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第1節 

2 国内の取組

(1) 政府における対策の推進
 地球環境保全に関する関係閣僚会議は、精力的な活動を行った。平成2年3月29日の普及啓発等の推進についての幹事会申合せに引き続き、2年6月18日には、「平成2年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」を策定した。さらに、2年10月23日には、「地球温暖化防止行動計画」を決定した。また、科学技術会議の答申を受けて、2年8月内閣総理大臣は「地球科学技術に関する研究開発基本計画」を決定した。なお、3年度の地球環境保全関係予算は、2年度に比べて6.3%伸びて総額4,808億円となっている(第3-1-5表)。
ア 「地球温暖化防止行動計画」
 我が国は、石油危機以降官民挙げてのエネルギーの効率的利用等に努めてきた結果、一人当たりの二酸化炭素排出量は、先進国中最も低いグループに属する。しかしながら、我が国の二酸化炭素排出総量は、1988年現在では世界全体の4.7%を占め世界第4位となっている。我が国としては、温室効果ガスの排出抑制のための国際的な共通の努力として、第一段階として、温室効果ガスの排出量の安定化を早急に達成する必要がある。
 「地球温暖化防止行動計画」は、このような状況を踏まえ、地球温暖化対策を計画的・総合的に推進していくための当面の政府としての方針及び今後取り組んでいくべき実行可能な対策の全体像を明確にすることにより、国民の理解と協力を得るとともに、我が国として国際的な枠組みづくりに貢献していく上で基本的姿勢を明らかにするため策定された。


イ 調査研究体制の整備
 地球環境問題については、そのメカニズムや影響、対策面で未解明な点も未だに多く、保全対策を効率的に進め、国際貢献を果たしていく観点からも、我が国として調査研究に積極的に取り組んでいく必要性がある。政府は、調査研究に係る経費362億円、観測・監視に係る経費256億円、技術開発に係る経費3,831億円、計4,428億円の「平成2年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」を定めるとともに、「地球科学技術に関する研究開発基本計画」を策定し、政府一体となって学際的、国際的な調査研究の推進を図っている。この一環として、平成2年7月環境庁の国立公害研究所が国立環境研究所に改組され、同年10月国立環境研究所に地球環境研究の支援・交流の拠点として「地球環境研究センター」が設置されるなど、各省庁において体制の整備が進んだ。また、平成2年度より、環境庁において新たに「地球環境研究総合推進費」12億円が計上され、関係省庁の国立試験研究機関等の参加を得て、オゾン層破壊、地球温暖化、熱帯林減少等の分野について総合的な研究が開始されている。
 平成3年度以降においても、地球温暖化防止施策の立案、熱帯林の実態把握や保全対策立案等、対応を迫られている地球環境問題の解決に向けた調査研究の充実を図っていくことといている。
ウ 技術開発及びその普及
 技術開発及びその普及は、地球環境保全対策の柱の一つであり、地球環境保全に関する関係閣僚会議が「平成2年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」を定めるとともに、内閣総理大臣が「地球科学技術に関する研究開発基本計画」を策定した。
 「平成2年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」においては、次のように地球環境保全に関する技術開発の推進の基本的な考え方と重点分野を明らかにしている。
? 基本的考え方
a 汚染物質等の直接的な処理技術はもとより、資源、エネルギーの効率利用等の技術を含め「持続可能な開発」の推進のため、地球環境の変化を緩和するための技術開発を行う。
b 特定の地球環境問題の解決のための技術が他の環境問題等を起こさないようその開発に当たり配慮するとともに、開発途上国の条件に適した技術の開発を推進する。
? 重点分野
 地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、海洋汚染、熱帯林の減少、砂漠化等国際的に対応が必要になっている分野において必要となる技術開発を重点的に推進する。
 本計画に基づき、平成2年度においては、二酸化炭素固定化・有効利用技術、第3世代フロン開発等が行われている。
 技術開発は地球環境問題に対して直ちに効果を現わすものではないが長期的視点に立った取組が必要であり、各種の技術開発と併せて技術の普及を促進する社会システムの構築を図ることが重要である。
エ 国民の経済社会活動への浸透
 最近の大きな特徴は、これら一連の施策を通じて、地球環境問題が国民の経済社会活動のなかに浸透し、地球環境問題への対策は日本社会のあらゆる分野で行わなければならないすぐれて国内的課題でもあるとの認識が広まってきたことである。
