1 政府開発援助等
(1) 調査及び事業の発掘
我が国が環境分野の援助を拡充・強化していくに当り、開発途上国の状況やその背景にある社会・経済条件を的確に把握するとともに、開発途上国との各種政策対話を強め、優良な援助案件の発掘に努めることが必要となっている。この観点から、平成3年度においては、中国プロジェクト選定確認調査団が3年7月に、中国プロジェクト形成調査団が3年11月に派遣されるとともに、各種調査等を積極的に推進した。
(2) 開発調査
開発途上国における公共的な開発計画の策定のため、平成3年度には次のような開発調査を実施した。
ア コロンビア国ボゴタ市大気汚染対策計画調査
コロンビア国ボゴタ市の大気汚染の現状を調査し、汚染管理計画を策定することを目的として、平成2年7月より同市の大気汚染対策に係る技術協力が実施されており、3年11月には報告書案の説明及び協議と技術移転セミナー開催を目的とした調査団が派遣された。
イ マレイシア国首都圏大気汚染対策計画調査
マレイシア国の首都クアラルンプール周辺クランバレー地域の大気質の解明と大気汚染防止対策計画の策定を目的とした開発調査について、平成3年12月現地調査団が派遣され、技術協力が開始された。
ウ 中国ポーヤン湖水質保護対策計画調査
中国最大の淡水湖で豊かな自然環境を有しているポーヤン湖の水質汚濁を未然に防ぎ、環境保護対策の最適案を策定することを目的とした開発調査について、平成4年2月技術協力が開始された。
エ ブラジル国グアナバラ湾水質汚濁防止計画調査
リオ・デ・ジャネイロの面するグアナバラ湾及び同湾に流入する河川流域における水質汚濁の現状と汚染メカニズムとを把握し、総合的な汚染防止対策を策定することを目的とした開発調査に係る事前調査団が、平成3年10月派遣された。
オ インドネシア沿岸資源管理強化開発調査
インドネシア沿岸自然生態系の保全・管理及びその水産資源等の持続的利用を図り、小規模漁業を中心とする地域開発モデルを策定することを目的とした開発調査に係る事前調査団が、平成3年12月派遣された。
カ 大韓民国産業廃水処理・再生利用計画
メッキと染色の2業種について、工業団地の産業廃水の処理方法及び再生利用の現状について調査し改善策を策定することを目的とした開発調査について、平成4年2月に現地調査団が派遣された。
キ メキシコ合衆国大気汚染固定発生源対策計画
メキシコ首都圏における大気汚染に関し、工場等の固定発生源に起因する大気汚染の対策に係る計画を策定することを目的とした開発調査が平成元年8月より実施されており、平成4年1月に報告書案の説明及び協議を目的とした調査団が派遣された。
ク メキシコ合衆国鉱山公害対策計画
メキシコの主要選鉱場の堆積場のうち3か所における鉱害の実態調査とその対策の立案を策定することを目的とした開発調査が平成2年8月より実施されており、4年1月に報告書案の説明及び協議を目的とした調査団が派遣された。
ケ チュニジア共和国スファックス産業公害対策計画
チュニジア第二の都市で同国有数の工業都市であるスファックス市の主要産業であるリン酸肥料、皮なめし、オリーブ油、染色工場等の排水、排煙処理及び再生利用に関する計画を策定することを目的とした開発調査が平成2年12月より実施されており、現地調査団の派遣等を行った。
コ ポーランド共和国コジェニッツェ発電所排煙脱硫対策
ワルシャワの南75?に位置するコジェニッツェ石炭火力発電所の排煙脱硫対策の最適計画を策定し、技術的、経済的フィージビリティを検討することを目的とした開発調査が平成2年10月より実施されており、平成3年11月には報告書案の説明及び協議と技術移転セミナー開催を目的とした現地調査団が派遣された。
サ チェコスロバキア共和国ムニエルニ一ク石炭火力発電所排煙脱硫対策
