6 公害対策基本法、自然環境保全法の成果と課題
以上のように、激甚な公害の発生や自然破壊の進行の中で法制度整備の必要性が認識され、「公害対策基本法」と「自然環境保全法」が制定されて以降、次々と発生する問題に対応して様々な制度の充実が図られてきた結果、我が国は、排出規制を中心として被害の未然防止から被害の行政的救済までを視野に入れた非常に洗練した対策の体系を持つようになり、その運用にも相当程度習熟してきた。しかしながら、これらの対策は、主として、環境に直接影響を与える行為を抑制しようとする発想に立ったものであり、その意味で、警察的な取締りの考え方を背景としており、社会の各主体に求められる責務も、環境に著しい影響を与えるような特定の種類の行為を限定した上、これを行ってはいけないとすることが中心となるものであった。このような考え方の下では、日常的、一般的活動の集積や、直接的ではなく間接的に環境負荷を与えるような活動を変えていくことについて、効率的、効果的に取り組む施策を実施することには難しい面がある。そのような既存の枠組みでの対応の困難性は、既に50年代から、大都市における窒素酸化物による汚染や、生活排水による水質汚濁のような都市・生活型の公害問題にみられ、これらの問題について、様々な対応が積み重ねられてきたものの、なお改善が進んでいない。さらに、特に公害法では、主に国民の健康保護の観点から、種々の規制が定められるものであって、将来世代の利益や国境を越えた地球的な利益を保護すべきことは明示的には要請されていなかった。我が国の、これまでの制度に基づく規制の方法、技術的手法は、既に相当程度に高度なものとなっており、例えば、今後の国際環境協力等において活用すべき貴重な財産となっている。とはいえ、今後の環境保全を図っていくためには、環境保全の基盤となる枠組みについて、より一層の発展が求められる状況が生じてきた。