前のページ 次のページ

第3節 

3 国際環境協力の充実強化

 国際環境協力についても、地球サミットにおける合意を受け、更に国際的連携を強化していく必要があり、我が国としては、以下のような観点から、その国際的連携において積極的に役割を果していく必要がある。
(1) 持続可能な開発とODA
 開発途上国の環境問題は、しばしばその国の貧困ないしは不十分な経済条件と係わっている。そのため、将来にわたって環境を維持し、発展を持続させるという「持続可能な開発」を実現するための途上国の自助努力に対する支援においては、直接環境を保全する協力のみならず、環境に及ぼす効果を十分に考慮した上で、ODAを始めとする多様な開発協力を行っていく必要がある。
 我が国ODA(支出純額ベース)は1990年(平成2年)で92.2億ドルであり、絶対額ではアメリカと世界一、二を争う援助大国となっており、対GNP比では、0.31%となっている。また、途上国の環境保全を直接の目的とする環境ODAの額は、2年度で約1,650億円であり、年度べ一スでODA全体の12.4%を占めている。
 環境ODAについては、1989年(平成元年)アルシュサミットにおいて「我が国は、今後3年間に環境分野に対する二国問及び多国間援助を3,000億円程度を目途として拡充・強化に努める。」と表明して以来、積極的に環境ODAを展開し、翌2年度までに約2,980億円の実績を上げ、当初の目標をほぼ2年間で達成した。地球環境保全は、我が国が国際社会に頁献できる、また、すべき分野であり、途上国の様々な環境問題や地球環境問題に国際協調の下で、引続き環境ODAの充実・強化に努めていく必要がある。
(2) 国際環境協力における資金協力
 開発途上国においては、環境保全のための行政等の体制の整備、損なわれた資源基盤の回復等のため、多くの資金が必要となっている。しかしながら、開発途上国においては、国内の社会資本への投資、経済開発等に大きな資金を投入せざるを得ない実状にある。また、環境分野の事業は直接的には経済的効果をもたらすものではないことも多い。そのため、資金協力についても、自助努力を前提に、官民の様々な協力の間の、また技術協力との間の有機的連携を図りつつ、途上国にとってより利用しやすい資金の供与に配慮していく必要がある。
(3) 開発途上国における環境保全に役立つ技術
 我が国の環境保全の歴史を振り返ると、かつての深刻な環境汚染への対処に当たって技術の果たした役割は大きい。発展途上国においても、その抱える環境問題に適切に対処するための技術の獲得が重要である。
 そのような技術の獲得のために先進国が果たし得る役割について、しばしば技術「移転」との表現が使われる。しかしながら、先進国と途上国では、技術を支える技術教育の水準、技術に関連する設備等の管理費や設備そのものの設置経費の負担能力等が大きく異なり、また、それぞれの国に固有の歴史、社会的条件、その土地に根ざした伝統的技術、意思決定システム等があるので、先進国の技術をそのまま「移転」しても役には立ちにくい。むしろ、その国の実状や二一ズに合った適正技術をその国と共同で選択、改良、開発していくという「技術協力」の問題としてとらえる必要がある。そのため、先進国としては、途上国自身の技術開発力を高めるための協力を強化するとともに、共同研究・共同開発を重視すべきである。
 また、それ以前に、個々の途上国に適した具体的技術、ノウハウについては、途上国自身が自国にある技術を含め正確に把握していない、あるいは先進国側で、それらに関する情報が体系的に整理されていないといった問題があり、データベースの構築や技術情報の多国間の交換システムを設けるなどにより、この問題を克服していく必要がある。この点では、我が国は既に無償資金協力とプロジェクト方式技術協力によりタイにおいて、環境研究研修センターに対する協力を行っており、今後、中国、インドネシアにおいて同様の協力を行っていくことを検討している。また、UNEPの国際環境技術センターを我が国に誘致した。また、これらの各国の研究機関・データベースとのネットワークの構築も一案と考え、将来の検討課題とする。
