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第4節 

1 基本的考え方

 自然の生態系では、系内の各構成要素間で生命の維持に必要なエネルギーと物質の受け渡しがバランス良く効率的に行われ、系内を循環することによって、系全体の存続と安定が保たれている。また、系の構造自体が多種多様な生物の存在と環境の多様な機能の発揮を許し、その間のチェック・アンド・バランスによって自立性と安定性を保証している。
 都市の人間─環境系において生態系循環を再生し、良好な都市の環境を形成するためには、人間自らが都市活動の量と質を制御し、汚染物質の発生源での排出抑制に努めるとともに、資源・エネルギーの効率的利用と廃棄物の資源化や適正な処理を徹底して行い、環境汚染を引き起こしにくい都市のシステムを築いていく必要がある。いわば、生態系循環型の都市システムの形成を図ること、ということができよう。
 生態系循環型の都市システムの形成のためには、まず第1に、都市全体として資源・エネルギーの利用効率を高め、都市にも賦存する自然エネルギーや雨水、下水処理水その他の排水、排熱等の有効利用を図るとともに、廃棄物の発生量の削減・資源化・適正処理、オフィスビル、住宅団地や地域単位の水の循環利用などを推進していく必要がある。
 また、都市に残された自然の保全、都市緑化、自然の状態に近い河川や湧水の保護、小動物の生育環境の創出を進め、都市に豊かな自然を取り戻すとともに、それらが有している自然浄化、気候緩和、防災、土壌保全等の多様な機能を活用し、都市の生態系循環を取り戻すことが必要である。樹林地、草地、水面等の存在は、水分の蒸発散や雨水の地下浸透を通じて気温の上昇を防ぐなど都市気候の緩和に大きな役割を果たしているだけでなく、大気の浄化、アメニティの向上にも役立っている。
 第2に、こうした新しく望ましい都市システムの形成を担うのは、都市の市民自身である。都市に住み様々の都市活動を行う個人や企業が、自らの行動が環境に及ぼす影響について深く認識し、日常生活や事業活動に当たっても環境への負荷を少なくするよう常に心がけるとともに、環境美化・改善のための活動や廃棄物の回収・リサイクル運動、さらには快適なまちづくりに積極的に参加、協力していくことが重要である。
 第3に、市民の積極的な参加も得ながら、その都市や地域の望ましい環境のあり方について具体的な目標を設定したうえで、これらの施策を総合した都市の環境の形成に関する計画を策定し、その着実な実施を図ることにある。その際、都市の人間─環境系の現状を市民にもわかりやすい形で指標化していくことも重要である。
 第4に、新しい市街地の開発、都心部の再開発や水面の埋立てを伴う臨海部ウォーターフロントの開発、新たな地下空間の開発利用等新たな都市活動を誘導する開発事業については、計画段階から、生態系循環型の都市システムの形成に向けて十分な配慮がなされる必要がある。
 第5に、大都市圏を中心とした窒素酸化物等による大気汚染と生活雑排水による都市河川、湖沼、内湾、内海等の水質汚濁の問題については、人口及び諸機能の集中、市街地の外延的拡大と道路、下水道、都市公園等の都市インフラの整備との間に大きなギャップが生じ、工場・事業場等主要な固定発生源における汚染物質の排出規制を中心とした既存の行政的手段をもってしては現状を打開することがむずかしい状況であるので、長期的には「四全総」に沿って人口、産業の地方分散を強力に推進するとともに、当面の措置としては、大都市における自動車からの窒素酸化物排出による大気汚染対策を強化する一方、生活雑排水による水質汚濁の著しい都市域において、下水道の整備と並行して新たな水質改善方策を講じることを検討する必要がある。
 以下、これらの基本的考え方に沿って今後推進されるべき都市における環境政策の具体的方策を述べる。

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