1 絶滅のおそれのある野生生物の保護の推進
(1) 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律の制定
環境庁が平成元年度に取りまとめた「緊急に保護を要する動植物の種の選定調査」では、我が国に生息・生育する多くの野生動植物が絶滅の危機に瀕していることが明らかにされた。また、国際的にも種の絶滅の防止が緊急の課題となっている。
このため、環境庁では国内外の絶滅のおそれのある野生動植物の種の体系的な保存を図るべく、新たな法制度の検討を進めてきたが、平成4年5月、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(以下「種の保存法」という。)が第123回通常国会を通過し、6月5日付けで公布された。
種の保存法では、本邦において絶滅のおそれのある種を国内希少野生動植物種に指定し、その個体の捕獲、譲渡し、輸出入等の規制を行うこととされている。また、必要に応じ、その生息・生育地を生息地等保護区として指定し、各種の行為を規制するとともに、個体の繁殖の促進や生息・生育地の整備を図るため、保護増殖事業を積極的に推進することとされている。
一方、ワシントン条約及び二国間渡り鳥等保護条約に基づき保存を図ることとされている絶滅のおそれのある種については、国際希少野生動植物種として指定し、その個体の譲渡し、輸出入等を規制することとされている。
種の保存法は平成5年4月1日から施行されるが、平成4年度においては、11月に希少野生動植物種の選定の基本的考え方等を明らかにした「希少野生動植物種保存基本方針」を閣議決定するとともに、平成5年2月には、種の保存法の施行に伴い廃止される「特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律」及び「絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律」において規制対象とされている種を国内希少野生動植物種又は国際希少野生動植物種として指定する等の施行準備を進めた。
(2) 絶滅のおそれのある野生生物の保護対策の推進
絶滅のおそれのある野生動植物の保護対策として、引き続き以下のような調査や事業を実施した。
ア 絶滅のおそれのある野生動植物種のうち約80種を対象に地域の専門家や学会の協力を得て、生息・生育状況のモニタリング調査を実施した。
イ カンムリワシ、ノグチゲラ、タンチョウ等の特殊鳥類について、生息状況の現状を取りまとめた。
ウ 平成2年3月から北京動物園で実施されていた日本の雄トキ・ミドリと中国のヤオヤオによる日中共同保護増殖事業は、平成4年4月、ヤオヤオが産卵に成功したものの、無精卵と判明したため事業を終了し、9月末にミドリを佐渡のトキ保護センターに引き取った。なお、佐渡においては、今後のトキの保護事業や普及啓発の拠点となる新佐渡トキ保護センターを整備した。
エ イリオモテヤマネコ及びツシマヤマネコについて、冬期の給餌及び生息状況調査を実施した。
オ アホウドリについて、新たな繁殖適地に個体群を誘致するための事業に着手した。
カ タンチョウについて、冬期の給餌及び生息状況調査を実施した。生息数については、平成5年1月の一斉調査により611羽が確認された。
キ シマフクロウについて、巣箱の設置及び給餌事業を実施した。また個体を人為的に新たな生息地に導入し、つがいの形成を図る事業に着手した。
ク 淡水産貝類のカワシンジュガイ及びオニバスについて、保護増殖のための事業を実施した。