 なお、先進国の経験が途上国に役立つような場合にも、途上国の産業の多くが中小企業により成り立っており、我が国の経験の提供には、中小企業の経験が重要であることに留意する必要がある。また、分野に関しても、途上国においては、皮なめし、メッキ、繊維、染色、食料品等の工場からの排水等が大きな問題となっていることにも留意する必要がある。
(4) 国際環境協力カと政策対話
 開発途上国は、その置かれた自然的、社会的、経済的条件が先進国と異なるだけでなく、開発途上国間においても大きく異なり、環境問題についても、その実態と背景にある自然的、経済・社会的条件が国によって異なる。そのため、援助国は、相手国の環境問題とその背景を正確に把握する必要がある。他方、途上国側においても、環境問題への効果的対処方法、あるいは先進国側の援助方針等を正確に把握していないことが多い。そこで、環境援助プロジェクトの効果的、効率的実施を図るためには、途上国の環境やその背景の把握に努めるとともに、特定の援助プロジェクトの押し付けになることを避けつつ、相手国との政策対話を積極的に行い、適切な援助案件の形成と実施に努める必要がある。
(5) 環境ODAの効果的実施
 環境ODAの効果的な実施にあたっては、援助案件の発掘、要請から実施、事後評価にいたる全ての段階で、国内外の関係機関の円滑な連絡調整を図ることが必要である。特に環境分野においては各種援助形態の機能的、効率的な組合せ及び世界銀行、UNDP等の国際機関や他の援助国の環境援助活動との協力・連携の強化が重要である。また、今後とも環境ODAを充実していく観点からは、環境援助に携わる人材の確保・育成が必要である。
(6) 環境配慮
 開発協力の実施に当たっては、環境に十分配慮することが重要である。我が国の援助実施機関においても、環境配慮のためのガイドライン、内部手続きの整備に努めているところではあるが、今後更に援助の現場における環境配慮の徹底や環境調査、環境アセスノント等の実施体制を強化していく必要がある。また、環境アセスメントの対象となる援助プロジェクトについては、必要に応じ、代替案の検討を行うことを含めて、持続可能な開発につながるかどうかという経済・社会・文化的な見地から総合的評価を行っていく必要がある。
(7) NG0の参加協力、民問の環境協力への支援の強化
 真に相手国が必要とし、目的に沿った成果を挙げ、かつ相手国民に喜ばれる援助を実施していく上では、それに関して豊富な知識と経験を有する援助国、被援助国双方のNGOやそれによって影響を受ける地域住民の参加と協力が不可欠であるとの認識は、我が国でも広まりつつある。そのため、外務省により小規模無償資金協力、NGO事業補助金、農林水産省によりNGO農林業協力事業補助金、郵政省により国際ボランティア貯金等の制度が逐次整備されてきているが、今後とも、国際環境協力に携わるNGOを含め、その独自性を損わないよう配慮しつつ、引き続き支援に努めていく必要がある。
 また、民間企業が保有していることの多い公害防止対策設備等の設備機器や技術・ノウハウについては、民間レベルの直接投資や技術提携に伴って移転されるのが最も効果的である。しかし、多くの途上国が置かれている経済状態にかんがみれば、通常の商業べースの取引にはのりにくく、民間の自発的な技術協力の椎進にも限界があるので、民間の技術移転が進みやすいような条件づくりを検討する必要がある。
(8) 多国間協力
 それぞれの政府間機関はそれぞれの役割を担っており、その間の連絡調整と適切な機関の活用が重要である。その中で、多国間開発援助機関については、世界銀行、UNDP、ITTO等を通じた既存の仕組みによる援助を一層強化するとともに、従来の仕組みによっては効果的に対処しにくい、地球的影響の現れるような環境問題に対する途上国の取組を支援するために世界銀行、UNDP、UNEPの三者によって試験的に設立された地球環境ファシリティー(GEF)を多国間協力の中核的な仕組みとして改善、活用していく必要がある。また、自然資源管理に係わることなど、他国が関係することは国家主権の侵害であると主張する国もある問題で地球的課題となっているものなどの場合や各国共通のガイドライン作り等については、国際機関を通じた支援が効果的な場合が多い。

前のページ 次のページ