 例えば、普及啓発等の推進についての地球環境保全に関する関係閣僚会議幹事会の申合せは、「再生紙の使用は、森林資源の保全等を通じ地球環境の保全に資するものであり、率先して可能なものから再生紙の利用を実施していくこと。使用済用紙の分別回収、紙使用の適正化等実施可能なごみの減量化対策を実施していくこと。」と具体的に地球環境問題と紙の使用との関係を述べており、また、同日の省エネルギー・省資源対策推進会議の申合せでも「古紙の回収・利用の促進は、近年、地球環境問題の一環としての森林資源の保護といった観点から一層その重要性を増しつつある。」とするなど、国民に広く受け入れられている。また、「地球温暖化防止行動計画」は、二酸化炭素排出量抑制対策として、都市・地域構造、交通体系、生産構造、エネルギー供給構造及びライフスタイルのすべての領域にわたって、二酸化炭素排出の少ないものへと変革していくべきであるとしており、政府関係各機関のみならず、地方公共団体、企業、国民各層が地球環境問題への取組に参加するための明確な方針を示している。
 このように、地球環境問題への取組と国内の環境問題への取組とが、同じように身近なものとなってきた今日では、地球環境問題への取組の強化が国内の環境問題への取組を強化して国際社会の日本への信頼を高め、国内の環境問題への取組の強化が地球環境問題への取組の強化を促して国際協力の発展へと繋がっていく、すなわち「地球規模で考え、地域で行動する」のみならず「地域で考え、地球規模で行動する」ことが相互に強化し合う好循環の条件が整ってきたといえる。
オ リサイクル社会に向けての取組
 地球環境問題の顕在化は、現在の大量生産・大量廃棄型の経済活動をこのまま進めていけば、地球の環境容量の限界を超え経済社会そのものが行き詰まることを明らかにした。地球の資源を大量に利用することで巨大な経済活動を営んでいる我が国において、将来の世代にわたって持続可能な開発を進めるためには、現在の社会のあり方を見直し、廃棄より再使用・再生利用を第一に考え、新たな資源の投入を出来るだけ抑え、環境中に戻す排出物の量を最小限とするとともに、有害物質をできる限り環境に排出しない「リサイクル社会」を形成する努力を行うことが必要である。
 リサイクル社会の形成のためには、生産、流通、消費、再生の社会の各主体が一体となって取り組むことが重要である。全国各地において身近なところから地球環境を守るためリサイクル活動を実践しようとする住民の意識の高まりがみられるとともに、経済界がとりまとめた廃棄物対策の課題や労働界の環境政策においても、それぞれの立場から経済社会システムを環境にやさしいものへと転換していくことが重要な課題とされるなど、環境保全のためのリサイクル社会の形成は国民各界各層共通の認識となってきている。
 こうした国民的な要請に応えるため、政府は、再生資源の利用の促進に向けて、消費者等の協力を得つつ、事業者の再生資源の利用の努力を最大限引き出すため、所要の措置を講ずることを内容とする「再生資源の利用の促進に関する法律案」及び廃棄物の排出をできる限り抑制するとともにその再生を廃棄物の適正な処理の一形態として明確化し促進に努めるという観点を盛り込むこと等を内容とする「廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び廃棄物処理施設整備緊急措置法の一部を改正する法律案」を第120回国会に提出している。
 これらの施策は、1989年6月の地球環境保全に関する関係閣僚会議での申合せにおける「地球環境への負荷がより少ない方法で経済社会活動が行われるよう努力する」ことを具体化する施策の重要な柱であり、国民各層の意識変革を通じて環境保全型社会づくりを進める第一歩となるものである。


(2) 地方公共団体の取組
 「地球環境問題への取組は地域から」という考え方が定着するにつれて、地方公共団体の取組も活発化している。日本の経済力は大きく、地方公共団体のレベルでみても、その経済力は外国一国分のGDPに匹敵するところが少なくない。また、地域住民の環境保全への関心も高まっているため、住民に密着した行政を行っている地方公共団体が地球環境に取り組む意義は極めて大きい。
 既に東京都、愛知県、大阪府等では、地球環境問題に対処するための官民の体制を整備している。また、横浜市、名古屋市、北九州市等では国際的なシンポジウムやセミナーも開催している。具体的な行動としては、例えば、東京都では、省資源・省エネルギー対策の推進、フロン対策の推進、国際技術協力等の推進、地球環境問題に関する普及啓発、事業者等への協力要請を行っている。また、墨田区では、地球温暖化による海面上昇の影響を強く受けること等を踏まえ、エネルギー・水・ゴミのリサイクルを進める政策提言を行い、行政、事業者、住民が一体となった取組を進めている。
