この環境白書(「総説」、「各論」)は、公害対策基本法第7条の規定に基づき政府が第126回国会に提出した「平成4年度公害の状況に関する年次報告」及び「平成5年度において講じようとする公害の防止に関する施策」である。
「各論」の執筆に当たった省庁は、総理府、公害等調整委員会、警察庁、環境庁、国土庁、法務省、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、建設省及び自治省であり、環境庁がその取りまとめに当たった。
はじめに
環境行政に関する政府の年次報告は、昭和44年に、第61回国会に提出された昭和43年度の公害の状況等についての報告が初めであり、平成4年度で、この最初の年次報告から数えて25回目のものとなる。
政府全体で環境行政に取り組み始めて四半世紀の時が経ったが、こうして迎えた平成4年度(1992年度)は、環境保全に向けた我が国の、また、人類の取組の大きな節目となる年であった。長い間の準備を経て、4年6月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロにおいて「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)が開かれた。ここには世界の約180か国が参加し、21世紀に向けた人類の取組に関する数多くの国際合意が得られた。また、我が国は、この地球サミットの成功に向け、その準備過程に積極的に貢献するとともに、地球サミットの成果も踏まえ、5年3月に、政府は「環境基本法案」を国会に提出した。この法案では、昭和42年制定の公害対策基本法では意識されていなかった将来世代への恵み豊かな環境の継承、地球全体の環境保全のための我が国の取組など新たな基本的な理念を位置づけ、この理念に即した政策の新たな進め方が示された。
本年度の年次報告は、総説と各論との分かたれており、各論では、政府による公害対策等の実施状況を対策分野ごとに整理して収めている。また、総説においては、まず、その1章において公害の状況を始めとした環境の状況を広く報告している。平成4年度には、上述のとおり、環境問題を長い時間的文脈、広い地理的な文脈の中に位置づけ直す、大きな変革があったことを踏まえ、この第1章では、特に、各環境要素の間の関係、長期的な推移や広域的な変化の動向に配慮しながら環境の状況を整理した。このことにより、我が国の環境についてもそれが地球環境の一部として評価されるよう努めたところである。また、第2章においては、第1章に掲げたような環境の動向を規定する人の活動を扱っている。具体的には、我が国を中心とした各種の経済社会活動を生産、消費及び貿易という横断的な視点から大づかみにとらえて、それらの環境との関わりやその変化を見ている。さらに、第3章においては、こうした人の活動を環境によりやさしいものへと誘導していく上での環境行政の理念を扱っている。具体的には公害対策基本法の下での環境行政の考え方から地球サミット等において明確化され、合意されるに至った新しい考え方までを、特に、人の環境への責任という観点から整理している。続く第4章においては、環境行政が直面するいくつかの重要な課題を事例として取り上げ、それぞれどのような事情が環境の改善の妨げとなっているかを見た上、環境保全の新しい考え方を踏まえた新しい役割分担、新しい協力の下で展開されていくべき取組の方向を収めた。人と人、国と国とが新しい関係を結び、人類と環境との間により豊かな関係が築かれる中でこれらの問題が解決されていくことを期待したい。