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第4節 

1 政府開発援助等

(1) 調査及び事業の発掘
 我が国が環境分野の援助を拡充・強化していくに当たり、開発途上国の環境問題の状況やその背景にある社会・経済条件を的確に把握するとともに、開発途上国との各種政策対話を強め、優良な援助案件の発掘に努めることとしている。この観点から、政府は、平成元年(1989年)の東南アジア、3年の東アフリカに引き続き、5年1月にインド環境ミッションを派遣して、環境援助についてインド政府関係機関及び関係援助機関との幅広い協議を行った。また、国際協力事業団(JICA)は、関係省庁の協力を得て、柳州市大気汚染総合対策計画に係る中国プロジェクト形成調査団を平成4年11月に、エジプト・プロジェクト形成調査団を同年12月に派遣する等、個別案件形成のための各種調査等も積極的に推進した。
(2) 開発調査
 開発途上国における環境保全に関するマスタープランの策定等のため、国際協力事業団が4年度(1992年度)に実施した開発調査の主なものを第8-4-1表に示す。


(3) 専門家派遣
 開発途上国の行政機関・研究機関等への技術協力を行うために、国際協力事業団は、関係省庁、地方公共団体等の協力の下に、専門家の派遣を行っでいる。環境分野の専門家派遣は急速に増加しており、例えば、環境庁関連では、4年度にタイ、中国、インドネシア、韓国等へ合計85名の専門家等を派遣した(第8-4-1図)。環境分野の専門家派遣のニーズは近年急速に高まっており、人材の確保と養成が大きな課題となっている。国際協力事業団、関係省庁及び関係団体においては、人材の育成のための研修の拡充、円滑な派遣のための人材登録等を推進するとともに地方公共団体等との一層の連携に努めている。


(4) 研修員受け入れ
 開発途上国には、環境保全全体に関する専門的な知識経験を有する行政官・技術者の不足に直面している国が多く、国際協力事業団は、関係省庁、地方公共団体等の協力の下に、集団研修を実施している。4年度には、環境行政、環境技術(水質保全)、環境技術(大気保全)等の集団研修の他、東欧諸国やブラジル等を対象とした国別の特設研修を実施した。また、開発途上国の要請により個別研修を各国のニーズに応じ随時実施している(第8-4-2表及び第8-4-3表)。
 そのほか、世界銀行等の国際機関を通じて我が国に来る研修員も増加している。


(5) プロジェクト方式技術協力
 専門家派遣、研修員受け入れ等を組み合わせたプロジェクト方式技術協力が関係各省庁の協力の下に国際協力事業団により実施されている。実施中のプロジェクトの主なものは第8-4-4表のとおりである。また、協力期間の終了したプロジェクトに対して、必要に応じ追加的な協力を行っている。
 なお、新規のプロジェクト方式技術協力の実施についての要請に対し、4年度には、チリ環境センター案件について基礎調査団を派遣した。


(6) 地方公共団体等の役割
 専門家派遣、研修員受け入れ等の環境協力について、環境に係る個別分野の豊富な経験と人材を有する地方公共団体等の果たす役割は大きく、平成4年度においても各地方公共団体より計26名の環境専門家を派遣するなど、多大な協力が行われた。
(7) 無償資金協力
 無償資金協力をより効果的なものとするために施設の設立・運営のためのプロジェクト方式技術協力も組み合わせつつ無償資金協力を実施した(第8-4-5表)。


(8) 有償資金協力
 かつて我が国の戦後復興にも大いに役立ったとおり、有償資金協力は経済インフラ型案件への援助等を通じ、開発途上にある国が持続可能な開発を確保し、経済テイクオフを行っていく上で大きな効果を発揮する。
 環境関連分野でも同様であり、我が国は環境分野にも積極的に有償資金を供与してきている。
 主な分野としては規模が大きいため無償資金協力や技術協力では対応が容易でない、上下水道、植林、大気汚染対策等の事業が中心となっている。
 表第8-4-6表に示すように、4年度においてもブラジルで実施される合計990億円の3件のプロジェクトをはじめ、各種の環境関連の融資が行われている。
 また、産業公害防止を目的とした民間企業向けのツーステップ・ローンが、4年度に初めてインドネシアとタイで供与された。


