この環境白書(「総説」、「各論」)は、公害対策基本法第7条に基づき政府が第120回国会に提出した「平成2年度公害の状況に関する年次報告」及び「平成3年度において講じようとする公害の防止に関する施策」である。
執筆に当たった省庁は、総理府、公害等調整委員会、警察庁、環境庁、国土庁、法務省、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省及び自治省であり、環境庁がその取りまとめに当たった。
はじめに
環境問題への関心が、再び世界中で高まっている。環境庁発足の翌年の1972年にスウェーデンのストックホルムで開催された国連人間環境会議に続いて、1992年6月には、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで「環境と開発に関する国連会議」(国連環境開発会議)が開催される。この会議に向けて世界の地域や国々で準備が進んでおり、毎週のように開催されている環境に関する国際会議の成果は、この国連環境開発会議に集約されようとしている。国連環境開発会議は、政府の会合だけでなく、その準備段階では非政府団体(NGO)の参加も奨励されるなど、多彩な会合を通じてその準備が進められている。科学、政治、行政、産業などあらゆる分野の人々が協力して、「環境と開発」に関する討議を深め、地球規模での環境問題の解決のための方策をとりまとめることが期待されているのである。
本白書では、1992年の国連環境開発会議を控えて新たな地球規模の対応策について論議が進められていることを踏まえ、過去の経験を振り返りつつ、直面する問題への取組の課題と方向を整理することとする。
まず、第1章においては、地球環境問題と国内環境問題に関する環境の状況を概観する。その中では、国連人間環境会議から今日までの20年間をできるかぎり振り返ることとしたい。
次に第2章において、地球とともに生きていく人類社会の観点から、「環境と開発」をテーマとする国連環境開発会議に参画していくために念頭に置かなければならない事柄を概観する。1972年の国連人間環境会議から1992年の国連環境開発会議までの主な経路について簡潔にふれ、これまでも国際会議において問題となってきた先進国と開発途上国の利害調整、現在の世代と将来の世代との利害調整、人と地球上に生きる他の生き物との共存、紛争と環境など、地球規模で環境問題に対処していく際の基本的な事柄を考察し、さらに、こうした利害が分かれる問題が生じる背景となっている人口、都市、経済、エネルギーについての状況を考察する。
「地球温暖化防止行動計画」の策定など、地球環境問題は議論の段階から行動の段階へと入っているが、行動の段階では、地球環境問題への対策は、国際協力の下にではあるが、各国の国内施策として実行されるものであることが明らかになってきている。国内で行われる地球環境問題への対策と国内環境への対策とが相互に影響を及ぼしつつあり、経済社会構造に踏み込んだ多様な政策手段をもってこれからの環境問題の解決に当たっていく必要がある。
そこで、第3章では、21世紀に向けての環境政策として、経済社会を環境にやさしいものに変革していく際の問題を具体的にとらえ、その解決の方途を考察する。すなわち、行動の段階に入った地球環境問題の国際的取組と国内の取組を概観するとともに、経済社会を形作っている要素の中から人々の生活に密接に関連し、特に、二酸化炭素の排出によって地球環境問題と、また、二酸化窒素の排出によって国内の環境問題とそれぞれかかわっている交通手段の中心である自動車にかかわる問題についての分析を行う。また、地球環境問題の基本は人の経済社会活動が地球生態系を壊さないようにすることであるが、この観点から、地球生態系を保全する方策を探るとともに、人の心の中に自然を慈しむ心を育んでいくための方策、具体的には、都市的生活の拡大によってますます離れていく傾向にある自然と人間の距離を小さくし、自然とのふれあいを積極的かつ意識的につくっていく方策について考察する。