人類は、自然界から食糧、薪や石油などのエネルギー等の資源を採取してそれを消費し、ゴミなどの不用物を自然界に排出してきた。自然の生態系には、「動物の死骸を微生物が分解し、それを養分として植物が育ち、それをまた動物が食べる」といった食物連鎖に代表される循環のシステムがある。人間の資源採取と不用物排出は、自然界に何がしかの影響を与えずにはいられないが、それがわずかである場合には、排出される不用物はこの循環のシステムにより再び資源に転換されるため、その影響はわずかなものに留まっていた。しかし、産業革命以降は、社会経済活動の規模が拡大するにつれ、採取量が自然の再生能力の範囲を越え、また排出量が自然の受容可能な量の範囲を超えてしまったため、地域的な環境問題が深刻化した。その後、さらに人間の社会経済活動は、自然界には存在しなかった新たな物質を作り出しつつ資源供給源と不用物排出先を次々に新たに求めるという方法で維持、拡大されてきた。しかし、人口・社会経済規模の拡大に応じて採取と排出の量が飛躍的に増大する中で、資源採取による資源の枯渇や種の絶滅、不用物排出による汚染物質の蓄積といった現象が生じ、地球の環境は有限であるという事実が実感を持って認識されるようになった。このように、今日の環境問題は、資源採取と不用物排出の量と質が自然の循環の容量を超えてしまったため生じたものと言える。
本章の第一節では、世界と我が国の人口増加、経済成長、エネルギー使用、農産物の生産や森林水産資源の活用等環境問題と関連の深い主要な社会経済活動の長期的な趨勢を概観することとしたい。
本章の第二節では、循環に着目し、地球規模、国家間、国内といった様々なレベルでの物質・エネルギー循環を考察することを通じて、その環境負荷の実態と課題に迫りたい。