 さらに、地球の環境保全活動を継続的かつ着実に実施することができるようにするため、平成元年度に全国の都道府県、政令市に設置された地域環境保全基金により、地球環境問題と地域の環境問題を関連づけて、スライド等の環境教育資料の作成、シンポジウム等のイベントの開催等が行われ、多様な普及啓発活動が展開されている。
(3) 企業の取組
 日本経済の担い手である企業においても、地球環境問題への取組が進んできている。経済界は、平成2年4月に地球環境問題に対する基本的見解を発表し、取組の姿勢とエネルギー産業等主要産業における具体的な取組を提示している。また、2年11月には生活者に視点をおいた経済運営を進める観点から、人類の生存自体を脅かすような環境破壊を容認する企業行動は、それ自体自己否定であって、企業行動においては、地球環境保全のためのコストは、経営上の基本的な費用、つまり地球使用料として負担しなければならないと、新しい生活文明の創造にチャレンジする企業の姿を提示している。
 個別の企業においても、地球環境室が設けられたり、地球環境担当取締役がおかれる事例がみられるようになってきた。特徴的なことは、従来、環境問題の対策組織を設置する企業は、工場等を有する直接環境汚染物質を排出する企業であったが、これが、消費者に密着した流通業界などに拡大してきていることである。
 企業の環境志向は、好ましいことである。それが、新しい技術開発や需要の創出によるビジネス・チャンスを求めるものであっても、販売促進のための企業イメージの向上のためであっても、また、地域社会の一員としての責務を果たすという企業の品格を重んじるものであっても、様々な動機があってよい。企業の環境志向が現在の経済社会に定着し、善意により環境保全活動を行っている人々の大きな助けとなり、さらに企業の事業行動そのものが環境にやさしいものに順次転換していくことによって、「環境保全型社会」が形成されていくことになる。「地球温暖化防止行動計画」に盛り込まれている事柄は広範にわたっており、企業の環境志向が現実の企業の行動として現れるには時間を要するものの、企業に対し、その速やかな具体化が求められている。
(4) 地域住民の取組
 国民一人ひとりの地球環境問題に対する認識も深まってきており、地域での活動も活発になってきている。
 1992年の国連環境開発会議をひかえて、6月5日の国連「世界環境の日」はますます重要な日となってきている。日本では、この国連人間環境会議の翌年の昭和48年から、毎年6月5日からの一週間を「環境週間」とし、環境に関する普及啓発活動を行っている。平成2年の環境週間では、東京都内のデパートにおいて、国、地方公共団体、企業、民間団体が共催して、地球環境問題を分かりやすく解説し、環境にやさしい暮らしを提示する「エコライフ・フェア」が、海部首相を迎えて開催され、6日間の間に10万人以上の来場者があった。各地で、地方公共団体や多くの民間団体が参加し、環境に関する講演会やシンポジウム、不要品を捨てないで交換するフリー・マーケット(リサイクル市)、山や川などをきれいにする美化清掃活動、再生紙を使ったハガキや子供たちの環境をまもるアイデアのコンテスト、さらには、映画館やプラネタリウム、水族館なども環境に関する催しを行うなど、多彩な催しが繰り広げられた。
 市民レベルの国際協力は、日本が国内的にも国際的にも環境を大切に考えていることを、諸外国の人々が理解し、信頼関係を築いていく上で重要である。この点、我が国では、欧米諸国と比較しNGO(Non-GovernmentalOrganization)が育っていないといわれる。国際的にはNGOとは国際的な活動を行う非営利の民間団体をいうが、日本ではこのような団体は少ないものの、地域における活動を行う非営利の民間団体(CBO=CommunityBased Organization)の活動は活発である。例えば、リサイクルのための分別回収のために回収分別所で一定時間の労力を提供する町内会組織は、その観点からはボランティア組織である。また、山や川、海の美化清掃を行うボランティア組織も日本には多く存在する。このように我が国には地域に根をおろした活動の実績があり、我が国にしっかり根をはったNGOが大きく育つことも期待できる。
 政府においても、NGOの活動を支援しており、例えば、外務省では、平成元年度に、我が国のNGOが行う開発途上国における開発協力事業に対する補助制度と、開発途上国の地方公共団体や研究・医療機関及び開発途上国において活動しているNGO等に対する小規模無償資金協力制度を創設した。NGOに対する事業補助金制度においては、造植林事業などの環境保全事業についても補助対象とされており、小規模無償資金協力制度においてもタンザニアの野生動物保護教育支援プログラムへの資金供与などが行われている。また、農林水産省でも、平成元年から、農産物生産、植林等地域の実情に応じた草の根レベルの協力を推進するため、開発途上国で活動する我が国のNGOを対象にに専門家の派遣、シンポジウムの開催、技術指導等の作成等を行うNGO農林業協力推進事業を実施し、その拡充を図っている。郵政省では、平成2年度から、郵便貯金の利子の一部または全部を開発途上国の住民福祉の向上などを目的として活動するNGOへの寄付にあてる「国際ボランティア・ファンド」を創設し、受付を開始した。
