5 国際機関
今日、世界の経済社会活動は、貿易、金融等、各般の分野にわたり、相互依存の関係を強めており、このような状況の中で、国際機関が、重要な役割を果たすようになってきた。特に、地球環境保全のような国境を越えて生じる問題について、各国の錯綜した利害を調整し、有効な解決策を提示し、各国の協調を捉すことは、国際機関の働きを抜きにしては成し得ないものである。安全保障や国際経済の分野では、既に国際協調の下での議論が日常的になってきたが、もとより国境のない環境の分野においては、国際機関のより一層の活動が期待されている。
地球サミットにおいて、リオ宣言、アジェンダ21の採択、気候変動枠組条約及び生物の多様性に関する条約の署名、森林原則声明の採択に代表される21世紀に向けての取組の枠組みが合意され、国際社会はその具体化に向けた作業を開始している。特に、1992年(平成4年)11月から12月にかけて開かれた国連の第47回総会では、地球サミットのフォローアップについて詳細な議論が行われた。この成果として、既に第3章第3節205/sb1.3.3>において紹介したように、国連内に持続可能な開発委員会が設けられることになった。この委員会はアジェンダ21の実施状況等に関する国連の活動の監視、各国がアジェンダ21を実施するために着手した活動等についてまとめた報告等の検討、アジェンダ21の実施に関する適切な勧告の国連総会への提出等を行うことを任務としており、環境保全について専門的な活動を行ってきたUNEP(国連環境計画)に加えて、こうした組織が設けられたことにより、環境分野における国連の活動が一層強化されるものと期待される。このほか、この国連総会では、毎年3月22日を世界水の日とすること、ストラドリングス・ストック等(200海里の内外にまたがる魚類資源等)に関する政府間会議を1993年(平成5年)中に開催し、翌94年(平成6年)秋の国連総会の前までに交渉を完結することが合意されるなど、環境分野について数多くの成果が得られたところである。
以上のような国連総会での議論も踏まえ、様々な場で地球サミットの成果の具体化策が形成されつつある。まず、上述の気候変動枠組条約と生物の多様性に関する条約については、その実施のために必要な諸課題の検討が開始された。砂漠化の防止については、国連総会の下に、砂漠化防止のための条約づくりのための政府間交渉委員会が設立され、1994年6月までに条約を策定すべく、交渉が開始された。
国連システムの中で、環境問題を担当する機関である国連環境計画(UNEP)は、深刻化する世界の環境問題に総合的に取り組むために、広範な分野において幅広く活動してきている。特にUNEPは、1992年(平成4年)に、開発途上国等への環境保全技術の移転のためのUNEP国際環境技術センターを我が国に開設したところである。また、1993年(平成5年)1月には、3代目の事務局長(カナダのダウズウェル女史)が就任し、地球サミット後のUNEPの更なる強化に向けたイニシアティブが期待される。
他方、国連システムの中で技術協力を担当する機関となっている国連開発計画(UNDP)においては、環境問題についての開発途上国の対応能力向上の支援のため、環境問題解決の鍵である人作り、技術協力といったソフト面の支援を行う構想の具体化が進んでいる。
他の国際機関においても、例えば、OECD(経済協力開発機構)においては、1992年3月に組織改正により新たにスタートした環境政策委員会を中心に、環境と経済、環境と開発等様々な観点から環境問題をめぐる国際的な議論を行っている。また、先進国首脳会議(サミット)においても、環境問題はその経済宣言等を通じて活発に議論されており、近年は地球環境問題が重要な課題として位置付けられている。
さらに、特に地球環境問題や開発途上国の環境問題への取組の能力を支援するための支援措置作りも開始されている。世界銀行、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画(UNEP)が共同で運営し、資金を供給する仕組である地球環境ファシリティ(GEF)については、地球サミットでの合意を踏まえ、運営方法の改善、資金規模について、1993年(平成5年)中に合意に達することを目途に、議論が行われている。
また、持続可能な開発の実現のために重要な分野の一つである貿易においては、GATT、OECD、ITTOにおいて引続き議論が行われている。
地域レベルの環境協力も国際機関のイニシアティブの下で進められている。東アジアにおいては、UNEPの進める地域海計画の一つとして、UNEPのイニシアティプの下、北西太平洋地域海計画策定のための会議が北京で開催されており、日本を始め、中国、ロシア、大韓民国、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が参加している。東アジア地域は、地域海計画の空白地帯であっただけにその実現が期待されている。また、北東アジア地域の協力については、我が国と韓国との間で毎年開催されてきた日韓環境シンポジウムを拡大する形で第1回環日本海環境協力会議が新潟で開催されたが、こうした成果の上に立って、また1993年(平成5年)2月には、国連アジア太平洋経済委員会(ESCAP)の主催で、北東アジア地域環境協力高級官吏会合がソウルで開催されるとともに、環境と開発に関する高級官吏会合がクアラルンプールで開催されるなど、アジア太平洋地域における具体的な取組についても検討が始まっている。このほか、FAO、WHO等国連のその他の専門機関、IMF等の各種国際機関においても、それぞれの所管の事業の中での環境への取組を強化しつつある。これらのうち、我が国との係わりが深い国際機関の活動状況については、本年次報告第2部の第8章第2節205/sb2.8.2>に掲げるとおりである。
各国政府は、こうした国際機関の取組に対し、資金の拠出を行うほか、GEFやUNDP等と共同でプロジェクトを実施するなど資金、人材、知識等多方面で協力を強化しつつある。
人類の末来のためには、国際機関のなお一層の活動は不可欠である。我が国としては、国連に対し、米国に次ぐ世界第2位の分担金を拠出するなど、資金面での大きな貢献を既に果たしつつある。今後は、資金のみならず、例えば、我が国の国連職員数が、望ましい国連職員数(200人前後と言われる。)を大幅に下回る(我が国の国連職員数は約100人)などの不十分な状況にある人的貢献の強化、経験やノウハウの提供など、我が国の国際的地位に応じた幅広い協力を強めていく必要がある。また、特に環境の分野で実りある国際的意思決定がなされるよう、国際的粋組みづくりへの貢献等を通じ、他の模範となる協力を率先して行っていく必要がある。