2 窒素酸化物対策
(1) 固定発生源対策
ア 全国一律の排出規制の実施
固定発生源に対する全国一律の窒素酸化物の排出規制については、昭和48年8月の第1次規制以降、5次にわたり排出基準の強化及び対象施設の拡大を行ってきた。さらに、60年9月から、小型ボイラーに対する規制を開始、62年10月にはガスタービン及びディーゼル機関を規制の対象に追加した。また、平成2年11月にガス機関及びガソリン機関を規制の対象に追加し、3年2月から規制を実施している。
イ 総量規制の実施
(ア) 総量規制の導入
工場、事業場が集合し、ばい煙発生施設ごとの排出規制では環境基準の確保が困難であると認められる地域については、昭和56年6月、「大気汚染防止法施行令」の一部改正を行い、窒素酸化物に係る総量規制制度を導入することとし、環境基準を確保するために所要の削減対策を実施することが特に緊要であると認められた東京都特別区等地域、横浜市等地域及び大阪市等地域の3地域を総量規制地域として指定した。
総量規制の導入を保留した名古屋市等地域並びに検討を続けることとした北九州市等地域及び神戸市等地域については、地方公共団体が独自に要綱等による窒素酸化物対策の推進を図っているところである。
(イ) 総量規制の実施等
昭和56年6月に総量規制地域に指定された3地域においては、57年から総量規制が実施されており、60年3月末には、既設の工場、事業場にも、総量規制基準が適用された。
ウ 窒素酸化物排出低減技術の開発状況
固定発生源から排出される窒素酸化物の低減技術については、排煙脱硝技術、低NOx燃焼技術等があり、昭和50年以来その開発状況等を継続して調査し、把握に努めている。
最近における低NOx燃焼技術の進歩には著しいものがあり、二段燃焼法、低NOxバーナーの採用等により、相当程度の窒素酸化物排出低減効果を得る燃焼技術が既に普及している状況にある。
排煙脱硝装置の設置基数及び処理能力は、第2-2-2図にみるように着実に増加している。施設設置の状況についてみると、方式としては大半が乾式選択接触還元法であり、それ以外に無触媒還元法、湿式直接吸収法、湿式酸化吸収法がある。
また、「大気汚染防止法」で規定する「ばい煙発生施設」に該当しない業務用小型施設や家庭用燃焼機器についても、大都市地域ではこれらから排出される窒素酸化物の量が無視できないこと等から、その低減のために、技術目標値の設定、優良低NOx機器の表彰などの方策の導入について見当しているところであるが、低NOx燃焼技術の導入により窒素酸化物排出量の少ない機器も開発されてきている。
(2) 自動車排出ガス対策等
自動車から排出される窒素酸化物については、逐次規制強化してきたところであるが、大都市等自動車交通量の多い地域においては、一層の排出量低減が必要となっており、自動車に対する個別発生源対策はもとより、交通管理、道路構造の改善等を含めた総合的な対策を一層推進する必要がある(詳細は第4節203/sb2.2.4>参照)。
以上の対策の他に、窒素酸化物等の大気汚染物質の影響による健康被害を予防するための取組みとして、第5章203/sb2.5>で述べられているように「公害健康被害補償法」の改正により、公害健康被害補償予防協会に置かれた基金を財源として、地域の大気環境改善に資する各種の事業(地方公共団体等が行う電気自動車等の低公害車の普及、排出ガスのより少ない最新規制適合車等への代替促進、大気浄化能力を有する植栽の整備等)を推進している。
(3) 大都市地域における窒素酸化物対策の推進
以上に掲げた各種の対策が講じられてきたにもかかわらず、大都市地域における窒素酸化物による大気汚染は、依然として厳しい状況にある。
窒素酸化物総量規制3地域における平成元年度の二酸化窒素濃度の状況をみると、年平均値では前年度とほぼ同じ水準にあり、環境基準の達成状況も一般環境大気測定局で52.9%、自動車排出ガス測定局では、9.7%と依然としてはかばかしくない。これらの地域における窒素酸化物の発生源別の排出量を昭和60年度について推計してみると、自動車からの排出割合は東京都特別区等地域で67%、横浜市等地域で32%、大阪市等地域で47%となっており、大きなウェイトを占めている。
このような状況を踏まえ、環境庁では、昭和60年12月に「大都市地域における窒素酸化物対策の中期展望」を、63年12月には「窒素酸化物対策の新たな中期展望」(以下、「新・中期展望」という。)を策定し、将来の見通しに基づいた計画的かつ総合的な対策を推進してきている。このうち新・中期展望は平成5年度における汚染状況の将来予測を行い、これを踏まえ対策の方向を示しており、現在これに基づき、自動車単体対策、自動車交通対策、固定発生源対策を3本柱として、環境基準の早期達成に向けて各種対策を推進している。
自動車単体対策については、平成元年12月、中央公害対策審議会から今後の自動車排出ガスの低減のあり方について答申が出された。この答申においては、窒素酸化物等についてディーゼル車を中心に短期(5年以内)及び長期(10年以内)の2段階の厳しい低減目標が設定されているほか、自動車排ガスの測定モードを走行実態をより反映したものに変更することが求められている。この答申に沿って、3年に走行モードを変更し4年から6年までに短期目標を達成するため、3年3月、環境庁においては自動車排出ガスの量の許容限度を、運輸省においては道路運送車両の保安基準をそれぞれ改正した。また、長期目標については、自動車メーカー等に技術開発を促しつつ、今後、継続的に技術評価を行い、できるだけ早期の達成を図ることとしている。
また、自動車排出ガスの規制の強化に加え、自動車からの窒素酸化物の排出総量を低減させていくため、最新規制適合車等のより低公害な車種への代替促進や電気自動車等の低公害車の導入・普及についても、税制上の優遇措置、公害健康被害補償予防協会に置かれた基金の活用等により積極的な取組を進めている。
前述の中央公害対策審議会答申に基づく自動車排出ガスの低減の効果により、大都市地域における窒素酸化物汚染は一般大気測定局では環境基準をほぼ達成すると見込まれるものの、自動車排出ガス測定局では環境基準に対して十分に改善されるものではないと試算される。このため、これまでの対策の充実・強化を図ることはもちろん、今までにない新しい考え方に立った対策についても検討を進め、逐次、その具体化を図っていくことが必要であり、現在、環境庁において、地域全体の自動車排出ガス総量の抑制等の方策について検討を進めている。
これらの対策に加え、昭和63年度から、冬期における高濃度の大気汚染に対応するため、暖房温度の適正化や入出荷貨物車台数の抑制等を内容とする「季節大気汚染暫定対策」を実施しているほか、12月を「大気汚染防止推進月間」として、広く国民を対象に、公共交通機関の利用促進を訴える等大気汚染防止のための普及・啓発活動を実施している。