4 瀬戸内海の環境保全対策
瀬戸内海は、古来より優れた自然の景勝地であるとともに貴重な漁業資源の宝庫であるという恵まれた自然条件を有しているが、同時に、その周辺に産業及び人口が集中し、閉鎖性水域であることから、昭和40年代に水質の汚濁が急速に進行したこと等を背景に、水質保全対策等を強力に推進することが要請された。このため、48年に「瀬戸内海環境保全臨時措置法」が制定され、さらに、53年には新たな施策が加えられた恒久法「瀬戸内海環境保全特別措置法」に改正され、総合的な施策が進められてきた。
その結果、瀬戸内海の水質の状況は、CODについて見ると、環境基準の達成状況は昭和62年度には全体で80%となっており、全体的には相当の改善が見られるが、大阪湾、広島湾等の海域では、なお達成率は低い。また、海域の大部分を占めるA類型水域での達成率が62年度では57%と低い状況にある。
さらに、瀬戸内海は、栄養塩類等の流入に伴って藻類が大量に増殖するという、富栄養化の状態を呈している。富栄養化に伴う現象の一つでもある赤潮は、なお広域的に発生しており、昭和63年には、117件(水産庁確認件数)の発生が確認された(第3-4-3図)。これら赤潮の発生に伴う被害は、7月〜12月に計10件発生している。
油による海洋汚染の発生件数は昭和47年の874件から63年には146件と大幅に減少しているものの、なお全国の約25%を占めている。
瀬戸内海環境保全特別措置法に基づき瀬戸内海関係13府県の区域において講じられた環境保全対策の概要は次のとおりである。
(1) 都県計画の推進
関係府県知事は、瀬戸内海の環境の保全に関し実施すべき施策を定めた府県計画(昭和62年12月一部変更)に基づき、各種環境保全対策を実施している。
(2) 特定施設の設置等の許可
特定施設の設置等については許可制が採られており、昭和62年度の設置許可件数は553件、変更許可件数は577件であった。
(3) 水質総量規制の推進
現在、第二次の総量規制が平成元年度を目標年度として実施されている。(「1総量規制の推進」参照)
(4) 燐及びその化合物に係る削減指導
富栄養化防止対策としては、昭和55年度より燐及びその化合物に係る削減指導が行われてきたが、現在は60年10月の瀬戸内海環境保全審議会の答申を踏まえ、平成元年度を目標年度とする燐及びその化合物に係る削減指導方針に基づき削減指導が実施されている。
(5) 自然海浜の保全
瀬戸内海沿岸は、人口及び産業の集中に伴う開発等により、全国的に見ても海岸の人工化が進んだ地域である。残された自然海浜は、海水浴、潮干狩り等海洋性レクリエーションの場として利用されてきており、昭和62年における主要海水浴場58か所の利用者数の合計は、約863万人であった。
関係10府県はこれらの自然海浜を保全するため、自然海浜保全地区条例等を制定しており、昭和63年12月末までに82地区の自然海浜保全地区を指定している。
(6) 埋立てに当たっての環境保全上の配慮
瀬戸内海における公有水面埋立ての免許又は承認に当たって、関係府県知事は、瀬戸内海の特殊性に十分配慮しなければならないこととされており、本規定の運用の基本方針については、昭和49年5月に瀬戸内海環境保全審議会より答申がなされている。瀬戸内海環境保全臨時措置法施行以降63年11月1日までの間に2,951件、7,581ha(うち62年11月2日以降の1年間に162件、379ha)の埋立ての免許又は承認がなされている。
(7) 環境保全のための事業の実施等
ア 下水道については、第六次下水道整備五箇年計画に基づき、関係13府県における公共下水道、流域下水道及び特定環境保全公共下水道について重点的な整備が図られた。
イ 船舶廃油を処理する廃油処理施設は、平成元年1月17日現在、瀬戸内海で24港40か所(うち、廃軽質油を処理するものが16港22か所)が整備されている。
ウ 海上保安庁は、瀬戸内海を監視取締りの重点海域の一つとして、航空機と巡視船艇とを連携させた監視取締りを行なっており、昭和63年度は、油、有害液体物質及び廃棄物の排出等に係る海洋汚染事犯の一掃を図るため、三次にわたり「瀬戸内海クリーン作戦」を展開し、集中的な監視取締りを実施した。
エ 水質汚濁に関する資料については、昭和47年から継続的に水質調査を実施しているほか、赤潮発生予察の技術の開発、赤潮発生機構の解明、環境情報の収集及び富栄養化対策の検討等のための調査を行った。
オ 瀬戸内海の環境保全を推進するに際して、地域住民、事業者等による理解と協力が不可欠であることから、昭和63年度も(社)瀬戸内海環境保全協会を通じて、研修会、講演会等の環境保全に関する思想の普及活動事業を実施した。