1 交通手段と社会
交通機関の発達は、経済の発展を促し、人々のライフスタイルを変化させてきた。人類は、自分の足で移動し、やがて、馬等の動物を使うようになった。長い間、交通手段の制約によって、人の活動範囲はそれほど広いものではなかった。
活動範囲が地球規模で飛躍的に拡大したのは、海洋を航海する帆船の発明によってであり、さらに、鉄道が内陸の大量高速輸送機関として発明された。
やがて自動車と飛行機が大量に生産され、人々の利用に供されることになった。特に、自動車は、その移動範囲が広いことに加え、個人所有の移動手段として生活の中に浸透し、人々のライフスタイルを変化させてきた。自動車が高速で走れる道路網の整備、都市における道路や駐車場のための空間の確保など国土や都市構造も変化してきた。
これらの交通手段の発達は、人々の生活を豊かにし、国民生活に利便性をもたらしたが、一方、環境問題を引き起こした。
交通手段と環境問題との関係には様々な問題があるが、特に、地球規模の環境問題として二酸化炭素の問題と国内の環境問題として窒素酸化物が、大きな問題となっている。窒素酸化物は、酸性雨や温室効果ガスである対流圏のオゾン(光化学オキシダント)の原因物質でもあるが、世界で多くの人々が居住する大都市の共通の環境問題となっている。また、騒音や振動の問題は、人々にとって最も身近な環境問題である。
交通運輸は、このように人々の生活のみならず国土や都市構造、さらに社会のあり方に大きな影響を及ぼしており、道路、鉄道等の整備による効率的な交通ネットワークを形成し、それを通じて多極分散型の国土利用を推進しつつ、「環境保全型社会」の形成のため、国土全体で環境と人間活動の適切なバランスを図るとともに、交通運輸を環境にやさしいものにしていかなければならい大きな理由がここにある。
現在、我々は、多様な交通手段を持っている。自分の足、家畜、自転車、自動車、鉄道、船舶、飛行機等である。また、自動車にも、ガソリン自動車、ディーゼル自動車、LPG自動車、電気自動車、メタノール自動車、天然ガス自動車など様々なものがある。そして、これらの手段の特徴等を考慮しつつ、適切な交通機関選択へと導き、運輸部門全体として環境への負荷をできるだけ小さくすることが必要である。