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第2節 

1 新たな汚染可能性への対応

 産業活動の高度化、消費の多様化等に伴う化学物質の使用の拡大、廃棄物の性状変化等がさらに進行することが懸念される一方、トリクロロエチレン、ダイオキシン等が一般環境中で広く検出されるなど、新たな因子による環境汚染が顕在化している。
 新しい技術や製品の普及等に伴い、多種多様な化学物質や素材が使用されるようになってきているため、従来規制している物質以外のものについて、環境汚染の可能性に対して的確に対応していく必要がある。石綿、トリクロロエチレン等の有害物質は、製造、流通、使用、廃棄等を通じた各段階で環境中に排出される可能性がある。そのため、各過程で生じる汚染の可能性及びその影響に関する知見の集積やモニタリングによる汚染把握などに努める必要がある。さらに、これらの結果等を踏まえ、人の健康や生態系に対する悪影響が発生するレベルまで汚染が進行する可能性のある物質については、物質の排出規制、生産・輸入規制、使用規制等所要の対策を講じることが重要である。
 化学物質対策については、汚染の未然防止の観点から対応することが極めて重要であり、従来から化学物質環境安全性総点検調査が実施されてきたが、平成元年から更に調査の充実を図った第2次総点検調査を行うこととしている。また、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき、指定化学物質等による環境汚染を通した人の健康被害を未然に防止することとされているが、平成元年4月には、トリクロロエチレン第3物質を、これらの分解性、長期毒性、環境汚染の状況等を踏まえ、第2種特定化学物質に指定し、一層の環境汚染防止対策を進めることとした。
 我が国で大量に使用されている石綿については、昭和60年度から隔年で環境濃度の推移についてモニタリングを実施しているが、62年度に実施した発生源周辺での詳細調査の結果、石綿製品等製造工場の周辺において高濃度のデータが散見された。そのため、平成元年3月、今後の石綿製品等製造工場の石綿の排出抑制対策のあり方について、中央公害対策審議会より答申がなされた。これを踏まえ、同年3月「大気汚染防止法の一部を改正する法律案」が第114回国会に提出された。
 地下水汚染については、トリクロロエチレン等による広範な汚染が明らかとなっているほか、局地的ではあるが六価クロム等の有害物質による汚染も発生している。地下水は、いったん汚染されるとその回復が非常に困難であり、その未然防止を図ることが重要となっている。
 また、化学物質に関する事故は、時として著しい環境汚染や人間の健康被害をもたらす可能性がある。最近の化学物質による水質汚濁事故の例としては、昭和63年4月、埼玉県入間川にシアン化合物が流出した事故が挙げられるが、こうした事故を未然に防止するとともに、事故時における環境汚染の拡大の防止を図ることも重要である。
 そのため、平成元年2月、今後の地下水質保全対策のあり方及び事故時の措置について、中央公害対策審議会より答申がなされた。これを踏まえ、同年3月「水質汚濁防止法の一部を改正する法律案」が第114回国会に提出された。
 他方、近年のバイオテクノロジーの進展に伴い、今後、各分野で遺伝子組換え体の開放系利用が進むものと考えられるが、その際には、環境保全の観点から十分な配慮が必要である。平成元年2月には、環境庁の「バイオテクノロジーと環境保全に関する検討会」が、組換え体の開放系利用については段階的な安全性確認、野外試験等による生態系影響評価を行う等慎重な配慮の下に実施していくことが適当である旨の中間報告を取りまとめた。
 また、大都市圏への産業・人口の集中等に伴い都市中間の高度利用の要請が高まっており、また、空中や地下空間の利用が進められている可能性があり、それに伴う環境問題の発生が懸念されている。このうち、大深度地下については、特に大都市部において、地価の高騰、都市空間の不足等を背景として利用のための検討が進められている。地下の空間利用に伴っては、地盤沈下、温泉源への影響等の環境への影響が懸念されるため、環境への影響に十分配慮して、計画的に進める必要がある。環境庁では、専門家による「地下開発地盤環境管理検討会」を設置するとともに、大深度地下利用の環境影響に関する調査を開始した。
 さらに、水銀等の有害物質により土壌が汚染された工場等の用地が、宅地等に利用転換される際に汚染がはじめて明らかとなり問題となっている。今後も宅地需要の増大等からこうした利用転換の機会が増加していくものとみられ、環境庁では、国有地に係る土壌汚染対策について指針をとりまとめるとともに、公害防止事業団を通じて市街地の土壌汚染を防止又は除去するために行われる事業に対し低利融資を行うなどの措置を講じてきたところであるが、これからもこうした市街地土壌汚染対策を強化していく必要がある。

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