プラハ北西40?に位置するムニエルニーク石炭火力発電所の第2、第3発電所への排煙脱硫対策に関する技術的、経済的フィージビリティを検討し、最適計画を策定することを目的とした開発調査に係る事前調査団が平成3年12月に派遣され、技術協力が開始された。
以上に加え、エネルギー、廃棄物処理、下水道、森林保全・管理、農地保全、交通等に関する開発調査が多数行われている。
(3) 専門家派遣
開発途上国の行政機関・研究機関等への技術協力を行うために、国際協力事業団(JICA)は関係省庁、地方公共団体等の協力の下に、専門家の派遣を行っている。平成3年度、環境分野ではタイ、中国、インドネシア、韓国、サウディ・アラビア等へ合計64名の専門家を派遣した。(第8-4-1図)開発途上国からの環境分野における専門家派遣のニーズは近年急速に高まっており、人材の確保が大きな課題となっている。
(4) 研修員受け入れ
開発途上国には、環境保全全体に関する専門的な知識経験を有する行政官・技術者の絶対数の不足に直面している国も多く、国際協力事業団は関係省庁、地方公共団体等の協力の下に、集団研修を実施している。平成3年度には、環境行政、環境技術(水質保全)、環境技術(大気保全)等の集団研修の他、東欧諸国やインドネシアを対象とした国別の特設研修を実施した。また、開発途上国の要請により個別研修を各国のニーズに応じ随時実施している。(第8-4-1表及び第8-4-2表)
(5) プロジェクト方式技術協力
タイ環境研究研修センターに係るプロジェクト方式技術協力が関係省庁の協力の下に国際協力事業団により平成2年4月より実施されており、長期専門家チーム8名が現地に派遣されているとともに、平成3年度には9名のタイ側研修員の受け入れを行った。また、昭和62年6月より開始されたチリ鉱山公害防止技術に係るプロジェクト方式技術協力が平成3年10月に終了する一方で、2年6月より開始されたブラジル鉱山公害防止研修センターの協力が本格化し、長期専門家4名を現地に派遣するとともに、3年度には4名のブラジル研修員の受け入れを行った。更に、メキシコ及びボリビアにおいて、すでに協力が終了した鉱山開発プロジェクトに対し、鉱山公害防止対策技術の移転を追加的に行った。
加えて、中国及びインドネシアにおいて建設予定のタイと同様の環境センター及び中国における水汚染・廃水資源化研究センターについても、平成3年度には、4年度からのプロジェクト方式技術協力の実施に向けた準備を行った。また、環境保全に効果の大きいものとして、中国における省エネルギー教育センターについても同様の準備を行った。
(6) 地方公共団体等の役割
専門家派遣、研修員受け入れ等の環境協力について、環境に係る個別分野の豊富な経験と人材を有する地方公共団体等の果たす役割は大きく、平成3年度においても各地方公共団体より計16名の環境専門家を派遣するなど、多大な協力が行われた。
(7) 無償資金協力
ア タイ環境研究研修センター
環境分野の研究、研修及びモニタリング業務を一元的に実施するセンターの設立に対して総額8億6200万円の無償資金協力を平成2年度に実施した。
イ 日中友好環境保全センター
環境モニタリング・情報部門及び公害防止部門等で構成されるセンターの設立に対して総額102億5600万円の無償資金協力を3年度から4か年にわたって実施中である。
ウ インドネシア環境管理センター
環境政策研究、モニタリング、研修、環境情報の収集・提供等を実施するセンターの設立に対して総額8億4500万円の無償資金協力を3年度に実施した。
(8) 有償資金協力
かつて我が国の戦後復興にも大いに役だったとおり、有償資金協力は、ある程度の経済力・技術力のある国が発展する上で大きな効果を発揮する。環境関連分野においても同様であり、我が国は、これまで、インドネシア等の森林セクターへの融資、メキシコの製油所の脱硫装置等のための有償資金を供与してきた。平成3年度にも各種環境関連の融資を行ったが、その主なものは以下のとおりである。
