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第3節 

1 地球生態系の維持と経済社会活動

 人々の思考や行動様式が規定する文化は、その生活の基盤である環境に大きく左右される。人は、自然系の環境と人工系の環境に取り囲まれているが、経済力の増大とともに、人工系の環境の中で生きる割合が多くなっていった。
 経済力と人口の増大は、自然系の環境を人工系の環境へと改変し、その改変は人々の生存の基盤を取り崩しかねないほど巨大になっていく。人類は、絶えずこの地球上にフロンティアを求め、その資源を経済的富に変えて、富の増加を図ってきた。資源の有効利用を図り経済的富を増加させる技術は革新的発展を遂げてきた。
 やがて、交通手段の発展によって、フロンティアの限界、地球の有限性が人々に認識されるようになった。破壊した自然の代替を別の場所に求めることができなくなったことも認識されるようになり、地球に残された自然を人類共通の財産として保全していくことが課題となってきた。人々の文化は長い歴史の中で比較的狭い地域の自然系の環境に基づいて築きあげられてきたが、生活圏の拡大とともに、地球という自然環境に基づいた文化創造の条件が整いつつある。
 しかし、先進国では、経済活動の高度化からもたらされるストレスを癒すための自然への欲求が、自然の中での都会的な快適さを求める形で現れ、結果的に自然を破壊する圧力の増大要因となっている。開発途上国では、人口の爆発的増加により、生活のため、生産性が低いなどの理由によりフロンティアとして残されていた地域に侵入し、長期的に自然を破壊する圧力が増大している。
 また、多くの人々が都市に住むようになり、豊かな自然から隔てられた生活を営むようになった。都市内においても、緑の創造の努力が行われているが、その努力はいまだ途上にある。自然と接する機会が少なくなっていく中で、自然を慈しむ心を持った人々を生み出し、その中から自然環境の保全に取り組む人を増やしていかなければならない。
 人類がその中で生存している地球の生態系を健全に維持していくことは、地球環境問題に対処する場合の基本である。人間をはじめとするあらゆる生命を育む母胎であり、限りない恩恵をもたらしてくれる自然環境を保全するため、日光、大気、水、土、生物などによって構成される微妙な系を乱さないことを基本とした人間活動を営む環境保全型社会をつくっていくことが極めて重要な課題となっている。しかし、現在、自然環境に対して破壊圧力が増大し、微妙なバランスがいたるところで崩れるとともに、人々は自然から隔絶された生活を常態として自然とのふれあいの喪失状態にある。都市に快適な緑あふれる生活を取り戻し、失われてゆく貴重な自然を保全し、次の世代にこれを譲り渡していくため、地球生態系とともに生きる人類としての認識の上にたって、具体的な自然環境を保全する努力を国内及び地球的規模で行うとともに、都市的生活の中で自然から隔てられていく人々が自然を保全する心を養うため自然とのふれあいの機会を意識的に創出していかなければならない。

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