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第2章 持続可能な社会に向けたこれまでの歩み

 第1章で見たように、汚染物質を含んだ煙に人が暴露されるといった問題も今日なお多く見られるが、これに加え、環境中に薄く広がった汚染物質が環境の性質そのものを変えてしまうという問題が起きてきている。さらに、人間の生活を支える生物資源などが乏しくなる、種や生態系、土が失われたり、水質が汚濁されるといった問題も生じている。これらの問題は、ストックとしての環境の問題と言えよう。将来に備えて用意した貯金を取り崩して今日の生活に充てていることに例えられるように、現在の世代の人々の必要を満たすためにストックとしての環境が損なわれていくと、将来の世代の人々の生活に深刻な影響が生まれる。特に、大量の難民を生むまでに深刻化した途上国の環境悪化、現実のものとなってきた成層圏オゾンの減少、汚染との関係が心配されるような野生生物の大量死、温室効果ガスの増加との関連が着目されるような異常な気象、果たして処理を続けられるかどうか不安を呼ぶような大量の廃棄物などの問題を契機として、人類社会の持続可能性が真剣に問われるようになった。
 平成4年6月にブラジルで開催される「環境と開発に関する国連会議」は、21世紀に向けて、持続可能な地球社会をつくるための具体的な国際合意をまとめようとするものである。「持続可能性」という考え方が一般の関心を呼ぶようになったのは比較的最近のことであるが、我が国がこれまで歩んだ道の中でも、有用な経験が存在している。この章では、これまでの我が国の経験を「持続可能性」の考え方に照らして振り返ってみよう。

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