この環境白書(総説、各論)は、環境基本法第12条の規定に基づき政府が第129回国会に提出した「平成5年度環境の状況に関する年次報告」及び「平成6年度において講じようとする環境の保全に関する施策」である。
はじめに
今回の環境行政に関する政府の年次報告は、平成5年11月に成立した環境基本法に基づく初の報告となる。
これまでの公害対策基本法に基づく年次報告は昭和44年6月の第1回報告から昨年の平成5年6月の第25回報告に至る四半世紀にわたっており、今回の報告は、第26回目の年次報告であると同時に、環境基本法の理念の具体化に向けた新たな取組を扱った第1回目の報告でもある。
第1回目の年次報告は、その第3章「今後における公害対策の課題」で次のように述べている。「世界の驚異とされた我が国の経済開発等が、反面において人間環境の悪化を招いたことは否定しえない。公害はすでに重大な様相を呈しており、さらに拡大の要因をはらんでいる。その解決は大きな困難を伴うと思われるが、公害問題を克服しなければ、自然の秩序と調和がとれ、人間の真の福祉の増進につながる明日の社会の実現はありえない。そこにわれわれに課された新たな試練がある。」
環境基本法の成立の大きな背景の一つは、深刻化する地球規模での環境問題であった。地球温暖化やオゾン層の破壊を始めとする地球規模での環境問題は人類の生存基盤である地球環境に大きな脅威を与えつつあり、いまや国境を越えた国際的な取組が求められている。特に先進国においては、持続可能な経済社会の構築という観点から、これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄型の生産、消費構造について厳しい見直しが迫られている。その意味で、先に紹介した第1回目の年次報告の認識は、四半世紀を経て、一国内の環境問題から地球規模での環境問題へと舞台を移して再び今日の認識へと引き継がれたと言えよう。
本年度の年次報告は、総説と各論に分かれており、各論では政府による環境の保全に関して講じた施策を分野毎に整理して収めている。また、総説においては、まず、序章において地球規模での環境問題と密接に結びついている我が国及び世界の社会経済活動の趨勢について概観し、併せて持続可能な経済社会の基礎である物質循環について窒素などを例に考察した。次に第1章においては、今日の日常のライフスタイルが環境に大きな負荷をかけて営まれていることを指摘し、こうしたライフスタイルを見直す市民の具体的な取組を紹介するとともに、環境にやさしい生活様式や行動様式が人々に伝播、共有され、新しい生活文化として定着していくために必要な方策等について述べた。第2章においては、環境と経済との関係に焦点を当て、環境保全投資が経済に与える影響を分析するとともに、産業界において進みつつある持続可能な経済社会という観点からの自主的な取組について紹介した。さらに、今日成長しつつあるエコビジネスについて概観するとともに、産業界において今後一層取組むべき課題について整理した。第3章においては、持続可能な経済社会の構築に向けた政府を中心とした取組を整理して述べた。最後の第4章は、昨年まで第1章として置いていたものであるが、今回の報告では序章から3章までの背景をなす基礎的、基本的なデータとして整理し位置付けた。
今日の環境問題は、空間的にも、時間的にも大きく広がってきており、その対応は極めて困難なことが予想されている。しかしながら、四半世紀前、やはり危機的な公害の状況の中でその克服を決意し、政府、地方公共団体、事業者、国民が一体となった努力によりそれを実現してきた我が国の経験を振り返るとき、今日の新たな課題である持続可能な経済社会の実現に向け、新たな決意の下に、政府、地方公共団体、事業者、国民が一体となった新たな取組が粘り強く展開されていくことが期待されている。