3 問題群としての地球環境問題
以上述べてきたとおり、地球環境問題は様々な局面で顕在化しているが、これらは、人間活動という共通の要因に基づき発生し、相互に絡み合いながら地球生態系をめぐる一つの問題群を構成している(第3-1-20図)。
これらの地球環境問題は、いずれも人間活動の量的拡大、質的変化が地球生態系に過大な負荷をかけていることが根本的な原因となっている。現在の地球は、誕生してから46億年という長い時間を経過して出来上がったものであり、様々な物質の構成や複雑な生態系循環の中で成り立っているが、そこには非常に微妙なバランスが存在している。
産業革命を契機とした人間活動の飛躍的拡大や人口の爆発的な増加は、このような地球の環境に大きな負荷をもたらした。地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量の増加や酸性雨の発生等は、人間活動の量的拡大による典型的な問題である。また、熱帯林の減少、砂漠化の進行、野生生物種の減少等は、人口増加を背景とした人間活動の拡大が微妙な生態系を有する土地に負荷をかけていることが大きな要因となっている。開発途上国における人口の増加は、途上国の貧困問題に起因する部分が大きく、それは途上国自体の社会構造上の問題であるとともに、相互依存関係を強める世界経済全体のあり方と密接に関連し、先進国における経済活動とも決して無縁ではない。さらに、フロンガス等によるオゾン層の破壊や、化学物質による汚染、有害廃棄物の越境移動等の問題は、人類により新たに作り出された様々な物質が経済活動の拡大と相俟って大量かつ広範囲に使われることとなったことに起因している。
各々の地球環境問題も相互に絡み合っている。例えば、オゾン層を破壊するフロンガスは、地球温暖化をもたらす原因物質の一つでもあり、森林の減少は二酸化炭素の吸収の減少を通じ温暖化を加速する。温暖化が進むと、気候の変化に植生の変化が追いつかなくなる恐れがあり、また、降水パターンが変化し、森林は弱り、砂漠化が進むことがある。また、熱帯林の減少は、野生生物の種の減少の最大の要因になる。さらに、海洋汚染は海による二酸化炭素の吸収を妨げ、温暖化を進行させる。このように、一つの地球環境問題が他の地球環境問題の原因となり、また結果になっているという側面が多々あるのである。一方、内外で地下水汚染を引き起こしたトリクロロエチレン等の有機塩素系溶剤に代替して、生体毒性のないフロンの利用拡大が進んできた面があるが、そのフロンガスがオゾン層の破壊の原因物質になるなど、一つの環境問題を解決するための技術対応が他の環境問題を引き起こすこともある。
このように、地球環境問題は、様々な要因が相互に絡まりながら発生するものであるが、それと併せて、一般的には極めて長い時間をかけて影響が現れるという特徴をもつことも忘れてはならない。また、地球を取り巻く生態系は微妙なバランスの上に成り立っており、このバランスが一度崩れるとその回復は著しく困難である。したがって、現在に生きる世代が着実な対策努力を払うことなく地球規模の環境悪化を許してしまうとすれば、結局次に続く世代に対し、損なわれた環境の改善のため多大の負担を課し、あるいはこれらの人々が回復困難な環境悪化にさいなまれるという事態さえもたらされるであろう。
こうした意味で、地球環境の保全は、世代を越えた長期的視点に立って総合的に進める必要があるのである。