9 化学物質
化学物質は、その用途・種類が多岐・多様であり、現在工業的に生産されているものだけでも数万点にも及ぶといわれている。これらの中には、製造、流通、使用、廃棄等の様々な過程で環境中に排出され、環境中に残留し、環境汚染の原因となるものもある。
こうしたことから、環境庁では、化学物質の環境における安全性を評価するため、環境残留性が高いと考えられるものから順に、水質、底質等の汚染実態を明らかにするための環境調査を行っている。また、このうち環境中の濃度レベルの推移を長期的に把握していくことが必要なものについては、魚介類等を指標生物とした生物モニタリング等を行うこととしている。生物モニタリングによる主要汚染物質の検出割合は第1-1-15表のとおりであるが、既に製造等が中止されているPCB、DDT等の化学物質が引き続き高い濃度で検出されており、環境中に放出された化学物質による汚染の回復には長期間を要することを示している。PCBについては製造禁止以後、液状の廃PCB等は回収・保管されているが、残っている液状廃PCBの適正処理を進めることやPCB含有コンデンサ、トランス等について処理方法を確立することが課題となっている。また、トリクロロエチレン等については地下水汚染の顕在化等に鑑み、水質汚濁防止法、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(以下「化学物質審査規制法」という。)による規制が行われた。
船舶や漁網の防汚剤等として使用される有機スズ化合物のうち、トリブチルスズ化合物については、昭和60年度の生物モニタリング調査の結果、内湾、内海域の魚介類を中心に広範囲に検出されたため、特に瀬戸内海において61年度から汚染の濃度、範囲を把握する目的で魚介類を対象とした調査を実施している。元年度までの調査結果をみると、汚染の状況は概ね横ばいであり、現在の汚染レベルは直ちに危険な状況にあるとは考えられないものの、使用状況等を勘案し、引き続き環境汚染の状況を注意深く監視し対策を推進していくことが必要である(第1-1-16表)。また、トリフェニルスズ化合物については、昭和63年度の調査の結果、広く環境中から高い濃度で検出されており(第1-1-17表)、汚染状況は、現時点で直ちに人の健康に問題を生じるとは考えられないものの、現在の汚染のレベルが長期にわたって継続するならば、将来、影響を及ぼす可能性があり、速やかに必要な調査等を実施するとともに、所要の対策を講じる必要がある。
これらの調査結果等を踏まえ、化学物質審査規制法においては、平成2年1月、トリブチルスズ化合物のうち、ビス(トリブチルスズ)=オキシド(TBTO)を第1種特定化学物質(難分解性、高蓄積性で慢性毒性等を有する化学物質であり、許可外製造や輸入が禁止される)に、また、トリフェニルスズ化合物7種を第2種特定化学物質(難分解性で慢性毒性等を有するが高蓄積性を有しない化学物質であり、必要に応じて製造及び輸入量の規制が行われる)に指定した。
また、ダイオキシン類については、我が国でもごみ焼却灰やクロロフェノール系除草剤から検出されて以後調査研究が積み重ねられてきているところであるが、昭和60年度から一般環境中における汚染実態の調査を行っている。その結果をみると、ダイオキシン類による汚染状況は現時点では人の健康に被害を及ぼすものとは考えられないが、低濃度とはいえ一般環境中からダイオキシン類が検出されている。なお、63年度の調査結果は、第1-1-18表のとおりである。