開発途上国においては、経済活動の拡大、人口の都市集中等に伴い、著しい環境汚染や熱帯林・野生生物種の減少等の問題に直面し、その解決に向けた取組が急務となっている。また、全地球的な取組が必要なオゾン層の破壊・地球温暖化等の問題に対する対応も、同時に大きな課題となっている。さらに、東欧諸国においても深刻な環境汚染問題に直面している。これらの問題に対し、開発途上国においても環境行政機構、環境法制等の整備等に取り組んでいるが、環境保全に関する技術的経済的基盤の不足が対策の推進に当たっての大きな障害となっており、開発途上国等における環境問題への取組に対する先進諸国の支援が、国際的に重要性を増している。特に環境保全対策に数多くの経験と実績を持つ我が国に対する期待が近年高まっており、我が国に対する環境協力の要請件数は近年増大しつつある。このため、技術協力をはじめとする環境協力を推進するとともに、より効果的な協力事業の推進の方策について検討を行い、その成果を踏まえて人材の養成・確保等の取組を実施している。
平成2年度には、以下の案件をはじめとし、その他上下水道整備、廃棄物処理、森林保全、砂漠化防止、土壌保全等環境分野での協力を実施した。
(1) 技術協力
(ア) 開発調査
? ボゴタ市大気汚染対策計画調査
コロンビア国ボゴタ市の大気汚染の現状を調査し、汚染対策を策定・提言することを目的として、平成元年2月の事前調査団の派遣を踏まえ、2年7月より同市の大気汚染対策に係る技術協力が実施されている。
? マレイシア国首都圏大気汚染対策調査
マレイシア国首都クアランプールを含むクラン・バレー地域の大気質の解明と大気汚染防止対策立案を目的とした開発調査に係る事前調査団の派遣(平成2年3月)を踏まえ、2年度は技術協力の実施に向けて調査に必要な機材の購送手続きを行った。
? 陽湖水質保護対策計画調査
中国陽湖水質汚濁の現状と汚濁源等を調査し、同湖の水質保全計画を策定することを目的とした開発調査に係る事前調査団が、平成2年4月に派遣された。
(イ) 研修員受入れ事業
開発途上国には、環境保全全体に関する専門的な知識経験を有する行政官・技術者の絶対数の不足に直面している国も多い。
このため国際協力事業団は、環境庁、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、建設省等の協力を得て、集団研修を実施している。平成2年度には従来からの環境行政等の研修に加え、新たに環境モニタリング(水質)、自然保護管理、特定フロン等使用削減技術、オゾン層保護対策セミナー、湖沼水質保全、農業・農村環境保全、環境アセスメント技術、生活排水対策、廃棄物処理実習、大気汚染モニタリング実習、閉鎖性海域の環境管理技術等の研修を実施した。さらに、インドネシア、ポーランド及びハンガリーを対象に国別に研修を実施した。また、同事業団は開発途上国の要請により個別研修を各国のニーズに応じ随時実施している。
(ウ) 専門家派遣
開発途上国の行政機関・研究機関等への環境分野の技術移転を行うために、タイ、中国、韓国、マレイシア、インドネシア等に専門家を派遣した。
(エ) プロジェクト方式技術協力
タイ環境研究研修センターに係るプロジェクト方式技術協力の一環として、7名で構成される長期専門家チームが平成2年10月から3年1月にかけて派遣されるとともに、タイ側から5名の研修員の受入れを行った。
(オ) 研究協力等
中国との間でトキの保護増殖に関する協力が昭和63年7月より実施されている。また、韓国との間では漢江流域の環境管理に関する研究協力が平成2年2月より実施されている。
(2) 無償資金協力
(ア) タイ環境研究研修センター
環境分野の研究、研修及びモニタリング業務を一元的に実施するセンターの設立に対する無償資金協力について、平成2年3月から建設が行われている。
(イ) 日中友好環境保全センター
環境モニタリング・情報部門及び公害防止部門等で構成されるセンターの設立に関する無償資金協力について、平成2年11月に基本設計が終了するとともに、3年1月から詳細設計が実施されている。
(ウ) インドネシア環境管理センター
環境政策研究、モニタリング、研修、環境情報の収集・提供等を実施するセンターの設立に対する無償資金協力について、事前調査団が平成3年2月に派遣された。
(3) 有償資金協力
メキシコ・首都圏大気汚染対策関連事業
メキシコ・首都圏大気汚染対策のため、重油脱硫プロジェクト等に対し693億3,800万円の資金供与を実施するものであり、平成2年10月に交換公文の署名が行われた。
(4) 国際機関への出資・拠出
開発途上国の環境問題に取り組む各種国際機関に対して資金の拠出等により貢献することは、特に二国間援助のみでは十分に対応できない地球環境問題等への取組を進める観点からも重要である。
平成2年度には、地球環境問題について中心的役割を果たしているUNEPに対し、アメリカに次ぐ第2位の拠出(10億2,000万円)を行うとともに、熱帯林保全と持続的利用のため、横浜市に本部をおく国際熱帯木材機関(ITTO)に対し、最大の拠出国として7億7,000万円を拠出した。また、開発途上国における環境保全努力を支援するため、世界銀行、第二世銀(IDA)、アジア開発銀行に全額日本出資による環境分野の技術協力ファンド「開発政策人材育成基金」を設立し、合計26億円を出資した。その他、FAO、WHO、ユネスコ等各国際機関の地球環境保全事業への取組について資金拠出を行っている。
(5) プロジェクト形成のための調査団の派遣
我が国が環境分野の援助を拡充・強化していくに当たり、開発途上国との各種政策対話を強め、優良な援助案件の発掘に努めることが必要となっている。この観点から、平成2年度においては、以下のようなプロジェクト形成調査団が派遣された。
(ア) ブラジル・プロジェクト形成調査団
ブラジルにおいて深刻化している森林保全問題及び大気汚染、水質汚濁等の公害問題について、今後我が国が協力可能な援助案件の選定につき意見交換を行うため、平成3年1月に調査団が派遣された。
(イ) 東アフリカ環境ミッション
森林保全・造成、野生生物保護等の分野における今後の我が国の協力の進め方について、東アフリカ3ヶ国(ケニア、ザンビア、タンザニア)の政府と政策対話を行いつつ、優良な案件の発掘等に関し意見交換を行うため、平成3年2月に調査団が派遣された。
(6) 開発途上国との政策対話の推進
アセアン諸国との間で環境政策や国際協力のあり方について政策対話を行うため、平成2年9月に東京で日・アセアン環境専門家会合を開催するとともに、アジア太平洋地域の諸国の出席を得て3年1月に名古屋で地球温暖化アジア太平洋地域セミナーを開催した。
(7) 環境配慮の充実
国際協力事業団においては、平成2年2月にダム建設計画に係る環境インパクト調査に関するガイドラインを策定したほか、他の各分野の環境配慮ガイドラインについても策定中である。
また円借款を担当する海外経済協力基金においては、元年11月に公表した環境配慮のためのガイドラインに基づき環境配慮の確保に努めている。