(9) 基礎調査等
 以上のような事業を円滑に推進するため、関係省庁では途上国の環境問題やその背景に関する調査等を実施した。
(10) 国際機関を通じた協力
 各種国際機関を通じた協力は、特に二国間協力のみでは十分に対応できない地球環境問題、共通の取組のための指針作り、情報量の少ない国・分野等への取組を進める観点から重要である。
 4年度(1992年度)には、環境問題について中心的役割を果たしている国連環境計画(UNEP)に対し、11億7,700万円(国連環境基金及びUNEP国際環境技術センター技術協力信託基金)の拠出を行うとともに、熱帯林保全と持続的利用のため、国際熱帯木材機関(ITTO)に対し、14億6,800万円を拠出した。また、途上国における持続可能な農林水産業研究を世界的規模で推進している国際農業研究協議グループ(CGIAR)に対し総額34億7,500万円を拠出した。さらに、我が国が主要拠出国となっている国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アジア開発銀行等の多国間援助機関も環境分野の取組を強化しており(例えば、世界銀行の融資案件のうち環境要素を含むものは4割)、これらの機関を通じた協力も環境分野では重要になってきている。特に世界銀行及びアジア開発銀行等に対しては、4年度、環境関連事業等のために合計56億5,000万円を拠出した(下記GEFへの拠出を含む)。特に、開発途上国における地球温暖化、生物の多様性の減少、国際水域環境悪化、オゾン層破壊の問題への取組のために資金を供与する3年間で約10億SDRの試験的プログラムとして世界銀行、UNDP及びUNEPの協力により1991年(平成3年)に発足した地球環境ファシリティ(GEF)のコア・ファンド(地球環境信託基金)ヘの拠出については、これまでの1千万ドルに追加して30億円を拠出した。その他、FAO等各国際機関の環境保全事業への取組について資金拠出を行っている。
(11) 政府開発援助以外の政府資金による協力
 ブラジル企業の行う環境保全対策設備投資プロジェクトの実施を支援するため、世界銀行との協調融資として、日本輸出入銀行は、4年9月ブラジル国立経済社会開発銀行に対し、総額65億円を限度とするアンタイドローンを供与する契約を行った。本ローンは、3年6月のメキシコ・ガソリン無鉛化プロジェクトに対するローンに続く輸銀の2番目の本格的な環境改善プロジェクト向け融資であり、また政府開発援助以外の政府資金による環境分野の協力として意義を持つ。
(12) 湾岸環境協力
 1990年(平成2年)8月2日のイラクのクウェート侵攻後、特に、1991年(平成3年)1月末以降、イラクによる原油流出及びクウェート油井の炎上により湾岸地域は深刻を環境問題に直面した。我が国は、周辺諸国に対し、応急対策を実施するとともに、紛争終了後、国際緊急援助隊専門家チーム、国際協力事業団の専門家派遣、国際機関の対応のための拠出、民間団体による協力を行い、また平成4年度には、特設研修コースとして関係国の技術者等を対象に「中東環境セミナー」(参加者7名)を実施した。
(13) 東欧環境協力
 東欧の深刻な環境問題に対しては、平成3年1月の海部総理(当時)の東欧訪間時の表明等を受け、国際協力事業団等を通じ技術協力等を推進している。4年度は東欧諸国からの研修員を受け入れるとともに、ハンガリーのシャヨバレー地域大気汚染対策、チェコスロバキアのメルニーク発電所排煙脱硫対策計画等の開発調査を実施中である。また、東欧地域の環境問題対策を支援する目的で設立された中・東欧地域環境センター(在ブダペスト)に対し、平成3年度の80万ドルの出資に引き続き、4年度にも80万ドルを出資した。

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