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第1節 

1 窒素酸化物対策

 窒素酸化物対策としては、工場の固定発生源に対しては排出規制の強化、規制対象施設の拡充に加えて東京地域等3地域において工場毎の排出総量を規制する総量規制を実施している。また、自動車に対しては自動車単体に対する排出規制の強化を行ってきているほか、物資輸送の効率を高めることのよってトラック走行量抑制を図る物流対策等の自動車交通対策や低公害車の普及促進などを実施してきた。しかし、二酸化窒素の濃度は、第1章でみたように特に大都市地域を中心に昭和61年度、62年度と続けて悪化し、63年度は62年度とほぼ横這いである。この水準は、かつて最も悪かった53年度とほぼ同じであり、その改善が緊急の課題となっている。また、大都市地域の将来の濃度については、ある程度の改善は期待できるものの、これまでの対策だけでは自動車排出ガス測定局を中心に環境基準の達成が困難であると予測されている。このため、自動車からの排出量の削減をはじめとした次のような対策を総合的かつ強力に進める必要がある。
 第一は、自動車からの排出量の削減である。特に、近年伸びが著しく、窒素酸化物の排出量の多いディーゼル車に重点を置いて排出量の一層の削減を行う必要がある。
 第二は、窒素酸化物の排出量の少ない車両への代替促進を強力に実施することである。特に、トラック、バスの使用年数の長期化が二酸化窒素による大気汚染の改善を阻んでいる大きな要因となっており、最新規制適合車への代替促進が重要である。また、ガソリン車とディーゼル車の併存する車種については、燃料の価格差等の経済的要素が及ぼす影響についても検討を加える必要がある。
 第三は、低公害車の開発及びその普及のための施策の強化である。従来進めてきた自動車一台ごとの排出ガスの低減に加え、自動車総体としての排出ガス低減の観点から、低公害車を大量普及させ、主要な交通機関の一つとして社会に定着させていく必要がある。このため、電気自動車、メタノール車、天然ガス自動車等の低公害車の性能向上にかかる研究開発を強力に進めるとともに、使途の拡大とコストの低減を同時に進め、大量普及に向けての社会環境づくりをしていく必要がある。
 第四は、都市の構造等の改善を強力に進めることである。すなわち、大都市地域におけるトラックの都心部への乗り入れを抑制するため、トラックターミナル、市場、倉庫等の物流施設の郊外部への再配置や大量の自動車走行を誘発する工場、事業場の適地への移転を進めるともに、都心部通過交通の迂回、分散に資するバイパスや環状道路を環境保全に留意しながら整備することが必要である。また、植樹帯等の環境施設帯の整備等の道路構造対策、総合的な駐車対策等についても推進していく必要がある。
 第五は、輸送システムの改善を図ることである。特に、長距離トラックに代替し得る輸送方法の活用を図ることが重要であり、コンテナ輸送、トラックをそのまま貨車に乗せて運ぶピギーバック等の鉄道貨物輸送の利用を促進する必要がある。また、中・長距離輸送についても、トラックの利用の増加を極力抑制するため、共同輸送、共同集配送の普及、鉄道や海上コンテナの活用等を進める必要がある。さらに、大都市地域における地域全体の自動車排出ガスの総量を抑制する方策の可能性の検討等新たな考え方に立った対策についても検討を進め、社会的合意を図りつつ逐次その具体化を図っていく必要がある。
 これらの対策に加えて、工場・事業場に対する排出規制の徹底等を図るとともに、地域冷暖房システムの導入、普及、排熱や自然エネルギーの利用の促進、効果的なキャンペーンを伴った季節大気汚染暫定対策の実施等が必要である。
 以上のうち、第一の自動車単体規制については、平成元年12月、中央公害対策審議会から、「自動車排出ガス低減対策のあり方について」答申が出された。その内容は、トラック、バス及びディーゼル乗用車について、平成4年〜6年を目途に達成すべき短期目標及び遅くとも10年以内に達成すべき長期目標の2段階の目標を示し、最終的には現状の排出レベルの3割〜6割の削減を図る必要があるとしたものである。特に、直噴式ディーゼルトラックについては大型車が38%、中型車が65%の削減を図る等大幅な低減を図ることとするとともに、直噴式ディーゼル車の排出レベルを副室式ディーゼル車の排出レベルまで低減させることにより、直噴式と副室式の規制を一本化する必要があるとしている。今後、この答申に沿って規制の強化を図る必要がある。
 また、第二の最新規制適合車への代替については、平成2年度から、昭和54年規制前の旧型のトラック、バスを廃車した上で最新規制適合車を購入した場合、新たに自動車取得税等の軽減措置がとられることとなった。

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