境基金等を通じて支援の充実・強化を図るとした。その他、広範な社会構成員が、各々の果たす役割に応じて、環境保全活動に対して自主的に取り組めるような支援を行うこととしている。
今後は、本行動計画が地球環境保全に関する関係閣僚会議において決定されたことにより、政府として一体となってその効果的かつ円滑な推進に努めていくこととなる。具体的には、環境基本法に基づいた環境基本計画の策定等の施策の展開を図るなど、我が国として重点的に実施していきたいと考えている6つの項目の個々の施策について推進していくとともに、必要に応じ本行動計画の見直しを行う等、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築に向け、一層の努力がなされることになる。