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第2節 

3 地球環境の保全に向けての新たな取組

 我が国は、主要先進国の一つであり、資源の輸入大国かつ活発な国際金融や開発援助活動を行う国として、様々な分野で地球環境とのかかわりを持っている。一方、我が国は豊かな経済力、技術力を備えているだけでなく、環境保全の分野でも多くの経験と蓄積を有しており、地球環境の保全に大きく貢献できる潜在的能力を持っている。そのため、我が国は地球環境の保全に向けて、その国際的地位にふさわしい貢献をしていくことを世界から求められている。
 環境庁では、昭和62年4月に公表されたWCEDの報告書を受けて、そこで提唱された「持続可能な開発」の実現に向けて我が国がとるべき具体的行動の方向について「地球的規模の環境問題に関する懇談会」(地球墾))において検討を進めてきたが、「地球墾」は昭和63年6月、「地球環境問題への我が国の取組─日本貢献:よりよい地球環境を目指して─」と題する報告書を公表した。この中で、?地球環境問題に関する科学的知見の強化、?地球環境保全のための啓発・教育・訓練、?地球環境保全のための諸事業の推進、?地球環境保全を推進するための体制の整備と援助の拡充の4つの柱に沿って、我が国の地球環境問題への取組が提言されている。
 我が国における取組とその方向を概観すると、まず、大気環境の分野のうちオゾン層保護対策については、ウィーン条約(以下「条約」という。)及びモントリオール議定書(以下「議定書」という。)の的確かつ円滑な実施を確保するため、昭和63年5月、世界に先駆けて「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」(以下「法」という。)が制定されるとともに、同年9月には条約及び議定書への加入等の手続きが行われた。我が国に対しては、昭和63年12月29日に条約が、64年1月1日に議定書がそれぞれ発効したが、それらに伴い、法に基づいて、同月4日にオゾン層の保護に関する基本的事項及び特定フロンの排出抑制・使用合理化指針が策定された。さらに、平成元年7月からは法に基づく特定フロンの製造規制が実施される。我が国は、今後とも条約及び議定書を遵守し、オゾン層の保護に貢献するために、特定のフロンの製造等の規制、回収・再利用、代替物質の開発、オゾン層等の観測・監視等を着実に推進していくこととしている。また、最近、世界の主要な科学者により、オゾン層の破壊が従来想定されていた以上の速度で進みつつあるとの指摘が行われたことを踏まえ、UNEPはモントリオール議定書に定める規制水準の評価のための科学的知見の取りまとめを進めているが、我が国としても、オゾン層の破壊に関する調査研究の一層の充実を図り、こうした国際的な検討作業に積極的に貢献していく必要がある。
 地球温暖化問題については、現在、関係各省庁において知見の集積・整理や対応策の検討が進められている。温暖化のメカニズム、程度、時期及びその結果として自然環境や経済社会に生じる影響についてはいまだ不明確な点が多いが、予想される影響は世界の多数の人々や生態系に及ぶことから、早急に対応策の検討を促進することが重要である。我が国は、昭和63年11月に設置されたIPCCにおいて、第2作業部会の副議長を務めるほか、第3作業部会に設けられたエネルギーと産業サブ・グループにおいても、共同議長となり、第1作業部会への参加とあわせ、すべての作業部会に参画することとなった。また、平成元年3月に採択されたハーグ宣言は、主に地球温暖化問題に取り組むための制度的権限を整備する必要がある等の提言を行ったものであるが、これに我が国も署名し、地球温暖化問題になお一層積極的に対応していく意思を宣明したところである。
 地球規模の環境監視としては、昭和63年6月より、国立公害研究所に設置したオゾン・レーザー・レーダーによって成層圏オゾンの観測研究を始めたほか、環境庁では、宇宙開発事業団が開発研究を進めている地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS)への搭載を目指し、人工衛星を利用する成層圏オゾン等の観測システムの検討に着手することとした。
 我が国は、今後も引き続き科学的知見の集積を図るとともに、地球的規模の環境監視を進め、地球的規模の環境問題に関する国際的な検討作業に積極的に参画し、対策の具体化に貢献していく必要がある。そのため、総合的な地球環境研究・監視のための国際的協力と体制の整備を推進することが重要である。
 海洋汚染問題については、昭和63年12月から、MARPOL73/78条約のうちで船舶からの廃物による汚染防止のための規則(附属書V)が国際的に実施されたことに伴って、我が国においても、同条約を実施するため、同年7月に船舶からの廃プラスチック類の排出規制等を定めた政令が公布され12月から施行された。
 環境分野における開発途上国に対する国際協力としては、国際協力事業団(JICA)等を通じ、専門家派遣、研修員受入、開発調査等が行われ拡充されている。昭和63年度は、韓国、タイ、マレーシア、インドネシア、チリ等に専門家を派遣したほか、メキシコ市大気汚染大気汚染対策調査等を行った。また、JICAでは、昭和63年12月、開発途上国の環境問題に対する我が国の国際協力の基本的方向を示した報告書をまとめた。この報告書では、地域の生活向上と開発の持続可能性の重視等の基本的視点に立って、?環境配慮の実施、?環境関連の事業の拡充・強化、?環境関連情報の体系的整備、?援助実施機関の環境配慮実施体制の4つの課題について検討し提言を行っている。さらに、環境庁では、平成元年から、新たに開発途上国における環境保全計画の策定を支援するための調査を行うこととした。我が国は、今後とも開発途上国の環境保全により一層積極的に協力していくとともに開発援助が被援助国の環境を損なわないよう環境配慮を徹底していく必要がある。
 こうした中で、我が国は、UNEPと共催で、本年秋に「地球環境保全に関する東京会議(仮称)」を開催することとしている。この会議は、WCED報告書で示された「持続可能な開発」の実現を念頭に置きつつ、地球環境問題に関する最新の知見を集約するとともに、今後の対応のあり方について検討を行うものである。
 我が国は、健全な地球環境が我が国の持続的な発展の基盤であることにかんがみ、今後とも一層地球環境の保全に向けて積極的な貢献を行っていく必要がある。

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