1 環境汚染対策への重点的取組
大都市圏を中心とした窒素酸化物による大気汚染は、環境基準の非達成局が数多く残されており、昭和61、62年度とその局数が増加している。そのため、環境庁は、63年12月に、東京都特別区等大都市における将来の二酸化窒素濃度の予測等を踏まえて、今後の対策の基本的なあり方を示す「窒素酸化物対策の新たな中期展望」を取りまとめた。今後は、この展望に沿って、?自動車排出ガス規制の強化のほか、低公害車の普及促進等の自動車単体対策、?物流、人流対策及び交通流対策に係る各種の公共事業や施策の促進等の自動車交通対策、?工場・事業場等に係る排出規制の徹底、規制対象施設の拡大のほか、地域冷暖房の普及促進、低公害型の機器の普及等の固定発生源対策、を含む各種の施策の一層の促進に努めることとしている。
また、当面の強化対策として、昭和63年8月に、冬季における高濃度の大気汚染に対応するため、暖房温度の適正化や出入庫車両の抑制等を内容とする「季節大気汚染暫定対策」を取りまとめたほか、63年12月を「大気汚染防止推進月間」として、広く国民等を対象に、大気汚染防止のための啓発活動を行った。
自動車排出ガス規制については、大型ディーゼルトラックの窒素酸化物排出量の15%削減、ライトバン等軽量トラックの乗用車並み規制をはじめとした規制強化を昭和63年から平成2年にかけて行うほか、ディーゼル乗用車についても、昭和63年12月、許容限度等を改正し、窒素酸化物排出量を約30%削減する規制強化を平成2年及び4年に行うこととした。
また、スパイクタイヤの使用に伴う粉じん等も環境上大きな問題となっている。環境庁が昭和63年8月にまとめた動物実験による生体影響調査結果では、肺等への異物沈着がみられること等から、今後とも粉じん発生の抑制に努める必要があるとしている。こうした中で、63年6月、公害等調整委員会においてスパイクタイヤの製造・販売中止等を内容とする調停が成立した。今後、この調停の円滑な実現を図るためにも、スタッドレスタイヤの普及等各種対策を一層推進する必要がある。
都市のオフィスビル等からの大気汚染対策としては地域冷暖房システムの導入が有効であり、環境庁は、昭和63年9月、その推進に当たっての方策等を明らかにした報告書を取りまとめた。また、公害防止事業団は、大都市地域における地域冷暖房施設の設置に対する融資を行うこととした。
さらに、公害健康被害補償予防協会に設けた基金を財源として、大気汚染による健康被害の予防に関する調査研究、ぜん息等に関する健康相談、低公害車の導入、大気浄化植樹等の健康被害予防事業を推進している。
閉鎖性水域の水質保全対策をみると、東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海の3海域については、平成元年度を目標年度とする第二次総量規制を実施しており、削減目標量達成のため、総量規制基準の適用、下水道の整備等産業系・生活系にわたる諸施策を推進している。瀬戸内海については、富栄養化の防止のため、「瀬戸内海環境保全特別措置法」に基づく燐の削減指導が、平成元年度を目標年度として実施されている。湖沼については、「水質汚濁防止法」に基づく排出規制等のほか、「湖沼水質保全特別措置法」に基づき指定湖沼が指定され、水質保全に関する施策が総合的に講じられてきたところであるが、平成元年1月、新たに中海及び宍道湖が指定され、指定湖沼はあわせて9湖沼となった。また、昭和63年8月には、公共用水域の一層の改善を図るため、中央公害対策審議会より、共同調理場、弁当製造業、弁当仕出屋及び飲食店を水質汚濁防止法の規制対象事業場へ追加すること等につき答申がなされた。この答申を受けて、同年10月から「水質汚濁防止法施行令及び瀬戸内海環境保全特別措置法施行令の一部を改正する政令」が施行された。また、ゴルフ場で使用される除草剤等の農薬による水質への影響も関心を集めているが、関係省庁、都道府県等の協力により、農薬の適正使用指導の徹底が図られている。
「公害対策基本法」に基づく公害防止計画については、平成元年3月に富士地域等6地域の計画が公害対策会議の議を経て内閣総理大臣により承認され、各種の公害対策事業等が実施されることとなった。
各種開発行為に伴う環境汚染等を未然に防止するための手段である環境影響評価については、昭和59年に「環境影響評価の実施について」の閣議決定を行い、各事業ごとの具体的な技術指針が策定されている。63年末までに、閣議決定に基づき実施された環境影響評価のうちその手続きが完了したのは40件である。