1 公害紛争の処理状況
公害紛争については、「公害紛争処理法」の定めるところにより、総理府の外局である公害等調整委員会及び都道府県に置かれている都道府県公害審査会等が処理することとされている(第6-1-1図)。
公害紛争処理には、あっせん、調停、仲裁及び裁定の四つの手続があり、裁定には、公害に係る被害についての損害賠償責任の有無及び賠償すべき損害額を判断する責任裁定と被害と加害行為との間の因果関係の存否を判断する原因裁定の二種類がある。
公害等調整委員会は、裁定を専属的に行うほか、いわゆる重大事件のうち水俣病やイタイイタイ病などの事件、いわゆる広域処理事件のうち航空機騒音や新幹線騒音などの事件等について、あっせん、調停及び仲裁を行い、都道府県公害審査会等は、それ以外の紛争について、あっせん、調停及び仲裁を行っている。
(1) 公害等調整委員会に係属した事件
平成3年中に公害等調整委員会で新規に受け付けた公害紛争事件は12件であり、これらに前年から繰り越された12件を加えた計24件(調停事件20件、責任裁定事件1件、原因裁定事件2件、義務履行勧告事件1件)が平成3年中に係属した。係属した事件の内訳は、次のとおりである。
ア 調停事件
(ア) 不知火海沿岸における水俣病に係る損害賠償調停申請事件) 11件
(イ) スパイクタイヤ使用禁止等調停申請事件 2件
(ウ) 山梨・静岡ゴルフ場農薬被害等調停申請事件 1件
(工) 東京湾横断道路建設被害等調停申請事件 3件
(オ) 原子炉運転停止等調停申請事件 2件
(カ) 北陸新幹線騒音防止等調停申請事件 1件
イ 責任裁定事件
冷暖房室外機騒音責任裁定申請事件 1件
ウ 原因裁定事件
(ア) 商店街拡声器騒音原因裁定申請事件 1件
(イ) 下水道管埋設工事振動被害原因裁定申請事件 1件
エ 義務履行勧告事件
大阪国際空港騒音調停義務履行勧告申出事件 1件
このうち平成3年中に終結した事件は、不知火海沿岸における水俣病に係る損害賠償調停申請事件、スパイクタイヤ使用禁止等調停申請事件、山梨・静岡ゴルフ場農薬被害等調停申請事件などの調停事件18件、裁定事件3件及び義務履行勧告事件1件の計22件であり、残り2件が平成4年に繰り越された。終結した事件のうち、山梨・静岡ゴルフ場農薬被害等調停申請事件は、平成2年4月9日、静岡県富士宮市の住民ら130人から、静岡県知事に対し、ゴルフ場事業者を相手方(被申請人)として調停申請があったものである。
申請の内容は、被申請人会社が山梨県に建設中のゴルフ場等が完成すると、ゴルフ場で使用される農薬が地下に浸透することにより、富士宮市域の地下水全体が汚染され、富士宮市民の健康と暮らしに重大な結果をもたらすおそれがある等を理由として、被申請人会社に対し、ゴルフ場等の建設を中止することを求めたものである。
本事件は、公害紛争処理法第24条1項3号のいわゆる県際事件であるため、静岡県知事は、山梨県知事と連合審査会の設置について協議したが、協議がととのわなかったため、平成2年5月25日、本事件の関係書類を公害等調整委員会に送付した。
公害等調整委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、同事件の調停委員会を設け、現地調査を実施するなど鋭意手続を進めていたところ、平成3年5月14日の第8回調停期日において、被申請人会社は地下水の汚染を防ぐために農薬の使用を厳しく抑制することなどを骨子とした調停が成立した。
(2) 都道府県公害審査会等に係属した事件
平成3年中に都道府県の公害審査会等で受け付けた公害紛争事件は52件であり、これに前年から繰り越された54件を加えた計106件(いずれも調停事件)が平成3年中に係属した。
平成3年中に終結した事件は31件である。
なお、調停が成立した具体的事例としては、次のようなものがある。
事例
平成2年7月27日、宮城県宮城郡利府町の住民75人から、ゴルフ場開発会社を相手方(被申請人)として調停申請があり、被申請人会社が造成中のゴルフ場に隣接して利府町の水道水源があるため、ゴルフ場の農薬使用により利府町全域の水道水、東北新幹線及び上越新幹線の飲料水が汚染されるおそれがある等を理由として、被申請人会社に対し、ゴルフ場建設の撤回を求めたものである。
宮城県公害審査会は、現地調査を実施し、11回にわたり調停期日を開催するなど鋭意手続を進めた結果、平成3年8月1日、調停が成立した。
調停条項の主な内容は次のとおりである。
? 被申請人会社は、農薬の使用に当たっては、より低毒性であって分解性の高い農薬を使用することとし、農薬及び肥料の前年度の使用実績及び当年度の使用計画を毎年1回利府町に報告する。
? 農薬の散布に当たっては、a散布する高さを50cm以下とすること、b降雨時や風速3m以上の場合は散布しないこと、c場内の修景池、調整池及び沈砂池から5m内で散布しないこと、等細心の注意を払って実施する。
? 被申請人会社は、本件ゴルフ場の調整池等からの放流口及び利府町水源井戸において水質検査を行い、その都度利府町に報告する。
? 本件ゴルフ場完成後、本件ゴルフ場の管理運営会社(利害関係人として調停に参加)は、本調停条項をはじめ、宮城県の指導要綱等及び利府町との取決め事項を被申請人会社から継承し、これと連帯してこれらを遵守する義務を負う。