 地域活動には、様々なものがある。地球環境を守るため、有限の資源をリサイクルしようという運動が大きな共感を呼び、地方公共団体と住民団体との協力の下、企業の参加も得て進められている。牛乳パックのリサイクル運動は、それぞれの地域で独立に実行する人々や、これを応援する企業などの参加もあって、大きく広がり、国際的な交流も進んでいる。「地球規模で考え、地域で行動する」ことから「地域で考え、地球規模で行動する」ことまで広がる1つの例である。
 さらに、生活型公害である生活排水対策は、家庭の協力が無ければ実効を期しがたい。政府では、「水質汚濁防止法」の改正より、住民行政の第一線である市町村の積極的参加を図るとともに、生活排水対策広域推進事業やモデル生活排水対策計画など行政と住民が協力して、きれいな水、親しめる水づくりに取り組める体制の整備を支援している。
 しかしながら、このような多様な環境にやさしい活動が行われている一方、「環境保全型社会」の形成にとって、決して好ましくないことも行われている。例えば、最近では、排気量の大きい乗用者の売れ行きが好調になっている。これらの乗用者は、多人数で乗るのが常態である等の理由があればともかく、小型車に比べ二酸化炭素を多く排出するものであって環境上に好ましくないものである。また、お中元やお歳暮という我が国の贈答慣行において、一部の流通企業や消費者の努力にもかかわらず、依然として消費者と企業のそれぞれが、相手方が従来からの包装を求めているとする「もたれあい構造」の中で簡易包装が普及していない。
(5) 環境教育
 環境教育は、世代間で地球環境問題を話し合う最も有効な手段である。多くの地球環境問題についての予測は2025年頃についてなされている。2025年頃というと現在10才の子供が45才になり、社会の中核として次の世代に対する責任を負う頃である。これらの世代は、社会経済構造を環境にやさしいものに変革していく使命を負っている現在の中堅世代に劣らず重要な世代である。
 環境教育は、国民自身による自己啓発としての学習や住民相互の啓発などを通じた意識変革の作業であって、人間と環境とのかかわりについて理解と認識を深め、責任ある行動がとれるよう国民の学習を推進することである。すなわち、国民一人ひとりが環境と環境問題に関心、知識人間活動と環境とのかかわりについて理解し、環境への配慮を人間の活動は環境の悪化をもたらすという認識を深め、生活環境の保全や自然保護に配慮した行動を心がけるとともに、より良い環境の創造活動や自然とのふれあいに主体的に参加し、健全で恵み豊かな環境を国民の共有の資産として次の世代に引き継ぐことができるよう国民の学習を推進することである。環境庁の「環境教育懇談会」(座長加藤一郎成城学園学園長)の報告では、「環境教育」という言葉とともに「環境教育学習」とか、「国民の学習や実践活動」というような表現をしている。
 環境教育活動は、リサイクル、美化清掃活動、自然観察会等の実践活動、日本在住の各国の子供たちが地球環境について話し合う会合や自然保護教育など環境教育に携わっている人々が集まって環境教育の向上のための会合が積み重ねられるなど民間団体においても広がりをみせている。
 また、OECD等での議論を通じて、さらに世界各国に拡大しつつある環境保全に役立つ商品にマークをつけて国民に推奨する「エコラベル」制度も、環境教育に貢献している。(第3-1-6表第3-1-2図)。(財)環境協会の日本の「エコマーク」をはじめ、既に、ドイツ、カナダ、北欧諸国で「エコラベル」制度が発足しており、1990年7月、ベルリンで開催された西ドイツ政府主催の「環境保護ラベルに関する国際会議」には26か国、6国際機関が参加し、「環境保護ラベルに関するベルリン声明」が出され、今後ドイツをステーションに各国間の情報交換を進めていくこととされた。
 環境問題は社会の変化や科学的知見の増加などによって時代とともに変化していくものであるから、環境教育は、人間の生涯にわたり、発展段階に見合ってきめ細かく行わなければならない。環境マインドの形成の観点からは、できるだけ早い時期から行うことが望ましい。文部省では、社会教育と学校教育の両面におい環境教育を推進している。例えば「環境教育推進指導資料作成協力者会議」を設けて、平成3年3月、学校で環境教育に当たる教師のために「環境教育指導資料」を作成し、教育委員会等に配布することとしている。また、大阪府や和歌山県等の地方公共団体では教師や子どものため環境教育副読本を作成している。

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