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第1節 

1 公害紛争の処理状況

 公害紛争については、「公害紛争処理法」の定めるところにより、総理府の外局である公害等調整委員会及び都道府県に置かれている都道府県公害審査会等が処理することとされている(第6-1-1図)。
 公害等調整委員会は、裁定並びに特定の紛争(いわゆる重大事件、広域処理事件等)について、あっせん、調停及び仲裁を行い、都道府県公害審査会等は、それ以外の紛争について、あっせん、調停及び仲裁を行っている。
 裁定には、公害に係る被害についての損害賠償責任の有無及びその金額を判断する責任裁定と、被害と加害行為との間の因果関係の存否を判断する原因裁定の2種類がある。
(1) 公害等調整委員会に係属した事件
 昭和63年中に公害等調整委員会に係属した公害紛争事件は、37件(調整事件30件、責任裁定事件4件、原因裁定事件2件、その他の事件1件)であり、その内訳は、次のとおりである。
ア 調停事件
(ア) 不知火海沿岸における水俣病に係る損害賠償調停申請事件………25件
(イ) 仙台湾における養殖海苔被害等調停申請事件………………………1件
(ウ) スパイクタイヤ粉じん被害等調停申請事件…………………………3件
(エ) 新幹線騒音被害等調停申請事件………………………………………1件
イ 責任裁定事件
(ア) 森浦湾における養殖真珠被害責任裁定申請事件……………………2件
(イ) 道路騒音等被害責任裁定申請事件……………………………………2件
ウ 原因裁定事件
(ア) 壱岐における養殖真珠被害原因裁定申請事件………………………1件
(イ) 水俣病原因裁定申請事件………………………………………………1件
エ その他の事件
 大阪国際空港義務履行勧告申出事件………………………………………1件
 このうち昭和63年中に新たに申請のあった事件は20件、62年から繰り越した事件は17件である。新たに申請のあった事件は、ア(ア)の水俣病事件のうち16件、(ウ)のスパイクタイヤ粉じん被害等事件のうち1件、(エ)の新幹線騒音被害等事件1件、イ(イ)の道路騒音等責任裁定事件のうち1件及びウ(イ)の水俣病原因裁定事件1件である。
 終結した事件は、ア(ア)の水俣病事件のうち18件、(ウ)のスパイクタイヤ粉じん被害等事件3件、イ(ア)の養殖真珠責任裁定事件2件及びウ(イ)の水俣病原因裁定事件1件である。
 終結した事件のうちスパイクタイヤ粉じん被害等事件は、当初長野県在住の弁護士62名からタイヤメーカー7社を相手方として長野県知事に調停申請がなされたものであるが、手続の過程で申請人らがスパイクタイヤの製造停止をも主張したことなどから、昭和62年10月公害等調整委員会に引継ぎを受けたものである。その後東北6県及び北海道在住の弁護士等207名が手続に参加した。
 調停委員会は鋭意手続を進め、昭和63年6月、被申請人は、平成2年12月末日限り、スパイクタイヤの製造を中止し、3年3月末日限り、スパイクタイヤの販売を中止する等を内容とする調停が成立した。


(2) 都道府県公害審査会等に係属した事件
 昭和63年中に都道府県の公害審査会等で受け付けた公害紛争事件は31件で、いずれも調停事件である。
 昭和63年中に終結をみた事件は24件(成立12件、打切り7件、取下げ5件)である。なお、具体的な事例を挙げれば次のようなものがある。
事例 タクシー会社の車両の出入りに伴う騒音等により被害を受けているとして周辺住民から防音壁設置、植樹等を求める調停申請がなされていたもので、同会社は、特に騒音の著しい部分に防音工事を行い、車両の取扱いに注意すること等で合意が成立した(東京都)。
事例 メッキ工場の増設が行われると、大気汚染、水質汚濁、悪臭等の公害が発生する可能性が大きいとして周辺住民から公害防止協定の締結を求めて調停申請がなされていたもので、同工場は町との公害防止協定を改定すること、工場の新・増・改築等の工事を行うときは事前に連絡すること等で合意が成立した(愛知県)。

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