1 生存と共存のための環境政策
21世紀に向けて、環境問題は人類の生存と共存に関する課題となっている。
地球環境問題は、人類の生物種としての生存にかかわる問題である。地球上で増加の一途を辿る人類は、その旺盛な経済社会活動によって地球の生態系に大きな変化をもたらし、自らの生存基盤に脅威をもたらしている。特に、フロンや二酸化炭素などの温室効果ガスの排出によるオゾン層破壊や地球温暖化の影響が現実のものとなった場合、オゾン層が完全に破壊されてしまった地球ではほとんどの生物は生存できないし、地球温暖化が進んだ世界では、気候も生物相も現在と全く異なった世界が出現し、そのような世界への人類の適応には様々な困難が生じる。
地球環境問題の解決のためには、地球上に住む先進国や開発途上国の人々が共存できる世界の構築が不可欠となっている。地球温暖化やオゾン層の破壊、熱帯林の減少などの地球環境問題は、その被害、影響が一国内にとどまらず、国境を越え、ひいては地球規模に及ぶ。その解決は個々の国による対応だけでは不可能であり、先進国、ソ連・東欧諸国、開発途上国すべての国々の国際協力が必要である。現在、世界の人口は53億人、2025年には84億人に達し、その多くが開発途上国の貧しい人々であるといわれている。地球環境問題に対処するための国際協力を築き上げていくためには、開発途上国の抱える貧困問題等の解決を通じて、先進国の人々と開発途上国の人々との共存を図っていかなければならない。
さらに、人類と地球上の他の生物との共存をいかに図っていくかということも大きな課題である。人類だけが生きている地球はありえない。何十億年もかけて形成された地球の生態系の中で人類は誕生した。人類の生存を維持していくためには、地球生態系を形づくる多くの生き物がこの地球には不可欠である。人間だけが活動する宇宙ステーションができるとしても、そのような世界では何十億人の人類は生きていけない。しかしながら、現在、自然の摂理によるよりもはるかに多くの生物が人為的原因によって絶滅に追いやられている。
将来の世代との共存も必要である。
環境は将来の世代に引き継いでいくものである。現在の世代が多くの環境資源を使い果たし、多くの廃棄物を地球に排出すれば、将来の世代が利用できる環境資源は少なくなり、環境回復の負担は大きくなる。環境回復が不可能な場合もある。その不利益は将来の世代が受けることになる。将来の世代に発言の機会があれば、現在の世代は、彼らとの共存をいかに図るか協議するであろうが、次の世代の人々は幼く、将来の世代は発言権を持たない。将来の世代は、現在の世代の人々が賢明な選択をすることに期待するしかない。
現在に生きる人々にとっては、地球環境問題と国内の環境問題とが等しく生活への大きな脅威となっている。地球環境問題への対応には、緊密な国際協力が不可欠である。国際協力の下での対策の実施は、世界が多くの主権国家に分かれている現在では、地球環境問題についてもそれぞれの国内で行われる。国内の環境問題への取組が、または開発途上国の抱えている国内の環境問題解決への協力が、地球規模の環境問題への国際協調の基礎となる。それぞれの国内の環境問題は国境を越えて展開される経済活動の相互依存関係の中で他の国の経済社会活動と関連しており、地球環境問題と各国の環境問題の解決は、環境政策と経済政策の密接な連携の下で、同様の重要性をもって取り組まなくてはならない。