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第4節 開発途上国に対する環境協力

 開発途上国は、砂漠化、熱帯林の減少等の人口圧力や環境資源の不適切な管理に起因する環境問題のほか、経済社会開発の進展に伴い、先進国が経験してきたような環境汚染の問題に直面している。開発途上国では、開発と並行して環境行政機構、環境法制の整備等に取り組んでいるが、通常、技術的経済的基盤が不十分であり、環境保全対策を効果的に進めるためには先進国からの援助が必要となる場合も多い。特に、環境保全対策に数多くの経験と実績を持つ我が国に対する期待が近年高まっており、我が国に対する環境技術協力の要請件数は近年増大しつつある。このため、国際協力事業団の技術協力の一環として環境協力を推進するとともに、より効果的な協力事業の推進の方策について検討を行い、その成果を踏まえて人材の養成・確保等の取組を実施している。
 平成元年度には、次のような協力が実施された。
(1) 技術協力
(ア) 開発調査
? パラグァイ国イパカライ湖流域水質汚濁対策計画調査
 パラグァイ国イパカライ湖に係る水質汚濁の現状と発生源について調査し、同湖流域の総合的な水質汚濁対策を提言することを目的として、昭和63年1月より同湖の水質汚濁対策に係る技術協力が行われ、平成元年8月に最終報告書が提出された。
? ボゴタ市大気汚染対策調査
 コロンビア国ボゴタ市の大気汚染の現状を調査し、汚染対策を策定・提言することを目的として、平成元年2月より同市の大気汚染対策に係る技術協力が行われている。
? メキシコ国大気汚染固定発生源対策調査
 メキシコ首都圏の大気汚染について、特に固定発生源対策を中心とした大気汚染対策計画を策定することを目的とした開発調査に係る予備調査団が、元年8月に派遣された。
? 中国陽湖水質保護対策調査
 中国陽湖の水質汚濁の現状と汚濁源等を調査し、同湖の水質保全計画を策定することを目的とした開発調査に係る事前調査団が、元年12月に派遣された。
(イ) 研修員受入れ事業
 開発途上国には、環境保全全体に関する専門的な知識経験を有する行政官・技術者の絶対数の不足に直面している国も多い。
 このため国際協力事業団は、環境庁、建設省、厚生省等の協力を得て、集団研修を実施している。平成元年度には環境行政(10か国10名)、環境技術(水質保全)(11か国11名)、環境技術(大気保全)(10か国12名)、下水道技術(13か国15名)、廃棄物処理(10か国10名)、産業環境対策(8か国10名)及び産業公害防止(4か国6名)等の研修を実施した。また、同事業団は特定の問題に焦点を合わせた個別研修を各国のニーズに応じ随時実施している。
(ウ) 専門家派遣
 開発途上国の行政機関・研究機関等に環境分野の技術移転を行うために、韓国、タイ、マレーシア、インドネシア、メキシコ等に専門家を派遣した。
(エ) 研究協力
 韓国漢江流域の水質保全を図るための研究協力に関する調査団が、元年11月に派遣され、2年2月より研究協力が実施されている。
 また、中国との間で、砂漠化機構の解明に関する共同研究を開始した。
(2) 無償資金協力
 平成元年度には、次の分野の無償資金協力が実施された。
(ア) タイ環境研究研修センター
 環境分野の研究、研修及びモニタリング業務を一元的に実施するセンターの設立に対する無償資金協力について、元年6月に閣議決定、元年7月に交換公文の署名が行われ、2年3月から建設が開始されている。
(イ) 日中友好環境保全センター
 環境モニタリング・情報部門及び応用研究部門等で構成されるセンターの設立に対する無償資金協力について、基本設計調査団が2年3月に派遣された。
(3) 有償資金協力
 平成元年度には、以下の案件をはじめとし、その他上下水道整備等環境分野で有償資金協力を実施している。
?フィリピン・メトロセブ開発事業(ゴミ処理プロジェクト等)
 セブ市を中心とする都市部を対象とするゴミ処理プロジェクトに資金供与を実施し、都市環境の改善を図るものであり、平成元年10月に交換公文の署名が行われ、2年3月に借款契約が締結されている。
?インドネシア・セクタープログラムローン
 本セクタープログラムローンでは、主要セクター支援の一環として、約1万4千haの植林を行うこととしており、元年12月に交換公文の署名及び借款契約の締結が行われている。
(4) プロジェクト形成のための調査団の派遣
 我が国が環境分野の援助を拡充・強化していくに当たり、開発途上国との各種政策対話を強め、優良な援助案件を発掘に努めることが必要となっている。
 この観点から、元年度においては、以下のようなプロジェクト形成調査団が派遣された。
? メキシコ・プロジェクト形成調査団
 メキシコ市の大気汚染対策について我が国の協力に関する要望を把握するため、元年6月に調査団が派遣された。
? 東南アジア環境ミッション
 環境分野における協力のあり方について、東南アジア4ヶ国(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)の政府と政策対話を行いつつ、優良な案件の発掘等に関し、意見交換を行うため、元年10月に調査団が派遣された。
? 東欧環境ミッション
 東欧4ヶ国(ポーランド、東独、チェコスロバキア、ハンガリー)における環境問題の状況を把握するため元年12月に調査団が派遣された。
(5) 環境配慮の充実
 円借款を担当する海外経済協力基金においては、1989年4月に環境問題検討委員会を設置するとともに、11月には環境配慮のためのガイドラインを公表した。
 また国際協力事業団においても各分野の環境配慮ガイドラインを策定中であり、1989年8月には環境室を設置して環境配慮の実施体制の強化を図っている。

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