ア インドネシア環境研究センター拡充事業計画
世界銀行との協調融資として、環境問題の調査研究を行うために国立大学に設置された本センターにおける人材育成のための教育研究に必要な設備の整備等を目的として3年9月、11億円余りの融資の交換公文の締結を行った。
イ インド国アラバリ山地植林事業
ラジャスタン州東部に位置するアラバリ山地において115千haの植林を行うため、3年12月、およそ81億円の融資の交換公文の締結を行った。
(9) 国際機関を通じた協力
各種国際機関を通じた協力は、特に二国間協力のみでは十分に対応できない地球環境問題、政策形成、情報量の少ない国・分野等への取組を進める観点からも重要である。
平成3年度には、環境問題について中心的役割を果たしているUNEPに対し、アメリカに次ぐ第2位の拠出(710万米ドル)を行うとともに、熱帯林保全と持続的利用のため、横浜市に本部をおく国際熱帯木材機関(ITTO)に対し、約962万米ドルを拠出した。また、我が国が主要拠出国となっている国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アジア開発銀行等の多国間援助機関も環境分野の取組みを強化しており(例えば、世界銀行の融資案件のうち環境問題に対処する要素を含むものが4割に達した。)、これらの機関を通じた協力も環境分野では重要になってきている。特に世界銀行及びアジア開発銀行に対しては、環境配慮のために37億5千万ドル(開発途上国に資金供与をする3年間で10億SDR(約14億ドル)の試験的プログラムとして世界銀行、UNDP及びUNEPの協力により3年5月に発足した地球環境ファシリティのコア・ファンドヘの拠出732万SDR(1千万ドル)を含む。)を拠出した。その他、FAO、国際農業研究協議グループ(CGIAR)等各国際機関の環境保全事業への取組について資金拠出を行っている。
(10) 政府開発援助以外の政府資金による協力
世界銀行や我が国が参画するメキシコ首都圏大気汚染対策総合計画のうち、ガソリン無鉛化プロジェクトに対し、日本輸出入銀行が3年6月、総額536億円を限度とするアンタイドローンを供与する契約を行った。本ローンは、日本輸出入銀行が実施する大型の環境改善プロジェクトを対象とした初めての融資であり、また政府開発援助以外の政府資金による環境分野の協力として意義を持つ。
(11) 湾岸環境協力
2年(1990年)8月2日のイラクのクウェート侵攻後、特に、3年(1991年)1月末以降、イラクによる原油流出及びクウェート油井の炎上により湾岸地域は深刻な環境問題に直面した。我が国は、サウジアラビア等周辺諸国に対し、応急対策としてオイルフェンス等を供与するとともに、紛争終了後、JICA等を通じ流出原油回収のための国際緊急援助隊専門家チームを派遣したほか、海水淡水化施設保全、大気汚染、海洋汚染、野生生物保護対策の分野での専門家派遣等を積極的に行った。また、国際機関での取組を支援するために、国連環境計画(UNEP)の緊急行動計画作成に111万ドル、国際海事機関(IMO)湾岸油汚染災害基金へ150万ドルを拠出するとともに、これらの活動に我が国専門家を派遣した。そのほか、民間団体による協力も行われた。
(12) 東欧環境協力
東欧の深刻な環境問題に対しては、平成3年(1991年)1月の海部総理(当時)の東欧訪問時の表明等を受け、JICA等を通じ技術協力等を推進している。3年度は東欧諸国からの研修員を受け入れるとともに、ハンガリーのミシュコンツ地域大気汚染対策、ポーランドのコジェニッツェ火力発電所脱硫対策、チェコスロバキアのムニエルニーク火力発電所排煙脱硫計画等の開発調査を実施中である。また、東欧地域の環境問題対策を支援する目的で設立された中・東欧環境センター(在ブタペスト)に対し、80万ドル出資した。